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コミュニティマーケティング

「社外の学び」を組織の武器に 〜エンタープライズの『中の人』がコミュニティで得た知見の活かし方〜

更新日:2026/09/09

「社外の学び」を組織の武器に 〜エンタープライズの『中の人』がコミュニティで得た知見の活かし方〜

本記事は、2026年8月29日開催のCMC甲子園 in 大阪 2026における第3セッション「社外の学び」を組織の武器に〜エンタープライズの『中の人』がコミュニティで得た知見の活かし方〜」のイベントレポートです。

 

ゲストスピーカー

      • フジテック株式会社 上席執行役員 IT統括 デジタルイノベーション本部長 友岡 賢二
      • Vポイントマーケティング株式会社 テクノロジー戦略本部 本部長 松井 太郎

 

ファシリテーター

      • 株式会社primeNumber マーケティング本部 Contents & Media Team コミュニティマネージャー 北川佳奈

オープニング&自己紹介

北川:改めまして、本日司会を務めさせていただきます、株式会社primeNumberの北川佳奈です。普段は自社でコミュニティマネージャーをしつつ、コミュニティマーケティング推進協会の事務局も担当しています。学生時代からコミュニティが大好きで、「好きだ」と言い続けていたら今の仕事に辿り着きました。クラフトビールなどお酒が好きですので、ぜひ懇親会でも皆様とお話しできればと思っています。本日は「エンタープライズにおけるコミュニティ参加や知見の活かし方」をテーマに、皆様と一緒に学んでいきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

それでは、友岡さんから自己紹介をお願いします。

友岡:はじめましての方も多いかと思います、友岡と申します。新卒で松下電器に入社し、ここ大阪ビジネスパークで長らく働いていました。入社した翌年の1990年にこのホールを含むIMPビルができたのですが、当時はバブル全盛期で「国際協調して輸入を推進しよう」という流れで、私もウイスキーや雑貨の輸入ビジネスのサポートなども担当していました。パナソニックでは海外で通算13年ほど働きました。その後ファーストリテイリングの情シス部長を経て、現在はフジテックで情報システムの責任者を務めています。

 

また、コミュニティマーケティング推進協会のフェローも務めていますが、私自身は一貫してユーザー企業の立場です。AWS(JAWS-UG)、Google、ソラコムなどの初期エンタープライズ向けユーザー会やコミュニティの立ち上げ・リーダーシップに携わってきました。エンジニアコミュニティと大企業向けエンタープライズコミュニティの性質の違いなども踏まえ、本日はお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。

北川:ありがとうございます。続いて松井さん、お願いいたします。

松井:Vポイントマーケティングの松井と申します。共通ポイント「Vポイント」の会社で、テクノロジー全般の責任者を務めています。特にデータ基盤やAI活用に約10年間携わってきました。2年前に本部長(責任者)になった際、「自分が組織のテクノロジーの上限を決めてはいけない」と強い危機感を持ち、外から学ぼうと48歳でコミュニティに飛び込みました。

当時利用していたSnowflakeのコミュニティに参加したのをきっかけに、2024年から「Snowflake Data Super Hero」という公式アンバサダーを務めています。また、Databricksでも貢献が評価され、2つのグローバルコミュニティで発信者・アンバサダーとして活動しています。本日はユーザーの立場から、自分の体験や学びを皆さんに還元できればと思います。

 

北川:よろしくお願いいたします。ライバル関係にあるSnowflakeとDatabricksの両方でアンバサダーを務められているのは、ユーザーコミュニティならではの面白さですね。

松井:最初はSnowflakeで活動し、その後にDatabricksでも活動を始めたので、周囲から「裏切りましたね」と冗談を言われたりしました(笑)。

セッションテーマ「越境」と課題図書『ハイ・コンセプト』

北川:本日のセッションテーマは「越境」です。

 

企業や既存の所属コミュニティといった境界線を越えて活動することを指します。お二人にセッションの打診をした際、友岡さんから「事前準備は作らずジャズセッション(即興)のように楽しもう」と言われまして、実は資料がほぼありません(笑)。参加者の皆さんもハッシュタグを付けてX等でアウトプットし、記録に残す形でご協力いただければ幸いです。

松井:事前の顔合わせの際、私はしっかりアジェンダを決めたいタイプだったので「インプロビゼーション(即興)で行こう」と言われた時は正直固まりました(笑)。

友岡:お互いの音を重ね合わせながら、その場を楽しむということです。

北川:では、そのハーモニーを楽しんでいきましょう!事前に会場の皆さんの属性を確認させてください。「コミュニティマネージャー・これから運営したい方」はどのくらいいらっしゃいますか?(挙手)……ありがとうございます。では「コミュニティ参加者・リーダー」の方?……ちょうど半々くらいですね。

人生の目的と「エモい」ナラティブの発信

北川:今回のテーマにあたり友岡さんから推薦いただいた課題図書『ハイ・コンセプト』(ダニエル・ピンク著)について少し触れさせてください。

 

北川:松井さんがこの本の内容を読んだ上でXやnoteでわかりやすく発信されていますね。

 

松井:『ハイ・コンセプト』は本当に面白い本でした。物語性や共感、調和、意義といった右脳的な概念(EQ)の重要性を説いた本です。テクノロジーの戦略を伝える際にも「コスト削減」や「売上向上」という数値だけでなく、それによって「現場や人々がどう変わるのか」という物語や共感を伝えることが重要だと学びました。ただ、最終章の「意義・生きがい」というテーマだけは自分の言葉にするのが難しく、「自分の生きがいとは何か」と考え込んでしまいました。

友岡:それは「人生の目的」をあらかじめ設定していないから悩むんですよ。

松井:まさにそこを突きつけられました。友岡さんは目的を設定されていますか?

友岡:私は明確に3つの目的で駆動しています。

  1. Be useful to others:人の役に立つ道具(よく切れるハサミのような存在)になること。
  2. Make the world a better place:昨日より今日、今日より明日、子供たちの生きる世の中を良くすること。
  3. Caring for others:身近な周囲の人々に配慮し、いたわること。

この軸があるからこそ、自分の持っている知見を惜しみなくギブできますし、コミュニティ活動も単なる参加ではなく「テクノロジーで社会を良くする社会運動」として捉えられます。軸があれば、やるべきかどうかの判断に迷いません。人生の目的に沿った行動が出来るのです。

北川:ツールを提供するベンダー側としても非常に心強い関わり方です。松井さんは、コミュニティで自分の体験や感情(エモさ)を伝えるために意識されていることはありますか?

松井:2022年にSnowflakeコミュニティに入った当初、周りのレベルが高く自社の成果に自信が持てませんでした。しかし、旧Tポイント時代からビッグデータを扱ってきた苦労の歴史や、レガシーからのモダン化の泥臭いプロセスを記事にして発信したところ、非常に大きな共感を得られました。「うちも同じことで悩んでいた」「苦しいプロセスを言語化してくれて救われた」と言ってもらえたんです。誰しもが苦しんでいるプロセスの言語化自体に価値があります。最新事例やテクニックだけでなく、自分の心から出る実体験を発信することでコミュニケーションが生まれ、それが結果としてアンバサダー活動(自薦申請)への挑戦にも繋がりました。

北川:自信があるから手を挙げるのではなく、「どう貢献したいか」という想いを発信することが大切なんですね。

大企業における社外コミュニティ知見の活かし方

北川:企業のカルチャーや裏側の苦労をオープンに発信していくことは、採用や育成の面でもエンタープライズにとって重要ですよね。

友岡:大企業こそ「発信できるカルチャーである」とオープンに示すことが優秀なエンジニア採用に直結します。また、社外コミュニティでの「他流試合」を通じて外のモノサシを知ることで、「自分たちのやってきたことはイケている」という自信が生まれ、人材が大きく成長していきます。登壇してフィードバックを得る体験そのものが人を育てるのです。さらに、コミュニティ運営のノウハウは大企業の社内活性化にそのまま応用できます。数万人〜数十万人規模の企業において、情報システム部門は社内に対する「ベンダー」であり「コミュニティマネージャー」です。全員に強制的にツールを使わせるのではなく、コミュニティ理論(焚き火理論など)を使って火種を作り、波及させていく手法は社内でそのまま使えますので、徹底的にパクるべきです。

北川:社外の運営ノウハウをそのまま社内の組織運営に活かすわけですね。

友岡:『サピエンス全史』にもある通り、人が顔と名前と性格を直接把握できる集団の上限は「150人(ダンバー数)」と言われています。コミュニティや組織が150人を超えたら、1人の人間の目では管理できません。だからこそビジョン・目的の設定、ルールや仕組みで回す必要が出てきます。これは大企業の経営理念や組織運営と全く同じ構造です。

松井:コミュニティが大きくなるとリーダー1人では目が届かなくなります。私たちのコミュニティ(Snow Village)でも、アンバサダーの下に「Neighbors(隣人)」という身近な相談層を作るなど、階層構造を整えています。この設計思想はそのまま仕事にも活きています。コミュニティに参加することで、人間は給料や義務だけでなく多面的な動機で動くのだと分かり、フラットな組織作りの学びになります。

五感の共有と「ROI」を超えた共感・巻き込み術

北川:コミュニティで得た知見や体験を、参加者が明日からの日常に持ち帰って活かすためには、どんな意識や工夫が必要でしょうか?

友岡:重要なのは「五感(特に嗅覚や味覚)」を共有する体験です。オンラインとリアルの最大の違いは、同じ空間の「匂い」や「空気」を共有できる点にあります。

例えば、全員で鉄板を囲んで広島のお好み焼きをジュージュー焼きながら分け合って食べたり、対面で同じコーヒーを飲みながら話したりする体験は、嗅覚の情報と記憶とが強く結びついて深い関係性を生みます。コミュニティや場づくりの演出として、こうした心理学的・人間行動学的なアプローチを意識すると、場の熱量が格段に変わります。五感を意識した総合格闘技なんです。

松井:コミュニティに参加すると、自分がやってきた暗黙知に名前がついたり、他社から承認されたりして「明日からこれをやろう」「やってきて良かったんだ」と満たされます。その客観的な承認とモチベーションの刺激が得られる場自体が、非常に素晴らしい価値だと思います。

北川:コミュニティマネージャーにとっても「ポジティブであること」や「参加者に寄り添い感動体験を作ること」が核心だと感じます。また、上層部から「ROI(投資対効果)は?」と問われた時の伝え方についてもヒントがありそうですね。

友岡:社内で「ROIは?」と質問された時点で負けなんです。ストーリーや「おもろさ」の魅力を伝え切れていないんですね。単なる数値だけでなく、物語を通じて相手を惹きつける必要があります。一方で上司の方は「ROIは?」と聞いたらこちらも負けなんです。本質的な価値が理解できていないことがばれちゃうんですね。

例えばAWSの初期コミュニティでは、本国のアメリカ幹部を日本の熱気あふれるコミュニティイベントの最前線に放り込み、その熱量を直接肌で感じて感動してもらうことで巻き込んでいきました。ROIという言葉で思考停止している中間層を論破しようとするのではなく、トップやキーパーソンをコミュニティの現場に引っ張り込んで直接体験してもらう。この「巻き込み力」こそ、コミュニティマネージャーや大企業のリーダーが切り拓くべき新たな知平線だと思います。

北川:ありがとうございます。その巻き込みや共感の作り方について、ぜひまたコミュニティの中で皆さんと深く議論していければと思います。本日はありがとうございました!