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イベントレポート

コミュニティマーケティング

企業は、コミュニティをどう経営に組み込み始めているのか? 〜実践事例と白書データで読み解く、「選ばれ続ける企業」の2026年の現在地〜

更新日:2026/09/09

企業は、コミュニティをどう経営に組み込み始めているのか? 〜実践事例と白書データで読み解く、「選ばれ続ける企業」の2026年の現在地〜

本記事は、2026年8月29日開催のCMC甲子園 in 大阪 2026における基調講演「企業は、コミュニティをどう経営に組み込み始めているのか?〜実践事例と白書データで読み解く、「選ばれ続ける企業」の2026年の現在地〜」のイベントレポートです。

 

ゲストスピーカー

      • オタフクソース株式会社 大内康隆
      • 日本電気株式会社(NEC) 川崎智子
      • 株式会社コミュニティマーケティング総研 長橋明子

 

ファシリテーター

      • 一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会 小島英揮

オープニングと本日のテーマ

小島:皆さん、こんにちは。「企業は、コミュニティをどう経営に組み込み始めているのか?」と題しまして、オタフクソースの大内さん、NECの川崎さん、コミュニティマーケティング総研の長橋さんをお迎えしてお届けします。ファシリテーターを務めますのは、コミュニティマーケティング推進協会 代表理事の小島です。

ここからのキーノートセッションでは、この4名で「経営とコミュニティ」をテーマにお話ししていきます。

 

コミュニティマーケティングの啓蒙活動を始めて約10年が経ちますが、現在の立ち位置はどうなっているのでしょうか。本日は、B2C・B2B双方の観点からコミュニティ開始の背景と経営との接点について深掘りします。さらに、AI時代においてコミュニティが「選ばれ続ける企業」にどのように貢献するのかを議論していきます。

長橋さんには研究者の視点から全体を俯瞰して解説いただき、オタフクソースさんとNECさんには実践者としてのリアルな事例をお話しいただきます。

 

まず最初に、私自身について簡単に触れますと、一貫してマーケティングに携わっていて、会社員時代の最後に在籍していたのがアマゾン ウェブ サービス(AWS)です。AWSのマーケティングを担当するようになって間もなく、ユーザー同士が新たな仲間を増やしていくムーブメント「JAWS-UG」が生まれました。これを「コミュニティマーケティング」と名付け、コミュニティマーケティングの勉強会(CMC_Meetup)も10年ほど続けています。会場にも起点となったJAWS-UGゆかりの方が多くいらっしゃいますね。

 

IT業界特有の話と思われがちですが、現在の市場環境全体に当てはまるテーマです。皆さんが最近購入したものや会社で導入を決めたものを思い浮かべてみてください。購入のルートは主に次の3つに分類されます。

  • 事業者からの直接の働きかけ(広告・案内)
  • 知人や同業者からの推奨(おすすめ)
  • AIによる検索・提案

 

現在、従来の直接的な広告以上に「推奨」が購買の強力な鍵となっています。スライドでいうと右側にシフトして行っていますね。そして、この推奨を加速させる仕組みこそがコミュニティです。

 

「推奨者と推奨機会を最大化する装置がコミュニティである」と捉えていただければと思います。それでは、白書の編集長である長橋さんから「コミュニティマーケティング白書」が示す最新の現在地についてお話しいただきます。長橋さん、自己紹介からお願いします。

コミュニティマーケティングの現在地

長橋:皆さん、こんにちは。長橋明子と申します。新卒でNTTコミュニケーションズに入社し、10年以上マーケティング全般に携わった後、LINE WORKS、Automation Anywhere、Asanaといった企業で勤務してきました。職種は一貫してマーケティングが中心でしたが、共通していたのは「ユーザーコミュニティの立ち上げ」です。直近3社で計6つのユーザーコミュニティを立ち上げ、コミュニティを中心に顧客が増え、事業が成長していくプロセスを実感してきました。

 

その経験を経て昨年独立し、現在はコミュニティマーケティング総研にて企業の支援や調査を行っています。同時に、コミュニティの仕組みや効果・意義を示したいと考え、慶應義塾大学の博士課程にて「B2Bにおけるブランドコミュニティ」をテーマに研究を進めています。

小島:研究成果の1つとして、今年4月に発表された「コミュニティマーケティング白書」がありますね。概要をお聞かせいただけますか?(画面のQRコードから無料版をダウンロードしていただけます)

長橋:本白書は、コミュニティマーケティングの実践者が増える一方で、全体の体系化や客観的な実態把握が進んでいなかったため、これらを可視化することを目的としたプロジェクトです。

小島:業界の有識者からも反響が寄せられています。

 

協会の理事である河村さんからは「他社状況に関する社内からの問いに答える物差しになる」、Salesforce Trailblazerを立ち上げた坂内さんからは「先人の知恵が詰まっており、関係者を巻き込み社内外のステークホルダーと対話・合意形成を行うための材料になる」と評価されていますね。長橋さん、これは狙い通りの反応でしょうか?

長橋:まさに狙い通りです。元々コミュニティを運営している方が、社内で上司や周囲を説得する際の材料として使っていただきたかったので、非常に嬉しく思っています。

小島:では、白書で明らかになった「日本のコミュニティマーケティングの現在地」のデータを教えてください。

長橋:想像以上に日本のコミュニティマーケティングが進んでいることが分かりました。関心層だけでなく、世の中一般でマーケティングやカスタマーサクセスに関わる経営者・一般社員を対象とした調査において、以下の結果が出ています。

  • 認知率:全体の7割が認知
  • 必要性の認識:過半数が「必要だと思う」「ある程度必要だと思う」と回答
  • 実施状況:42%が「取り組み中」または「検討中」

単なる一時的な流行ではなく、市場全体へ浸透している状況が伺えます。

 

小島:コミュニティ関係者の集まりだけでは見えにくいですが、社会全体で認知や必要性が大きく高まっているわけですね。

長橋:はい。一方、実践者の運用状況や課題については以下の実態が明らかになりました。

  • 体制:1名〜3名の小規模チームが多数
  • 運営目的:1位「ロイヤルティ向上」、2位「既存顧客の売上向上」、3位「口コミの拡大」
  • 課題:「コミュニティの活性化」「効果測定の難しさ」「リソース不足(専任・予算の確保)」
  • 事業貢献の実感:62%が「実感している」と回答

小島:坂内さんも「片手間の兼任ではなく専門スキルを持った専任が必要」と指摘されていましたが、活性化や効果測定、リソースに課題を感じている方は会場にも多い印象です。

続いて、海外レポートとの比較についてはいかがでしょうか?

長橋:アメリカの業界団体CMXが発表した「The 2026 CMX Community

Industry Report」と日本データを比較したところ、3つの重要なポイントが見えてきました。

・リアル(対面)への回帰

日本では69.5%が定期的なオフラインイベントを開催しています。アメリカは国土の広さから以前は「オンライン中心」が前提でしたが、今回の世界調査でも69%が「過去1年に対面イベントを開催した」と回答しました(日本と同率)。コロナ禍を経て、オンラインが普及したからこそリアルの価値が高まっているのは世界共通の傾向です。

・効果の実感とROI証明のギャップ

世界調査では84%が「組織に良い影響がある」と回答している一方、「成果をROIとして証明できているか」に「Yes」と答えたのはわずか17%でした。成果は実感しているものの、会社に対して数字で示す難しさは世界共通の課題です。

・「普及期」の日本と「選別期」の世界

日本は「検討中」含め42%とこれから拡大する普及フェーズです。一方、世界ではコミュニティ予算が「増えた(36.6%)」と「減った(22.8%)」に二極化しており、成果を出せるコミュニティへ投資が集中する選別フェーズに入っています。日本も今後この局面を迎えると考えられます。

小島:世界的な傾向を踏まえると、経営への説明責任や評価基準の確立が今後の鍵になりそうですね。

コミュニティを始めた背景と、経営との接点

小島:ここからは実践事例として、NECさんとオタフクソースさんにコミュニティ開始の背景と経営との接点について伺います。まずはお二方から自己紹介をお願いします。

大内:オタフクソースの大内です。弊社は広島に本社を置き、お好みソースをはじめとする調味料の製造・販売を行っています。私は現在、共創本部副本部長 兼 マーケティング部長を務めております。創業100年を超え、社員数は全社で約900名です。

 

商品ラインナップは約2,000アイテムあり、B2B(業務用)とB2C(家庭用)が半々です。オタフクマークがついている商品は500アイテムですが、売上全体の8割はこの自社ブランドで成り立っています。

小島:自社ブランドの施策としてコミュニティ「オタフクラブ」があるのですね。続いて川崎さん、お願いします。

川崎:NECの川崎です。フィールドマーケティング統括部に所属しています。新卒でSEとして入社後、マーケティング部門へ移動し、全社イベントやユーザー会の企画運営を担当してきました。2023年に従来のユーザー会を発展的に解消し、新たに「BluStellar Communities(ブルーステラ コミュニティーズ)」を立ち上げ、現在まで企画運営を行っています。

 

小島:NECさんの特徴的な取り組みとして、横断組織「コミュニティCoE(Center of Excellence)」の設置が挙げられますね。

川崎:NECは扱う技術や対象顧客が多岐にわたるため、コミュニティ立ち上げの戦略整理やガバナンス構築を統括する横串の組織として「コミュニティCoE」を設置しました。

 

小島:専門の組織を置く点に、経営陣の強い意志を感じます。次に、コミュニティ開始のきっかけについてお伺いします。オタフクソースさんは元々リアルなファン交流(お好み焼き教室等)を実施されていましたが、コロナ禍がきっかけとなったのでしょうか?

 

大内:はい。以前からファン作りを重視していましたが、コロナ禍でイベントが一切できなくなり長期化しました。その際、これまでの接点がイベントごとの「単発」に閉じており、継続的に繋がる仕組み(ストック型)になっていなかったことに気づきました。これがオンラインコミュニティ「オタフクラブ」開設のきっかけです。

小島:フローからストックへの転換ですね。NECさんは60年以上続いた歴史あるユーザー会を刷新されたわけですが、どのような議論があったのですか?

川崎:コロナ禍を機にお客さまの環境やコミュニケーション手段、ビジネスのスピード感が大きく変化しました。これまでの形を維持するのではなく、時代や双方のニーズに合った最適な関係性を築くため、一度発展的に解消してリセットした上で「BluStellar Communities」を立ち上げました。

 

長橋:長年続く日本の伝統的なユーザー会を一度解散し、再構築した事例は非常に珍しく先進的です。

小島:顧客との接点をデザインし直したわけですね。NECさんの資料にある「想起形成(NECを思い出してもらう関係性づくり)」は経営からの指示でしょうか、それとも現場の判断ですか?

 

川崎:双方です。経営からの示唆を受けつつ、現場で模索する中で「まずはお客さまに想起していただく関係性や場作りをしよう」という結論に至りました。

 

小島:オタフクソースさんは、リアルからオンラインコミュニティに変化した際、経営陣の受け止めはいかがでしたか?

大内:基本的にはリアルでもオンラインでも「ファン作り」という本質的な目的は同じであると認識してくれています。

小島:現場での手応えや経営へのレポートはどのように行っていますか?

大内:顧客と密に繋がっている状況を定期的にレポートしており、経営陣も評価してくれています。弊社は非上場・オーナー会社という特徴もあり、従来から普及活動の売上還元に対して厳しく追及されない文化があります。しかし、海外の「選別期」の話を聞くとあぐらをかいてはいられないため、ロジカルに説明する準備は進めておく必要があると感じています。

川崎:NECでは経営判断で立ち上がった経緯があるため、現時点では強い理解が得られています。しかし、立ち上げ初期のボーナスタイムが過ぎた後、いかにROIを説明するかが今後の課題です。数値化を進めると同時に、コミュニティの存在意義を関わっていない社内メンバーにも理解してもらう取り組みを進めています。

AI時代、コミュニティは「選ばれ続ける企業」にどう貢献するのか?

小島:続いて「AI時代におけるコミュニティの意義」について深掘りします。

 

小島:続いて「AI時代におけるコミュニティの意義」について深掘りします。ChatGPTなどのAIが情報を検索・推奨する時代において、企業発信の情報だけでなく、AIに影響するデータとしてもユーザーの「一次体験」や「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」の重要性が高まっています。この点についてどう思われますか?

 

大内:弊社でも、生活者の皆様にどれだけリアルな体験や声を投稿していただけるかを非常に重視しています。

小島:NECさんの「BluStellar Communities」での参加者同士のやり取りや、偶発的な気づきについてはいかがでしょうか?

川崎:弊社のコミュニティでは業界を超えた参加者が「AI」などの共通テーマで議論しています。企業枠を超えた議論から「思わぬ発見」や「他社事例からの学び」といった偶発的な価値が生まれており、これはコミュニティという場だからこそ提供できる強みだと実感しています。

 

小島:オタフクソースさんのコミュニティ(「#ジュー活」など)でも、ユーザーの投稿から市場の兆しが見えることはありますか?

大内:一昨年キャベツの価格が高騰した際、熱心なファンの方でもお好み焼きを作る頻度が下がっていることが投稿からすぐに把握できました。市場や生活者のリアルな変化を早期にキャッチし、経営や現場にフィードバックできる「観察の場」として機能しています。

長橋:顧客の悩みや関心をリアルタイムで観察し、そこからひらめきを得るプロセスは、AIには代替できない人間ならではの領域です。コミュニティの大きな意義の一つだと感じます。

小島:B2BとB2Cにおけるコミュニティの違いやアプローチについてはどうでしょうか?

川崎:B2Bでは最終的に「企業としての意思決定」が必要ですが、参加されているのは「個人の担当者」です。コミュニティ内での個人の信頼関係を、どう会社のパートナー選定に繋げていくかが難しさであり面白さです。

長橋:一般に「B2Bは合理性重視、B2Cは感情重視」と言われますが、研究結果からもB2Bの方が「人とのつながり」や「対人的な信頼」を重視する傾向が分かっています。営業担当者と顧客の信頼関係がベースにあるB2Bだからこそ、コミュニティの存在価値が高まっています。

クロージング

 

小島:最後に、AI時代に「選ばれ続ける企業」であり続けるために、コミュニティをどう育てていくか、登壇者の皆様から一言ずつメッセージをお願いします。

大内:AIに検索・推奨されるためにも、顧客の声や発話が欠かせません。オタフクソースとしては単なるファン作りに留まらず、「お好み焼きをどう一緒に楽しみ、新しい価値を共創していくか」を大切にしています。お好み焼きを通じて互いを応援し合える仲間を増やし、顧客とともにより良い市場を作っていく共創の姿勢こそが、コミュニティを最大の武器にすると考えています。

川崎:AIの普及により、誰もが同等量の情報へ即座にアクセスできるようになりました。その中でNECが選ばれ続けるために必要なのは「誰が言っているか」という信頼感や温度感です。その感情的な繋がりを温め続ける場として、コミュニティの価値をさらに高めていきたいと思います。

長橋:現在「AIショッパー」のように購買行動へAIが介入する時代になっていますが、最終的な購入決済の直前には「実際に使った人の口コミや評価」を確認する人が9割近くに上ります。最後の決断を後押しするのは信頼できる人のリアルな声です。川崎さんが仰ったように「誰が言うのか」が重要であり、AI時代だからこそコミュニティで育まれる人とのつながりや信頼関係が決定的な価値を持ちます。

小島:皆様、ありがとうございました。AI時代だからこそ解決したい課題、経営との接点、参加者との価値共創について多くの示唆が得られたセッションとなりました。この後も4つの事例セッションが続きますので、ご自身のビジネスに取り込める要素を見つけていただければと思います。Ask the Speakerや懇親会でのコミュニケーションもお楽しみください。ご登壇いただいた皆様に大きな拍手をお願いいたします!