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コミュニティマーケティング

食の世界企業は、なぜ今コミュニティと向き合うのか ブランドと生活者との新しい関係性

更新日:2026/09/09

食の世界企業は、なぜ今コミュニティと向き合うのか ブランドと生活者との新しい関係性

本記事は、2026年8月29日開催のCMC甲子園 in 大阪 2026における第1セッション「食の世界企業は、なぜ今コミュニティと向き合うのか ブランドと生活者との新しい関係性」のイベントレポートです。

 

ゲストスピーカー

      • 味の素株式会社 張敬成
      • ネスレ日本株式会社 定浪葵
      • ネスレ日本株式会社 髙司空

 

ファシリテーター

      • 株式会社ヤッホーブルーイング 佐藤潤(ジュンジュン)

オープニング&自己紹介

ジュンジュン:第1イニングのセッションを開始します。テーマは「食の世界企業は、なぜ今コミュニティと向き合うのか〜ブランドと生活者の新しい関係性〜」です。本日は味の素社様、ネスレ日本様をお招きし、両社のコミュニティの現在地について伺います。また、ヤッホーブルーイングも今年秋にコミュニティ立ち上げを予定しているため、当社の構想も交えて3社で議論を深めていきます。よろしくお願いいたします!

まずは自己紹介をお願いします。

張:味の素株式会社の張と申します。2020年に入社し、市場調査の業務を経験後、2024年よりファンコミュニティ「味のもト〜ク」を担当しています。本日はよろしくお願いいたします。

 

定浪:ネスレ日本の定浪です。金融機関を経て2019年に中途入社しました。1年半ほどお客様対応を担当した後、SNS運営やCS分析を経て、2021年よりコミュニティ運営を担当しており今年で6年目になります。

 

髙司:同じくネスレ日本の髙司です。2024年に新卒入社し、1年間の受電・メール対応研修を経て、2025年より定浪とともに「ネスレKen人コミュ」の運営を担当しています。

 

ジュンジュン:ヤッホーブルーイングのジュンジュンです。「よなよなエール」などのクラフトビールを作っている会社です。2012年に入社し14年目になります。これまで一貫してToC領域(EC、ファンイベント、顧客調査、コミュニティ・応援団づくり)を担当してきました。

 

本セッションは以下の4つの軸で進行していきます。

  • コミュニティを始めたきっかけ
  • 対象者(どんな方々と始めたのか)
  • コミュニティで伝えたい価値や施策
  • 次へのチャレンジ

コミュニティを始めたきっかけ

ジュンジュン: 1つ目のテーマ「コミュニティを始めたきっかけ」について、まずは張さんからお話しいただけますか。

張:味の素社では、レシピサイト「味の素パーク」を運営しており、その中にあるトークルームという位置づけでファンコミュニティ「味のもト~クを開設しています。「ほんだし®️」や「クックドゥ®️」などの商品に関する話題や、日々の「こんな料理を作ったよ」という日々の食事の写真を投稿いただき、会員さん(味ともさん)と社員が交流する場になっています。

 

実は、現在の「味のもト〜ク」に至るまで、過去に3回ほど立ち上げと中断を繰り返してきた歴史があります。

  • 2012年頃(第1期): フルスクラッチで構築しましたが、時代の流れもあって一度クローズしました。
  • 第2期: 他社様と一緒になった外部プラットフォームで展開しました。会員数は非常に多かったものの、「やはり自社のファンだけに集まってほしい、自社ファンへダイレクトに届けたい」という思いから自社プラットフォームを求めるようになりました。
  • 2023年〜現在(第3期): 現在の「味のもト~ク」をオープンし、現在4年目を迎えています。

 

部署としては「出会う・つながる・はぐくむ」というキーワードで動いています。味の素社の魅力や商品の魅力を伝える広告活動やイベントは「参加して楽しかった」という体験をとても重視していますが、「(味の素社っていい会社だな、好きだなと思っていただけるお客さまと)その後も繋がり続けたい」という思いが立ち上げの背景にあります。

ジュンジュン: 目的としてはどのようなところでしょうか。

張:元々はユーザー同士で投稿を楽しんでもらい、我々はそれを見て顧客理解に繋げる目的がメインでした。しかし、様々なお客様との交流を我々自身も経験する中で、「もっと社員が前に出た方が良いのではないか」という考えに至ってからは、社員も直接ユーザー(味ともさん)繋がることを大切にしています。コミュニティ内の熱量を高め、それが外に滲み出て「ファンがファンを呼ぶ仕組み」を作りたいと考えています。

 

ジュンジュン: 繋がり続けてファンになっていただきながら、その熱量を外へ染み出させていく目的ですね。ネスレさんはいかがでしょうか。

定浪:私たちは「ネスレKen人コミュ」というコミュニティサイトを運営しています。

「ネスカフェ」や「キットカット」などのファンが集い、「食と4つのKen」をテーマに生活の彩りとビジネス貢献を目指す場です。元々は15年前から都道府県の「県」を冠した「県人コミュ」として運営していましたが、2025年1月にリニューアルし、ローマ字表記の「Ken」へと変更しました。「県」に加え、「健康の健」「社会貢献の件」「賢人の賢」など多角的な話題を扱っています。

ジュンジュン: リニューアルのきっかけや課題感についてもお聞かせいただけますか。

定浪: 旧サイト「県人コミュ」は、形骸化と存続の危機に直面していました。企業側がテーマを提示して声を拾うだけの一方通行なサイトになっており、お客様との関係性が全く構築できていませんでした。また、高頻度で商品を使ってくださっているファンの方々が「どんなシーンで使っているのか」「どんな人なのか」という顔や暮らしが見えず、社内からも「このコミュニティは本当に意味があるのか、効果が出ているのか」と問われていました。

 

そこで、単なる意見収集の場から「お客様を共創パートナーと位置づけ、顔の見えない購買から、お顔がしっかり見える長期的な関係資産に変えていこう」とリニューアルを決意しました。現在はコンタクトセンター主導で、ウェブ上でも温かみのある対話を展開しています。コンセプトは「焚き火」で、一人でもみんなでも楽しめる温かい場所を目指し、実際に運営メンバーで焚き火をしてコラム化したりしています。

 

ジュンジュン: メーカーはどうしても流通経由でお客様の顔が見えにくかったりしますから、そうした課題意識から来ている部分は大きいですよね。張さんも共感されますか。

張:同じ気持ちです。お客様側からも「商品は知っているけれど、どんな会社・スタッフが作っているんだろう」とメーカーの中が見えづらかったのではないかと思っています。ファンミーティングなどで「こういう人が作っているんだ」と知っていただける機会ができるのは、コミュニティを運営していて本当に良かったと感じるポイントの一つですね。

ジュンジュン: ヤッホーブルーイングの現状もお話しさせていただきます。ヤッホーでは今年秋にコミュニティ立ち上げを予定しています。

きっかけとして、取扱店舗が増えて新規のお客様が大きく増えていること、そして今年10月の酒税法改正によりビール市場が盛り上がる一方で競争が激化していることがあります。

 

課題である「再想起と再飲用(トライアル後の継続)」をどう解決するかを考えた際、従来のファンイベントに、コミュニティも掛け合わせることで、新規お客さまの波を受けとめ、ロイヤルティを高めていただきたいと考えています。やりたいことは以下の3点です。

  • 心理的安全性の高い場所を作る(好きなものを素直に好きと言える場所)
  • お客様同士の繋がりによる新たな出会い・発見・気づき・楽しみ方の広がり
  • お客様と一緒になった推奨活動の滲み出し

どんな方々とコミュニティを始めているか(対象者)

ジュンジュン: 続いて「どんな対象者とコミュニティを始めているか」について伺います。

張:立ち上げ時の集客は悩むポイントですよね。登録者を集めたいと思うと、どうしてもサンプリングや無料配布キャンペーンを思いつきがちですが、そういったインセンティブ目的の場所にはなるべくならないよう、味の素社では「大型リアルイベントとの連動」を実施しました。毎年の新商品発表をイベント化して一般会員を招き、「どんな思いで商品を作っているか」を直接伝えることで、熱量の高いファンから輪を広げました。

現在では「クックドゥ®️」や「ほんだし®️」の商品担当者が直接コミュニティに登場して交流しています。アクティブな方や関心の高い方に参加をいただきつつ、他にも料理好きの方や自分から投稿することは苦手だけど商品は好きだから応援したい!といった方などへも広げていければと思っています。

 

ジュンジュン: インセンティブ目的ではなく、体験や商品への熱量が高い層から段階的に展開されているのですね。ネスレさんはいかがですか。

髙司:「ネスレ Ken人こみゅ」では、製品の既存利用者を前提としつつ、「焚き火」のような温かいコンセプトに共感してくれる方をターゲットにしています。

 

開設から半年ほど経った昨夏、チームメンバーとパートナー企業で1日ワークショップを行い、詳細なペルソナ像を一から言語化しました。居住地や家族構成、趣味、利用メディアだけでなく、参加コミュニティやそのきっかけまで細かく具体化しました。

 

ジュンジュン: 開設後に実際の利用者の動きを見ながらペルソナを言語化した点は、実効性が高く素晴らしいアプローチですね。

髙司: 社内の共通意識が固まったことで、施策検討の際も「このペルソナならどう感じるか」という明確な軸で議論できるようになりました。

ジュンジュン: ヤッホーでも、最も愛着と購買頻度の高いロイヤルカスタマー層からスタートします。立ち上げにあたり、東京・大阪・札幌で約100名のお客様と「真面目にヤッホーとクラフトビール市場の未来を考える」ワークショップを開催しました。

 

経営課題や戦略、コミュニティの目的を包み隠さず共有し、「どんな価値を共に創れるか」を数時間かけて議論しました。この高熱量な約100名の方々と共に初期コミュニティを作っていきます。

コミュニティで伝えたい価値と実施施策

ジュンジュン:3つ目のテーマとして、目的や対象者が定まった上で「どのような価値をお伝えし、どのような施策を展開しているか」についてお聞きします。張さん、お願いします。

張:企業側の「顧客理解や育成」という目的以上に、ユーザー(味ともさん)が何を求めているかが重要だと考えています。現在味ともさんからいただいている声をまとめると「あったかい」「楽しめる」「役に立つ」「だからまた訪れたい」という好循環が回っていることが大切なのではないかと思っています。

 

コミュニティを訪れて安心感を得られる場所づくりはもちろん、商品開発の担当者が「こう使うとより美味しくなる」といったコツを投稿したり、担当者が味ともさんの投稿に直接「これ美味しそうですね」などとコメントしたり。

「今使っている商品の開発担当者や社員が自分の投稿をしっかり見てくれている」という実感が投稿のモチベーションになっているのでは…と思います。運営陣も会員(味とも)さんと直接コミュニケーションを取り、共に楽しんでいます。

また、社員同士の仲の良さや和気あいあいとした雰囲気をあえて隠さずオープンに伝えることも意識しています。イベントや日々の投稿から社内の普段の雰囲気が伝わることで、「親しみが湧いた」「居心地の良い雰囲気だからこそ自分の意見が役に立つと思える」という声をいただいています。

具体的には、年末に運営と開発担当メンバーで集まった挨拶写真を投稿したり、リアルイベントでは開発担当者から直接お土産を手渡してメッセージを送るなど、体温の伝わる交流を重ねています。

 

オンラインコミュニティ上のみでいうと、以下の4軸で施策を展開しています。

  • 商品ごとの広場・ラウンジ(トークルーム): 特定商品について語り合い、開発者も参加する場所
  • 担当社員とファンの直接交流イベント: リアル・オンライン両方でのファンミーティングや地方向けライブ配信
  • 共創企画: 部屋名やデザイン決めなどの軽微なものから、新商品の見出しワークショップなど開発プロセスを共にする取り組み
  • ユーザー同士の交流促進

 

ジュンジュン: ヤッホーでも非常に共感します。当社の顧客ロイヤルティ(ゾッコン度)調査でも、愛着が高まる最後の決め手は「会社や中の人(社員の顔や姿勢)」にあります。プロダクトの魅力に加えて「人の魅力」が噛み合うとエンゲージメントが劇的に高まるため、企業や中の人のストーリーを伝えていくことは極めて重要な資産になると実感しています。それでは、ネスレの髙司さんはいかがでしょうか。

髙司:私たちが提供したい価値や施策の軸は、「人のぬくもりが感じられる対話」と、お客様同士・社員同士の「共感と発見」です。

運営メンバー2人(定浪・髙司)が顔と名前を出して日々交流しているため、「ネスレという企業」ではなく「ネスレの髙司さん・定浪さん」と親近感を持っていただけるチームになっています。

リニューアル後1年間は、定浪が手書きメッセージ「今日のコーヒータイム」を毎日投稿していました。手書きならではの温かみを伝えつつ、「今日は何の日なので〇〇を食べます。皆さんの夕飯は何ですか?」「今日の神戸の天気はこうですが、皆さんの地域はいかがですか?」といった日常の些細な会話から関係性を築いていきました。また、「ネスカフェ エスプレッソベース」などの製品を使ったアレンジレシピ投稿企画では、多数の投稿が集まり、「自分の声が運営や他のメンバーに届いている」と実感できる場づくりを徹底しています。

 

具体的には以下の4軸で施策を行っています。

  • 毎月の季節・テーマに合わせたトークテーマ設定・アンケート
  • 「金曜日のカフェタイム」投稿: 毎週金曜日にそれぞれのカフェタイムを共有し合う交流
  • 製品開発の裏側発信: 製品担当者の協力によるストーリー共有
  • 月1回のオンライン座談会・ライブ配信・リアルイベント: 双方向で対話できる環境づくり

 

ジュンジュン: ヤッホーはこれからコミュニティを開設する段階ですが、安心して参加できる心理的安全性の高い場を作ること、そしてお客様同士を繋げて新たな発見と出会いをサポートしたいと考えています。

 

さらに、市場を共に盛り上げる推奨活動のプロセスを共有することで、お客様自身の「自己効力感」を高められるような場を目指して準備を進めています。

次へのチャレンジ

ジュンジュン: 最後のテーマは「次へのチャレンジ(課題と展望)」です。実際にコミュニティを運用する中での悩みや課題、そして今後の伸び代や展望についてお伺いします。

張:冒頭の基調講演のお話そのままだと感じるほど共感しました。コミュニティの盛り上がりは現場では直感的に伝わるのですが、コミュニティを知らない方から見ると、他の広告施策などと同列で比較したときに、「売上に対して効果はあるの?」という追及にしっかり答えられないとな‥と思います。

また、会員数が急増した際にマネージャーとして「温かい雰囲気」をどう維持・管理するかという難しさには今まさに直面しています。顔が見える親密なコミュニケーションゆえの属人化や、手弁当運用からの型化・仕組み化も大きな課題です。

今後の挑戦としては、以下の2点を掲げています。

  • コミュニティ内の熱量を外(オウンドメディア、SNS)へ拡張し、「ファンがファンを呼ぶ」流れを作りたい(「味の素トークのおかげで商品が買われた」という成功事例を作る)
  • 社内の賛同者を広げる(「味ともさんの声のおかげで開発をがんばれる」という開発担当者の生の声を社内に波及させる)

 

定浪:同じ会社にいるのではないかと思うほど、悩みや課題が全く同じです。担当者としてはお客様の熱量を肌で感じて素晴らしい場だと確信していても、関わっていない社員からは「定量的な成果やROIは?」と日々問われます。

温かさや質の高さを保ちながらいかに規模を拡大し、社内での価値を向上させるかが課題です。そのため当社では、月1回経営層へレポートや数字の共有を行うほか、外部のアワードへ積極的に応募して「まず外部評価を獲得し、それを社内評価に繋げる」という工夫を行っています。

 

今後の取り組みとしては、「ネスカフェ」や「キットカット」といった個別ブランドのチームをより積極的に巻き込みながら、ブランド中心のコンテンツを立ち上げる予定です。ファン同士の会話やUGCを生み出しつつ、ブランド愛好度の向上や購買意欲の促進といった、ブランドへの直接的な貢献に繋げていきたいと考えています。

 

ジュンジュン:コミュニティ内部の盛り上がりにとどまらず、マーケティングの各チームと連携してシナジーを生み出し、全体の施策をエンパワーメントする「掛け算」を作ることが重要ですね。

ヤッホーブルーイングもまさに同じ課題意識を持っています。会員数増加やLTV向上、UGCの創出はもちろん、各マーケティング活動に良いパワーを与える掛け算構造を作り、企業の中心にコミュニティが位置づく状態を目指しています。

 

私自身、最前線でプロモーションやイベントの企画に携わっていますが、現場のマーケティング施策とコミュニティを掛け合わせることで、より大きな成果が生まれると確信しています。単体での成果証明にとどまらず、お客様と近く接することでスタッフのモチベーションが上がり、新たなアイデアが湧き出る循環を作りたいと考えています。

最後に、私たちが社内で大切にしている「『何を買いたいか』ではなく『誰から買いたいか』」という選ばれ方についてお話しします。プロダクトそのものだけでなく、人や会社、体験の思い出から選ばれることがこれから一層重要になります。AIや自動化など手法(やり方)が高度化する時代だからこそ、企業の根底にある「あり方」が問われると感じています。

 

本日お話しした3社の取り組みは、アプローチこそ異なれど、根底にある理念や情熱は深く共通していました。今後も定期的にお互いの知見を共有し、アップデートしていければと思います。本日はありがとうございました!