イベントレポート
コミュニティマーケティング
“ファンがファンを呼ぶ”コミュニティの設計と現場のリアル
更新日:2026/06/29
本記事は、2026年6月19日開催のコンテンツ東京におけるセッション「“ファンがファンを呼ぶ”コミュニティの設計と現場のリアル」のイベントレポートです。最後に、当日会場でお答えしきれなかったご質問への回答を載せていますので、ぜひご覧ください。
【登壇者】
- 小島 英揮 氏(モデレーター):一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会 代表理事
- 佐藤 潤 氏:ヤッホーブルーイング コミュニティマーケティングエキスパート
- 藤井 亮 氏:日本ハム 加工事業本部 加工マーケティング推進室 リーダー
- 並木 里瑳子 氏:大創産業 グローバル情報システム部 グローバルDX企画課 主任
目次
オープニング
小島:皆さんおはようございます!本日は、コミュニティマーケティングに取り組まれている、ヤッホーブルーイングのジュンジュンさん、日本ハムの藤井さん、大創産業の並木さんにお越しいただき、「なぜ、顧客と『つながり続ける仕組み』を作るのか?」をテーマに、お話を伺っていこうと思っております。

私自身も一消費者として、3社の商品を日々楽しんでいますので、本日をとても楽しみにしておりました。
まずはじめに自己紹介からさせていただいて、その後トークテーマに移りたいと思います。
私は元々BtoBマーケティングの領域が長く、AWSのクラウド事業の立ち上げなどを経験してきました。当時、日本でのクラウド市場の爆発的な拡大を支えたのが、ユーザーコミュニティの力でした。先行ユーザーが、導入を迷っている次の方々の背中を押すことで市場が大きく育った、という強い成功体験が私のベースにあります。
この手法はあらゆる業界で再現性があると考え、私はこれを「コミュニティマーケティング」と名付けて体系化し、10年以上にわたり啓発活動や書籍での発信を続けてきました。そして2年前、この仕組みをさらに多くの企業に活用していただくため、コミュニティマーケティング推進協会を設立しました。

本日は、まさにこのコミュニティの最前線で素晴らしい成果を出されている3名から、実務に役立つリアルなヒントをたくさん引き出していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
ファンとの強固な絆を、リアルからオウンドコミュニティへ昇華させる
小島:ではまずはジュンジュン、よろしくお願いいたします。
佐藤:ヤッホーブルーイングのジュンジュンと申します。
私たちは「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションを何よりも大切にしています。日本のビール市場にもっと多様性とバラエティを創出し、ビールファンの皆様にささやかな幸せをお届けしたいと本気で考えています。日々のスタッフ全員の行動や企画が、必ずこのミッションに紐づいているかを常に確認しながら歩んできました。
実は、私たちにはまだ自社で保有するオウンドコミュニティやオンラインコミュニティというものが存在しません。これまでは、様々なリアルイベントを通じてお客様と直接繋がり、集まる場を作ることで、企業活動全体としてファンを可視化し、その熱量を直接肌で感じるという手法をとってきました。
小島:ヤッホーブルーイングさんといえばファンマーケティングで非常に有名ですから、すでに自社のオンラインコミュニティをお持ちだというイメージを抱いている方も多いかと思いますが、意外にもこれまではリアルイベントが中心だったのですね。
佐藤:おっしゃる通りです。これまではリアルイベントが場作りとして機能し、企業の成長を支えるマーケティングとして非常に有効でした。しかし、これからは会社の規模や成長スピードをさらに引き上げ、より高い目標を目指す必要があります。そのためにはリアルイベントだけでなく、仕組みとしてのオウンドコミュニティが必要不可欠であると考え、この1〜2年はテストマーケティングを重ねてきました。そして、いよいよこの秋に本格的なオウンドコミュニティを立ち上げる予定です。
現在、自主的に動いてくださる熱心なファンの方々の事例が自然発生的にポツポツと生まれ始めています。この動きをさらに加速させ、企業側から後押ししていきたいと考えています。テストマーケティングの開始当初は9名という非常に小規模なスタートでしたが、私たちのミッションへの理解度やロイヤリティが極めて高い方々と共に、この1年半じっくりと土台を築いてきました。
小島:コミュニティを立ち上げる際、最初から100人、200人と集めなければいけないと考えがちですが、コミュニティは焚き火と同じで「種火」が何よりも重要です。ヤッホーさんはこの2年間で、まさにその強固な種火を見つける活動をされていたということですね。
発売40周年のロングセラーブランドが挑む、ライトユーザーのロイヤル化とインサイトの言語化
小島:続きまして、日本ハムさんの『シャウエッセン』ファンサイトについてご紹介いただけますでしょうか。
藤井:私は新卒で日本ハムに入社し、最初の4年間は製造現場のラインで工場のスタッフと共にモノづくりに携わってきました。その後、予算管理などの実務を経て、現在は『シャウエッセン』をはじめとするハム・ソーセージ(畜肉加工品)カテゴリーのマーケティング業務を担当しています。
『シャウエッセン』は1985年に発売され、おかげさまで認知度は非常に高いプロダクトです。しかし、歴史が長い分、ロイヤルカスタマーの方々の生の声を拾い上げることが難しくなっているという課題がありました。また、ライトユーザーからロイヤルユーザーへの「態度変容」がどのようなプロセスで起こるのかを解明したいと考え、効果検証を行うための場としてファンサイトを立ち上げました。

企業名や特定の製品カテゴリーではなく、『シャウエッセン』という単一のプロダクトブランドでファンコミュニティを立ち上げている例は、業界内でもかなり珍しいケースだと思います。
私たちがファンサイトを立ち上げた目的は主に3点あります。1点目は、既存のターゲット層の高齢化に伴う市場の移り変わりに対し、新しい世代のお客様がどのようにロイヤル化していくのかを深く観察すること。2点目は、若年層に対して購買に繋げるための効果検証を行うこと。そして3点目は、ブランドロイヤリティそのものを向上させることです。
ここで私たちが最も強く意識しているのは、「ファンの方々と交流すること自体が目的になってはならない」という点です。コミュニティを通じて、企業側もお客様側も双方が新しい「気づき」を得られるような場を目指しています。
小島:以前お話しした際、藤井さんがこのコミュニティサイトを初めて見たときに「気づきの宝庫だ」と感じられたとおっしゃっていましたが、やはり従来の調査とは異なる深いインサイトが得られるのでしょうか。
藤井:そうですね。従来のアンケート調査やグループインタビュー、N1インタビューなどは、モデレーターのスキルに依存する部分が大きく、本音を引き出すのが難しい側面があります。しかし、このファンサイトでは、ファン同士の交流の中で自発的にインサイトの深掘りが自然に行われます。「お客様はこのような視点でシャウエッセンを利用し、ここにロイヤリティを感じてくれているのか」という、社員目線では気づけなかった新鮮な発見が日常的に生まれています。
小島:アンケート形式だと、お客様は無意識に「良い顧客」を演じた回答をしてしまいがちですが、日常的なリアルな発言からこそ本音が見えてきますよね。コミュニティ内では「シャウ員(社員)」という独自のファン呼称でメンバーを募集されているそうですが、どのような雰囲気なのでしょうか。
藤井:ファンの方々が持つ「商品への愛のベクトル」は、私たち社員のそれとは全く異なります。社員はプロダクトを我が子のように愛しますが、ロイヤルユーザーの方々は、シャウエッセンを人生の「相棒」のように捉えてくださっています。この愛の質の出会いを体感できるだけでも、非常に価値のある場だと実感しています。

ブランドを網羅する『DAISOの輪』、全社を巻き込む共創プラットフォームへ
小島:続いて、大創産業の並木さん、よろしくお願いいたします。
並木:大創産業の並木と申します。私は現在、グローバル情報システム部に所属しておりますが、2年前までは店舗で店長を務めておりました。現在はファンコミュニティサイトの運営と、商品の在庫検索アプリの運営を担当しています。
大創産業は、100円ショップの『DAISO(ダイソー)』をはじめ、姉妹ブランドである『Standard Products(スタンダードプロダクツ)』『THREEPPY(スリーピー)』の3ブランドを国内外で約5,800店舗展開しています。
私たちのコミュニティサイト『DAISOの輪』は、この3ブランドを愛するファンが集まる公式プラットフォームです。例えば、コミュニティのロゴマークも、昨年ファンの皆さんと一緒に案を募集し、アンケートを取りながら決定しました。基本的には、コミュニティそのものをファンの皆さんと一緒に作り上げていくスタンスを大切にしています。全国に数多くいらっしゃるファンの方々とオンライン・オフラインの両方で接点を持てるよう、様々なイベントやコンテンツを企画しています。
小島:『DAISOの輪』の非常にユニークな点は、ダイソー単体ではなく、世界観の異なる3つのブランドをあえて1つのコミュニティに包括している点ですよね。これは『シャウエッセン』さんの単一ブランド特化型とは対極のアプローチです。
並木:立ち上げ当初はブランドごとに分けるべきか非常に迷ったと聞いていますが、結果として一緒に運営して大正解でした。なぜなら、「元々はダイソーの商品が好きで入会したけれど、コミュニティ内で他の方が投稿しているStandard Productsのおしゃれな雑貨を見て興味を持ち、両方を取り扱う店舗へ足を運ぶようになった」といった、ブランド間を横断するファン同士の推奨と行動変容が頻繁に起きているからです。
小島:皆様、ここまでの3社の現状を聞いて、自社がどの企業のケースをトレースすれば良いか、なんとなくイメージが湧いてきましたでしょうか。

なぜ従来のマーケティング手法だけではモノが売れないのか
小島:ここで、ディスカッションに入る前に、現在のビジネスの現場で起きている3つの環境変化について、前提の目線を合わせておきたいと思います。
1つ目は、企業がお客様を直接説得しようとする従来型のマーケティングが、タイムパフォーマンス(タイパ)・コストパフォーマンス(コスパ)ともに非常に悪くなっている点です。生活者は、企業からの一方通行のメッセージに価値を感じにくくなっています。
2つ目は、人口減少に伴い市場や商圏が縮小する中で、新規獲得のための単発のキャンペーンや、新しいフレーバーの投入だけに頼る限界が来ている点です。これからは、既存のお客様とより深く関係を継続し、「選ばれ続けること」が何よりも重要になります。
そして3つ目が、この1〜2年で急速に台頭してきたAIの影響です。実は、AIに商品について質問する際の挙動は、従来の検索エンジンとは大きく異なります。検索であれば結果が縦に並び、リンクの順番があるため、3番目や10番目のコンテンツであっても見てもらえる可能性がありました。しかしAIは、「人間は3つ以上の選択肢を同時に見ない」という前提のもと、「あなたに最適なのはこれです」と、答えを3つ程度に絞り込んで提示してきます。
私たちはこれを「推奨集合」と呼んでいますが、AI時代においてはこの3つの枠に入らなければ、市場において「最初から存在しなかったこと」にされてしまうリスクがあるのです。
こうした激変する環境の中で、いかにして選ばれ続ける環境、仕組みを作っていくべきなのでしょうか?
テーマ① なぜ始めたのか?コミュニティ施策の目的は?
小島:ここで改めて、コミュニティマーケティングにおける重要な前提を整理したいと思います。それが「認知と想起の違い」です。

「認知」は単に名前を知っているという状態ですが、「想起」は「今日の朝食はどうしよう」と考えた時にシャウエッセンが思い浮かぶ、あるいは「おしゃれな食器を揃えたい」という時にStandard Productsが浮かぶといった、生活者の行動の瞬間に思い出される状態を指します。実際の購買行動において圧倒的な強さを発揮するのは「想起」であり、これをいかに作るかがマーケティングの鍵です。

しかし、想起は企業側が広告で一方的に叫んでも定着しません。他のお客様の「やっぱりこれが一番美味しい」「この使い方が便利」というリアルな生活者の声(UGC)に触れることで、初めて自発的な想起が生まれます。その声が集積され、拡散していく装置こそがコミュニティです。

大創産業さんでは、最初から「共創」を大きな目的に掲げていたそうですが、いかがでしょうか。
並木:はい。元々SNS上には「ダイソーパトロール」や「100均パトロール」という言葉があり、お客様が店舗で新しい商品や面白い商品を見つけて自発的に報告し合う文化(行動様式)が存在していました。しかし、企業側としてはエゴサーチを行ってもそれらの声を断片的にしか拾いきれていませんでした。
そこで、「企業側から公式に場所を提供するので、ぜひ皆さんの発見を持ち寄ってください」というスタンスで『DAISOの輪』を作りました。集まったリアルな声を商品開発や店舗運営にフィードバックしていく「共創のサイクル」を生み出すことが最大の目的です。
実際、先週発売されたばかりの『プチブロック』の新シリーズは、このコミュニティから生まれた共創商品です。コミュニティ内でファンの方々が独自にブロックを組み合わせてハイレベルな作品を投稿しているのを見て、商品開発のバイヤーやメーカー様をお呼びして3時間の座談会を開催しました。「こういうパーツのセットがあればもっと作りやすい」というファンの熱い要望をそのまま形にした商品が、今まさに全国の店頭に並んでいます。
小島:藤井さん、シャウエッセンさんではライトユーザーの引き上げからスタートし、3年目を迎えて目的が進化しているとお聞きしました。
藤井:そうですね。当初はライトユーザーがロイヤル化していくプロセスを観察することを中心に置いていました。SNSを活用した施策などで若年層を誘致し、彼らがシャウエッセンに対してどのような想起ポイントを持っているかを確認してきました。
運用のフェーズが変わった現在、新しく見出している効用は、「ロイヤルユーザーのインサイトの徹底的な言語化」です。こちらから改まって質問を投げかけても出てこないような深い本音が、ファン同士の自然な対話のフィールドであれば、自発的な言葉として溢れてきます。
一方で、コミュニティを3年運営して見えてきた課題もあります。サイトをそのまま放置してしまうと、特定の古参ユーザーだけの「慣れ合いの場」になってしまい、新規に入ってきたライトユーザーを置き去りにしてしまうリスクです。ただコミュニティを維持すること自体が目的化しないよう、明確な意図を持って運用の軌道修正を行っていく必要があります。3年目の今年は、私たちにとって真の勝負の年だと捉えています。
小島:非常に重要な視点ですね。私たちが本日皆さんにお伝えしたいのは、「コミュニティを作ること」自体はゴールではないということです。コミュニティを通じて顧客を深く理解し、共創やマーケティング施策の精度を上げるための「目的設計」こそが最も重要です。
ジュンジュンさん、ヤッホーブルーイングさんがリアルイベントで培ってきた価値を、今なぜオウンドコミュニティという形で恒常化しようとされているのか、その狙いを教えてください。
佐藤:リアルイベントを通じて私たちが確信したコミュニティの価値は、大きく4つあります。
1つ目は、ファンの方々が「私はこれが好きだ」と周囲に気を遣わずに堂々と言える「心理的安全性のある場所」を提供すること。 2つ目は、企業側がお客様の解像度(理解度)を圧倒的に高められることです。イベントでの雑談を通じて、「よなよなエールと最初に出会ったのはいつか」「なぜこれほど気持ちが高まったのか」というカスタマージャーニーを自然に把握し、製品の情緒的な価値を捉えることができました。 3つ目は、お客様同士が「好き」を語り合うことで、熱量が自己増幅していく点です。他の方のコメントを見ることで、「自分がなぜこのビールが好きなのか」が言語化され、納得感と共に愛着が深まります。 そして4つ目が「推奨」です。私たちのミッションや企業の規模(まだ小さな会社であること)を深く理解してくれたお客様が、「俺たちが口コミで広げて支えよう」と、自発的に動いてくださるようになります。
このリアルイベントで実証されてきた大切なゴールや熱量のサイクルを、オウンドコミュニティという器を作ることで、より恒常的かつパワフルに増幅させていきたいと考えています。
小島:学術的な言葉ではそれを「心理的責任感」と呼びます。「自分たちがこのブランドを支えなければならない」という当事者意識を自覚化させる装置として、コミュニティが機能するわけですね。
佐藤:そうですね。ですからミッションについても、普段からお客様としっかりと共有するようにしています。「本当に楽しいビール文化を作るので、よろしくお願いしますね」というお話もしています。
小島:丁寧にそのベクトル合わせをされながら進められているということですね。
一方で、こちらはコミュニティマーケティング推進協会の方で発行している「コミュニティマーケティング白書」のデータです。世の中でコミュニティマーケティングに向き合っている方々が、どのような目的を持ち、どう考えているかをまとめたものになります。

このデータで「期待する効果」を見ると、実施する目的として「既存の売上拡大」「ロイヤリティ向上」「口コミ促進」などが非常に高い割合を占めています。確かにその通りではあるのですが、これは「ピタゴラスイッチ」のような構造になっている点に注意が必要です。
最終的な売上拡大(KGI)に至るまでの前段階として、本来行っている施策の解像度を上げるための「顧客を観察する」といったステップが必ず存在します。そのため、目標設定としてはもう少して前の部分にリアルなKPIを置いた方が良いのです。
本日ご登壇の3社も、いきなり究極の売上拡大だけを追っているわけではありません。手前のKPIを大切にしているからこそ、結果としてお客様がカテゴリーを横断するきっかけが作れたり、施策がうまく回るようになったりしているのだと思います。このデータを見ると、期待するものと実態との間に少しギャップがあるのかなと感じますね。
また、この白書の中で最近特に期待値が高まっているのが「顧客との共創」です。大創産業さんでは、まさにこの共創の素晴らしい成果として、先週発売されたばかりの『プチブロック』の新シリーズがあるとお聞きしました。コミュニティを立ち上げて少し経った頃、ユーザーの間である変化が起きたそうですね。
並木:はい。『DAISOの輪』を立ち上げてしばらくすると、ダイソーで販売している『プチブロック』という100円のブロック玩具を、お客様が独自に何種類も組み合わせて、自分の好きなオリジナルキャラクターや精巧な建物を組み立てて投稿してくださる「作品展」のような動きがどんどん活発になっていったのです。
そこで、「ぜひこの方たちがどのような点に魅力を感じていて、次にどんな商品が欲しいのかを直接聞いてみよう」ということになり、座談会を企画しました。ダイソーの商品開発を担当しているバイヤーやメーカー様、そしてファンの方々に集まっていただき、3時間ほどじっくりと対話を重ねました。「こういうパーツのセットがあればもっと面白いものが作れる」「これを作るためにこのパーツが欲しい」といったファンの熱い要望を生かして開発された商品が、まさに先週から全国の店舗に並んでいます。まるでRPGゲームのキャラクターが作れるような、非常にワクワクするブロック作品が作れるセットです。
小島:これまではお客様が個別に色々なパーツを買い集めて作っていたものを、ファンの声をもとに最初から最適なセットとして商品化したわけですね。
ロイヤルユーザーの定義とは?
小島:ここで視聴者の方から「皆様が思うロイヤルユーザーの定義とは何か」という質問が届いています。各社の定義を教えてください。
藤井:定性的な表現になりますが、シャウエッセンにおけるロイヤルユーザーとは、仕事や学校が終わって疲れた時に、食べたいものとしての「第一想起」にシャウエッセンがある方です。つまり、生活の中のマインドシェアが高い状態です。さらに、自分だけでなく「家族やパートナーにも食べさせたい」と考え、実際にその美味しさを周囲に共有・拡散したくなる意思を持っているかどうかが、ロイヤルユーザーの要素になりうると考えます。
佐藤:私たちは「年間を通じたご購入金額(定量的指標)」と、ブランドに対する「理解度・共感度(定性的指標)」の両方を見ています。独自に「ぞっこん度」と呼んでおり、ご購入金額だけでなく、製品の機能的価値、情緒的価値、そして「企業のミッション(考え方)」そのものに共感してくれているかも重視しています。
クラフトビールの特性上、機能的な価値だけでたくさん飲んでくださる方もいますが、それだけでは一過性のお付き合いで終わってしまうリスクがあります。逆に、物理的な理由であまり多くの量は飲めなくても、「私たちの製品と会社が本当に好きで、1本飲むなら絶対にヤッホーのビールを選ぶ」という高い熱量を持ってくださっている方も、間違いなく私たちのロイヤルユーザーであり、大切なファンです。
小島:社内で「ファンを増やそう」と叫んでも、部門によってその定義がバラバラだと施策は失敗します。コミュニティの最も重要な機能は、「推奨者」と「推奨機会」の最大化です。そのハブとなってくれる存在こそが、真のロイヤルユーザーであると言えます。
各社のコミュニティのゴール設計を整理すると、以下のように美しく三者三様に分解できます。
- 大創産業(DAISOの輪):顧客の声の収集と「顧客共創」
- 日本ハム(シャウエッセン):顧客観察を通じた「顧客育成(ロイヤル化)」
- ヤッホーブルーイング:推奨の連鎖を生み出す「顧客創造」
どのコミュニティツールを導入するかは本質的な問題ではなく、この「ゴール設計」をいかにクリアにするかが成否を分けます。

テーマ② コミュニティを始めて変わったこと、変わらなかったこと
小島:次のテーマに移ります。コミュニティを始めたことで「変わったこと、変わらなかったこと」について、日本ハムの藤井さんはいかがでしょうか。
藤井:実務的な観点からリアルにお話しすると、「変わらなかったこと(現在進行形の課題)」としては、コミュニティの運用と最終的な経営指標(売上)の紐付け、およびそれを上層部へどのように説明し納得してもらうか、という点です。ライトユーザーがロイヤル化する過程やファンの声を、即座に直接的な売上の数字へと一対一で変換することは極めて難しく、ここは多くの企業が直面する壁だと思います。
しかし、「変わったこと」としては、「打ったプロモーションの効果検証やPDCAが回しやすくなった」という点です。
例えば、最近シャウエッセンの中身を美味しくリニューアルした際、単に「本数が増えました」という一過性のキャンペーンではなく、「お肉の量を増やして、よりパッツンパッツンとした美味しさを追求した」という背景を、工場長のエピソードを交えて面白おかしくコミュニティ内で発信しました。すると、広告で伝えたかった意図を、ファンサイトのユーザーがくみ取って頂いた例を多数確認することができました。 これまでのマーケティング手法では難しかった「広告がお客様にどう届き、どう行動変容を起こしたか」という定性的な効果検証を、コミュニティサイトがカバーしてくれるようになりました。これは上層部への説明論理としても、確かなファクトとなっています。
小島:海外の著名なコミュニティマーケティングのカンファレンス「CMX」でも、「離れ小島のパラダイス(孤立したコミュニティ)を作ってはならない」という言葉が強く語られていました。コミュニティを他部門から独立した組織にしては意味がなく、全社のプロモーションや広報、商品開発と連動させて初めて、真のバリューを発揮します。
佐藤さん、ヤッホーさんはこれからオウンドコミュニティを構築するフェーズですが、社内への理解浸透という観点ではいかがですか。
佐藤:企業の規模が拡大するにつれ、全員がリアルイベントに参加してお客様の生の声を聴くということが物理的に難しくなっていました。社内での顧客理解のアンテナに少しずつバラつきが出始めていた中で、オウンドコミュニティという「いつでもお客様の本音にアクセスできるプラットフォーム」ができることは、全社の顧客理解を底上げする強力なエンジンになると確信していますし、大いに期待しています。
テーマ③ ゴールに向けての現在地は?
小島:最後のテーマは「ゴールに向けての現在地」です。コミュニティマーケティングがもたらす価値は、大きく分けて「顧客理解」「顧客育成」「顧客創造」の3つの階段があります。各社は現在、どの位置にいらっしゃるでしょうか。
並木:大創産業は今、まさに真ん中の「顧客理解から顧客育成」のフェーズにいます。共創商品という具体的な成果が出たことで、社内からも「ファンの方々にこういう意見を聞いてみたい」という相談が自然と集まるようになりました。今後は、ファンを商品づくりの大切なパートナーとして育成していくことと同時に、社内に対しても「これほどブランドを愛してくれるファンがいるんだ」という気づきを与える、インナー(社員)育成の働きかけを両輪で進めていきたいです。
藤井:日本ハムとしては、「顧客理解」の土台はある程度できてきました。3年運用を続けたからこそ見えてきたデータを、今後は実際のプロダクトマーケティングや商品改良にどう確実に落とし込んでいくかという、次の階段へのチャレンジを模索しています。
小島:質問の中に「古参ユーザーが幅を効かせてコミュニティが閉鎖的になった場合や、ネガティブな発言への対応はどうすべきか」という、非常に実践的な内容が届いています。これについて藤井さん、並木さんはどのようにお答えになりますか。
藤井:ポイントは、「新規ユーザーも古参ユーザーも、全く同じ粒度・同じ目線で発言できるテーマ(問い)を設定すること」です。例えば、「シャウエッセンを使った超絶アレンジレシピ」というテーマだと、玄人の古参ユーザーが目立って新規が引いてしまいます。しかし、「子供の頃のお弁当の思い出」というテーマであれば、ファン歴に関係なく全員が同じフラットな目線で本音を投稿できます。局所的な個別の対応ではなく、運営側の「問いの立て方」によってコミュニティ全体の空気の流れをコントロールすることが大切です。
並木:『DAISOの輪』でも、今月は「ダイソーの商品で自由研究をしたことがある?」といった、誰もが参加しやすい共通のトークテーマを設けています。また、私たちのコミュニティでは、ありがたいことに古参のユーザー様が、新しく入ってきた方に対して「ようこそ!それ私も使っています」と自発的に声をかけて歓迎してくれる良いサイクルが生まれています。運営側としては、その素晴らしい流れをそっと後押ししてあげることに注力しています。
小島:問題のある箇所に直接触れて摩擦を起こすのではなく、良いサイクルを企業側がエンパワーメントしてあげることで、自然とフォロワーが増えて健全なコミュニティが維持されるということですね。
全社的なマーケティングの掛け算のハブとして、またAI時代に選ばれ続けるための「生身の体験(一次情報)」の蓄積場所として、コミュニティの価値は今後さらに高まっていくはずです。
みなさま、本日は貴重なお話をありがとうございました!
会場でお答えしきれなかったご質問にお答え!
Q:だいぞうのぬいぐるみ可愛いです。おいくらですか?
並木:770円(税込)です!
Q:従業員目線でファンサイトを作る上で大切なことはなんでしょうか。担当者がブランドそのものが大好きである必要がありますか?
小島:「担当者がブランドそのものが大好きである必要」は必須ではありません。しかしながら、ブランドや顧客への興味が強い方の方が向いているとは思います。コミュニティ運営で重要なのは「自分が好きか」よりも、「顧客がなぜ好きなのか」を理解することです。
佐藤:「大好き」である必要はないと思いますが、自社製品やサービスへの正しい理解、お客さまへ魅力的にお伝えするスキルやマインドは大切だと思います。
ファンサイトでは「お客さまの理解」が大切だと思います。ヤッホーでは、自社製品・サービスがお客さまに提供している便益(機能的便益、情緒的便益)を理解、言語化することを大切にしています。
並木:ブランドや商品を推してくださっている方とコミュニケーションを取るために、ブランドや企業が掲げる方針をしっかりと汲み取り、理解を深めておくことは、運営において不可欠な要素だと考えています。また、個人的な体験としてはファンコミュニティに関わり始めて愛のあるお声に多く触れて行く中で、よりブランドへの愛が深まりました。
コミュニティ担当者以外の社員にも同様の実感を持ってもらえるように、社内への共有にも取り組んでいます。
藤井:必ずしも好きになっていることが前提である必要はないと思います。運用していく中で、想像以上にブランドを愛してくださっている消費者の方々と直接接する機会が増えます。自社のブランド価値やブランドに対する愛を深めていけるきっかけにつながると思います。
Q:複数ブランド、単一ブランドでのメリット/デメリットが気になります
小島:単一ブランドの方が、コミュニティのコンテキストや方向性を決めやすいメリットがあると思います。
一方で、商品数が多くてもそれを束ねる世界観や、利用者層が近しければ、複数ブランドでも実装できますし、他のブランドへの接点(CEP)を作り出すことになりうるので、むしろビジネス的な効果が高くなる可能性があります。
佐藤:話が少しそれますが、そもそも自社の製品・サービスが「マスターブランド戦略」「個別ブランド戦略」「サブブランド戦略」など、どの戦略を取っているのかも理解しておく必要があるかと思いました。それぞれにメリット・デメリットがあります。ただ、コミュニティを通して、自社の取っている戦略とは異なる利用シーンやインサイトを発見するパターンもあるかと思いますので、その文脈を全体戦略やマーケティング活動に組み込んだりできると思います。お客さまは、企業が思うように行動・購買してくれる訳ではないので、コミュニティから得られるインサイトはとても有益だと思います。
並木:「DAISOの輪」は複数ブランドで運営しています。メリットは、コミュニティ参加をきっかけに他ブランドに興味を持っていただけたことです。デメリットを強く感じることはありませんが、各ブランドの世界観を好きな方向けに、投稿やコンテンツはブランド毎にフィルタリングして閲覧いただけるようにしています。
藤井:単一ブランドでやるメリットとしては濃度がかなり高いので、質のいいUGCが集まりやすい事が挙げられます。また特定の施策やPRを実施した際に、能動的にキャッチしてくださるので消費者視点から見た際のPRの見え方を把握するうえで参考になります。
デメリットとしては、単一ブランド以外の確認には使用できないため、ファンサイトの運用によってその単一ブランドに何か寄与できる価値を生み出すことをしっかり定義していかなければ継続が難しいかもしれません。
Q:コミュニティサイトでの炎上に対する対応や対策を教えてください。それが怖くて、やりたくても踏み出せない所があります。
小島:コミュニティは「参加者を選べる」という特性から、SNSより炎上しにくい傾向があります。
ただし、そのリスクをゼロにはできません。
重要なのは、
- 初期メンバーを慎重に選ぶ
- 利用規約(Code of Contact)を作る
- 誤解が起きたら早く説明する
- 過度に反応しない
の4点です。そして、炎上資質のある人に過度に固執せず、その時間、労力を本来向き合うべき「正しい」顧客に向けるべきです。
佐藤:弊社はこれからコミュニティを立ち上げるので、対応・対策のナレッジは乏しいですが、開始する段階では、以下のことを策定しておこうと考えています。
- コミュニティのグランドルール・マナーを決めておく(=NGラインを決めておく)
- 初期メンバーを選定する
ファンだったら誰も良い訳ではなく、企業側も「どういう場にしたいのか?」「どんな人に集まってほしいのか?」は、明確に持っておくことが大切かと思っています。
並木:設立時にコミュニティガイドラインを策定し、トラブル時はこれに沿って対応しています。また、商品や店舗の関わるトラブルに対しては他部署と連携します。コミュニティの趣旨と直接関係のないトラブルに対しては必要以上にコミュニティ内で対応しすぎないことを意識しています。
藤井:炎上が発生した場合に備えたガイドラインを設定しています。また、炎上ではなくトラブルも発生します。
Q:主にダイソーさん、ヤッホーブルーイングさんが該当されるかと思いますが、オフラインでのコミュニティもある中で、リアルの場(店舗)でのコミュニティ形成の必要性はどのようにお感じになりますか?またオフラインでのコミュニティとの相違点はなんだとお考えでしょうか。
小島:はい、コミュニティ運用において、オフラインは非常に重要だと考えています。
オフラインの最大の強みは、参加者同士の共通体験を作りやすく、「熱量」や「信頼関係」が生まれやすいことです。一方で、参加できる人数や地域には限界があります。
逆にオンラインは、場所の制約なく多くの人が参加できるのが強みですが、参加者同士の関係性や熱量を高めるには工夫が必要です。そのため最近は、「オフラインで熱量を生み出し、オンラインで継続する」という組み合わせが増えています。ヤッホーブルーイングのファンイベント等は、まさにこの考え方だといえます。
オフラインかオンラインかの二択ではなく、それぞれの強みを活かしたハイブリッド設計が重要だと思います。
佐藤:小島さんがコメントされていらっしゃる通りです!オフライン、オンライン、どちらにも特徴があるので、掛け合わせることが大切だと思います!
並木:コミュニティサイトは普段は出会えない全国のファン同士がコミュニケーションが取れることが魅力のオンラインプラットフォームです。一方で、オフラインの交流や体験の方が熱量や信頼を深められる実感も得ております。担当者の出張時に遠方のファンと直接お会いしたり、周年イベントなど節目の企画も実施しながら、オンラインでの継続的な接点も大切にしていく方針で運営しています。
Q:みなさんの思う「ロイヤルユーザー」というのはどのようなユーザーでしょうか?やはり、SNSなどで発言の多いユーザーでしょうか?
小島:まず、ヘビーユーザー=ロイヤルユーザーとは限らないので、購入頻度、金額だけでなく、商品だけでなく会社、ブランドの「理念にも共感」しているのかが重要ですね。
購入頻度だけでなく
- 推奨してくれる
- 理念に共感している
- 周囲に良い影響を与える
人もロイヤルユーザーです
この考え方では、ヤッホーブルーイングの「ぞっこん度」という指標が有名です。
https://note.com/junjun_yona/n/n9310261e602d
SNSなどの行動量も重要な指標ですが、その行動量、発信内容が、「ブランドを肯定的にとらえているか?」「他の人たちの共感を呼ぶものであるか?」という推奨の質(内容)も重視すべきです。
佐藤:小島さんがコメントされている通り、ヤッホーでは「ぞっこん度」という指標でお客さまの愛情を定量・定性的に捉えるようにしています!
並木:必ずしも、購入金額やSNSでの発信力・発言量が多い方がロイヤルとは限りません。コミュニティには商品や会社に興味や愛着を持ち、企業や商品と関わりをもつことに喜びを感じてくださるファンが多く集まっています。企業やブランドの理念に共鳴されていて、ともに歩んでくださる方を大切にコミュニティを運営したいと考えています。
藤井:前提として購買頻度と購買金額が高い人でそれ以外の要素で行くと定量的に図る部分が難しい要素でもありますが、
- そのブランドを推奨してくれる
- そのブランドを利用するこだわりがある
人はロイヤルユーザーに該当すると考えています。発話の多さはあまり相関しないかなと思っていますが、ファンサイトにおいてはそもそも発話を望んでいる方が多いのでその限りではないと思っています。
Q:古参が幅を効かせることを防いだり、新規の方を置いていかないために、具体的にどのような施策をされていますか?
小島:新規の人が入りやすい、発言しやすい話題やテーマ設定、問いを立てるなど、の施策が重要です。
一方で、いわゆる古参、および経験値の高い人が「ディープに語れる場所」を「別部屋」「別チャンネル」に移し、古参の方と、新規の方のギャップが同居しないようなスペース作りも有効だと思います。※こちらのスライドでは「株分け」と表現して説明しています
https://speakerdeck.com/hideki_ojima/20241211-cmcnagoya-9?slide=48
佐藤:小島さんのコメント通り、製品・サービスへの関与度に応じて、テーマ・場を分ける、という方法があるかと思います。
あと、ヤッホーでは、昔からのファンの方々(ロイヤルティの高いファンの方々)とは、「閉じた場になっては、市場が広がっていかないので、一緒になって新規の方をウェルカムしましょう!楽しいビール文化をつくりましょう!」と協力を呼び掛けたりします(価値共創)。
並木:具体的には、新規の方でも気軽に発話できる投稿テーマを定期的に発信しています。また、”古参”のメンバーが新規の参加者に声掛けをしてくださっており、事務局もそれを後押ししています。運営する中で、ファンの方にもとても助けられています。
藤井:古参の方も、新規の方も同じ粒度でコミュニケーションが取れる話題提供やかじ取りが大事になってくると思います。とはいえ、特定のUGCが欲しい場面もあり、うまくミックスして使っています。(レシピ例などは欲しい瞬間もありますし、古参の方々をくすぐる施策も必要なので)
新規が置いて行かれやすい例)
シャウエッセンの活用方法を教えてください!
→スキルやとらえ方で差が付きやすい
同じレベル感で会話がしやすい例)
シャウエッセンについての思い出を教えてください!
→高い低いが生まれにくい、同じレベル感で会話に参加しやすい
Q:ダイソーさんが情シス部門で運営しているというのが驚きでした。各社さん、どんな予算の抑え方でコミュニティを運用されているんでしょうか?
小島:コミュニティマーケティング白書によると、年間予算は100〜499万円が最も多く、30〜99万円や30万円未満という企業も少なくありません。大規模な投資をしている企業ばかりではないのが現状です。また、運営体制を見ると、2〜3名程度の兼務体制が主流で、専任担当者がいない企業も6割を超えています。そのため、多くの企業は「大きな予算を確保して始める」のではなく、既存のマーケティング活動や顧客イベント、SNS運営などと組み合わせながら、小さく始めて成果を積み上げているのが実態です。
コミュニティ施策は広告のようにお金をかければ伸びるものではなく、人との関係性を積み上げる施策なので、予算よりも継続できる体制づくりの方が重要と考えられます。
※コミュニティマーケティング白書 https://report.communitymarketing.jp/
佐藤:ヤッホーはこれからコミュニティを開始しますが、今のところ、コミュニティ運用に予算を多くかける予定はありません。コミュニティで得られた知見が、各主力マーケチームのKPIにどのように貢献できるかを定量、定性的に測りたいと考えています。(小島さんのコメントと同じくです)
並木:運営担当者は2名で、どちらも他業務と兼任です。情シスで担当しているのは、DX推進という観点でファンコミュニティマーケティングをスタートした文脈があります。また、コミュニティ事務局単独での企画だけでなく、他部署と連携しながら施策を実施しています。
藤井:運用代行を加えると費用感が上がりますので、段階的になくしていくことがベターだと思います。とはいえ、立ち上げ期に右も左もわからない状況だとトラブルのもとにもなりえますので、初期(~1年)は導入に加えて運用代行を入れることがベターかと思います。また、自社で運用しているSNSの担当者との連携も大事です(導入期)。
Q:ファンサイトを作る時は内製化されているのでしょうか。それとも外部からの意見をもらうのでしょうか。
小島:コミュニティマーケティング白書の調査によると、コミュニティ運営について約6割の企業が自社中心で進めています。一方で4割以上の企業は外部パートナーも活用しています。特に立ち上げ時には、コミュニティの目的設計や運営ノウハウについて、支援会社や経験者からアドバイスを受けるケースが少なくありません。運営そのものは内製化しながら、最初の設計や壁打ちは外部の知見を借りる、というのが現在の主流と言えます。
外部支援を利用している企業では、
- コミュニティ運営代行:33.9%
- コミュニティに関するコンサルティング:33.9%
という割合になっています。
※コミュニティマーケティング白書 https://report.communitymarketing.jp/
佐藤:ヤッホーは内製で進めています。元々、ECやファンイベントなど、直接の接点を通して「顧客理解」が高ったので、コミュニティの目的設計は社内で進めることができました。実際にコミュニティを開始した後は、運営ノウハウなど外部の方からの支援をいただく予定です。
並木:コミュニティサイトの立ち上げ・運用にあたり、外部パートナー様にもご協力いただいております。
藤井:プラットフォームは他社のサービスを利用しています。運用は自社中心で実施していますが、一部は支援していただいております。
Q:こういうフェーズ、こういう課題、などファンマーケティングを実施するのにタイミングの良し悪しがあればご教示いただきたいです。
小島:製品や市場のフェーズでは、どの時点でも実施可能だと考えますが、商品、ブランド、店舗などの「好意的な利用者」「好意的な推奨者」がない内情の場合は、まずは製品の満足度、PMFの向上にフォーカスする方が良いかと思います。そうした「好意的な利用者」や「推奨者」がいる状態から始めるのが、コミュニティ施策を成功させるうえでは重要だと考えます。
並木:弊社の課題は各種SNSやブログ等で個別に発生しているUGCを収集し切れず、せっかくいただいているお声を活かせないということでした。そういった課題への共通認識が持てたタイミングは一つの好機となるかもしれません。公式にプラットフォームを設置することで、愛のあるさまざまなご意見を直接受け取れるようになりました。
藤井:メーカー視点でお話をしますが、目的をしっかりと持って運用しないと(運用代行を依頼する場合はその落とし込みを含めて)ファンサイトを運用すること自体が目的となってしまい、導入するメリットがなくなってしまうリスクが非常に大きい仕組みだと思います。ブランドや自社商品、はたまた会社全体を対象としている中でコミュニケーションがしっかりとれている、インサイトも深堀ができてる、という状況であればファンサイトを運用するメリットは少ないかなと思いました(あくまでメーカーの場合ですが)。
- 自社のブランドが、他社と比べて何が強みなのかわからない
- どういうきっかけで利用されているかわからない
- どういう風に活用されているかわからない
- どのような過程でその商品を好きになるのか、なぜロイヤルなのかがわからない
等、インサイトにまつわる動機やきっかけが調査ではわからない場合などはファンサイトを起点としたコミュニケーションできっかけをつかめる可能性があります。ブランドロイヤリティの向上、等を当初シャウエッセンでも設定していましたが、そこだけじゃないのかなと最近は思っています。最終的なKGIが特定ブランドや商品の売上増加であることはどこも同じかと思いますが、そこに向かっていくためのアプローチは「ファンになっていただく方を増やす」だとすれば、ファンサイトは既にファンの人たちが集まるプラットフォームに近くなるため「なぜファンなのか?どうして好きなのか?」という深堀を実施し、そこから新たな気付きを得てPRやマーケティング施策に反映したほうがより実践的かなと感じております。
Q:短期的にはコストやパワーが相当かかり、KPI設定もしづらいと思います。これにたいして上層部への説明はどのようにされていますか?
小島:会社や事業目標達成上の、「どの課題」を支援する施策なのかを明確して、会社への貢献内容の合意を取るのが重要です。
こちらのスライドが参考になるかと思います。
https://www.docswell.com/slide/5Q21LV/edit#p22
佐藤:「顧客を理解すること」「自社製品・サービスと常に繋がり続けることで、ロイヤルティを維持すること」「他ユーザーとの繋がりで、ロイヤリティを維持・向上させること」「CEPの特定・強化が必要」「ロイヤルティの高いユーザーによる推奨行動で新規層へのアプローチが必要」などのコミュニティ価値と、自社の課題との紐づけが重要かと思います。コミュニティは、【自社の課題(KGI/KPI)】を解決する一つの【手段(how)】ですの、自社の課題とコミュニティとの紐づけが特定できると良いかと思いました。ヤッホーは「CEP強化」「推奨行動で新規層へのアプローチ」を課題・目的設定にしています。
並木:運営する上ではテーマである「共創」とファンとの関係性の構築を目標にしています。どちらの取り組みも今後のブランドを共につくるパートナーの醸成と捉えており、情緒的価値を高めることで、KGIとしてLTVの向上につながる旨を説明しました。
藤井:KPIを設定するにあたって、まずはファンサイトを設立しようと考えている対象ブランド/商品/会社の課題を言語化しておく必要があります。
売上増加、利益率増加 等の粗すぎる粒度では運用面でも、導入面でも躓く未来が見えますので、大きな課題からブレイクダウンしてファンサイトでなければ解決できない内容を設定していく必要があります。ファンサイトを運営するうえでのマイルストーンを設定し、例えば包材リニューアルや商品リニューアルに活かす、売り場に反映させる、プロモーションの訴求の方法をよりインサイトフルにする等の具体的な活用例もイメージしておきつつ、他社例なども例示しながら説得していく方法が有用かと思います。
Q:コミュニティ運営(ファンマーケ)の大切さを社内に理解・浸透させるためにどのような働きかけをしましたか?
小島:他部門から見て、コミュニティがどのようなバリューを提供できるかを言語化し、働きかけるのはとても重要です。社内ステークホルダーにとって、必要な存在になること、それを言語化してお伝えすること、です。コミュニティマーケティングを、従来施策の「代替策」ではなく、従来施策の効果を向上させる「増幅装置」としてみてもらうのが良いかと思います。
イメージとしては、こちらのスライドが参考になるかと思います。
https://speakerdeck.com/akiko_nagahashi/20260617-huankomiyuniteimaketeinkuexpo-chang-qiao-ming-zi-shi-hou-gong-kai?slide=41
佐藤:各部門の活動目的や課題に対し、コミュニティが貢献できることを特定・紐づけして、共有・活動支援できるようにしています。
並木:普段の業務では直接自分の企業や商品についてのお声を聞いたりお客様とコミュニケーションをとることのない社員が多いのも事実です。そのため、自分の所属する企業・ブランドを愛してくださるファンの声を社内にも届けることはひとつ社内にとっても価値のある体験になっていると考えます。
弊社では、社内コミュニティ(ファンコミュニティサイトの社内版)で定期的にファンの声を発信したり、ファンイベントに事務局以外の社員にも参加いただくようにしています。また、他部署を含む現行中の様々な施策に対しファンを巻き込んで関われる企画を打診し、実施していく働きかけも継続しています。
藤井:なかなか会社で働いていると自社のブランドが顧客の方々にどのように利用されているか、はたまた愛されているかというのは実感しにくいところがあります。
ファンサイトを見ると、本当に自分では思ってもいないぐらいのレベル感で愛を持って利用してくださる方がたくさんいらっしゃいます。そのような方々の生の声に直接触れ合えるのがファンサイトの魅力の一つだと思いますので、社内の方々にはぜひファンサイトに登録していただき、その温度感を肌で感じていただくことで自社ブランドの魅力や価値を再認識できるきっかけにつながるのではないかと思います。
Q:AIに選ばれるとありましたが、コミュニティマーケティングにおいて、AIをどのように認識し活用してますか?
小島:「AIに選ばれる」の文脈は、AIがコミュニティ由来のUGCや発信を、「経験に基づいた」有益な参照データとして取り込むのでAIが想起集合を作る際に影響を及ぼしやすい、という意味でした。一方で、企業がコミュニティマーケティング施策を行ううえで、どのようにAIを活用しているか? という意味では「コミュニティマーケティング白書」によると、現時点でのAI活用は主に
- アイデア出し
- コンテンツ作成
- 情報整理
- 運営業務の効率化
などの補助業務が中心で、活用状況は
- 一部で試験的に活用している:35.1%
- 現在は活用していないが検討中:31.8%
- 積極的に活用している:21.4%
- 活用していないし検討もしていない:11.7%
となっています。
※コミュニティマーケティング白書 https://report.communitymarketing.jp/
佐藤:コミュニティ内での発話やUGCが、AIO(AI Optimization)にも有効・重要になってくると考えています。
並木:コミュニティで得た声や経験に基づく店舗や商品の展開は、セッション内でもご紹介いただいた通りAIに選ばれやすい中身のあるデータになりうると思います。
運用面では、企画立案の壁打ちなど 実務面の効率化の為に幅広く活用しています。効率化で生まれた分の時間を、ファンとの交流に充てられればと考えています。
Q:ファンが社員になる事例はありますか?(採用での活用)
小島:はい、実際にあります。
コミュニティ立ち上げ後、熱量の高まりとともに社員との接点が増え、結果として入社を希望される方が現れるケースはよくあります。IT企業のコミュニティでは、リクルーターがコミュニティイベントに参加する場合もあります。ただし、それが発生するステージは、コミュニティが立ち上がってだいぶ温まってから、となることが多いので、採用を第一目的にコミュニティ組成をしない方が良いと思います。
佐藤:あります!
並木:実績はまだご紹介できないのですが、弊社のコミュニティでは「顔の見える関係性」をテーマに、事務局以外にもさまざまな部署の社員がコンテンツに参加しています。商品や店舗だけでは見えない、「会社の中の人」や「どんな仕事をしているのか」という部分にも触れていただける場を目指しています。これにより企業文化をご理解、関心をよせていただき、採用面に好影響が出てくるということも将来的にはあるかもしれません。
藤井:当社では特に確認されていません。
Q:コミュニティに入る顧客はロイヤルティの高い方々が多いと思うが、彼らの声のみをもってお客様の声としてよいのか?
小島:コミュニティに参加する方は、一般顧客よりもロイヤリティや推奨意向が高い方が多いです。そのため、コミュニティの声は「顧客全体の平均」ではなく、「推奨者やファンの声」として捉えるのが良いと思います。コミュニティマーケティングの目的が推奨者や推奨機会の最大化にあると考えると、その声を理解し、言語化することには大きな価値があります。一方で、もしコミュニティを作る段階でターゲットが曖昧だった場合は、特定の声だけが大きくなり、本来向き合うべき顧客像とズレてしまうリスクがあります。そのため重要なのは、「コミュニティの声を疑うこと」ではなく、「どんな顧客を集めるコミュニティなのか」を最初に明確にすることだと思います。
佐藤:「Yes」でもあり「No」でもあると思います。私たちは、ロイヤリティの高いお客さまとの対話を通して、製品との出会いから現在に至るまでの変遷(カスタマージャーニー)をたどるようにしています。タッチポイント(購入場所)、飲用種類、頻度、気持ちの変化などを捉え、新規→リピート→ロイヤルまでのCJの骨子をつくります。それを基にマーケティング戦略を検討、アップデートします。各マーケティングチームは、必要に応じて、適切なターゲット層に定量・定性調査を実施しています。ロイヤルの方々の声から全体像をつくり、さらに深掘り必要なら適切なターゲットに個別調査する。ということを行っています
並木:ファンの声すべてを受け入れ・取り入れるのではなく、あくまで企業や商品開発者の軸はぶれることなく、ファンの濃いUGCを受け取り、商品や企業に活かしていくことが重要と考えます。
藤井:あくまでロイヤルユーザーの方々の比重が高いので、顧客全体の声と認識するとすこし乖離が生まれるかと思います。
なぜそのブランドが売れているのか?という深堀をしていくにあたって、ロイヤルユーザーの理解や深堀というのは非常に大切になってくるかと思いますので、顧客インサイトの理解や情緒的価値の規定などには有用だなと思います。
Q:コミュニティサイトやファンイベントの始動タイミングでは、そのコミュニティ活動自体の認知がまずハードルになってくる印象です。どのようにスタートしましたか?
小島:多くの人を集めるところからスタートせず、正しいファン、推奨者からスタートすることが重要。人数的にはスモールスタートですが、結果としてこれが一番活動が広く知られる流れになります。
こちらのスライドにある「焚火の起こし方」に例えて説明するとわかりやすいかと思います。
https://www.docswell.com/s/hide69oz/5Y8VEE-CMCNagoya_14#p15
佐藤:「コミュニティの目的」「初期メンバーの選定」が最重要だと思います。最初はこれに合致する少数から始めていき、徐々に、その共感の輪を大きくしていくのが良いかと思います。ヤッホーは、2010年に第一回のファンイベントを開催し、40名の参加人数でした。そこから、徐々に共感の輪を広げていき、2018年に5,000名規模のイベントを開催できるようになりました。「始めた参加した方が、リピート参加してくださる」「そのリピート参加の方に誘われて、新たなお客さまがいらっしゃる」このように広がっていきました。
並木:弊社のコミュニティも、小規模・クローズドな活動からスタートしました。初期メンバー=「濃い」ファンが薪の種火になってくださっている例えがフィットしていると思います。
藤井:プレスタートを2か月ほど挟みました。モニター制度を利用いただいているユーザー限定に紹介、社員に紹介等。その後、自社のXを使って誘致を実施しました。誘引剤として、プレキャンペーンや限定のモニター等をファンサイト内で実施することで入会を促していました。最初の誘因、および継続には何もなしでは難しいところもあり、シャウエッセンファンサイトにおいては投稿やいいね、企画に参加するとポイントがたまり、一定数溜まれば限定のグッズがもらえる仕組みを作っています。
Q:コミュニティ運営、運用にかかわる社内の人数は何人くらいで、どのような役割で対応されていますか?
小島:コミュニティマーケティング白書の調査によると「2〜3名程度の兼務体制」が現在の日本企業のコミュニティ運営の主流です。
人数規模:コミュニティ運営に携わる総人数は、
- 2〜3人:40.7%(最多)
- 1人:24.0%
- 4〜9人:21.6%
- 10人以上:7.8%
- 0人:6.0%
部門としては、マーケティング部門所属が多いという結果になっています。
※コミュニティマーケティング白書 https://report.communitymarketing.jp/
佐藤:2~3名体制で開始・運用予定です
並木:弊社のコミュニティ事務局は2名です。
藤井:現在、2名体制です。
Q:どのようにファンを自社のコミュニティに誘導したのか?ヤッホーさんはどんな手法を考えているのか?お聞かせ願えればと思います。
佐藤:現在は、コミュニティ立ち上げを一緒に盛り上げてくれる初期メンバーを募るリアルイベントを開催しています。「ロイヤリティが高く、且つ能動的にヤッホーと一緒に市場を広げる活動をしてみたい」といった方々とコミュニティを立ち上げる予定です。初期は、リアルイベントを開催し、直接対話しながら、合致する方にコミュニティに参加してもらいたいと計画しています。熱量(濃度)を保ちながら、徐々に規模を大きくしていき、土台が整ってきたら、オウンドチャネル(サイト、SNS、公式レストラン、イベント等)からの集客を実施しようと思っています。
並木:クローズドのコミュニティとして50名ほどでコミュニケーションを重ねたうえで、全体公開後は店舗でのポスター設置やレシートへのQRコード掲載、自社アプリに機能として追加するなど複数の接点で参加を誘致しました。
藤井:自社のXを使って誘致を実施しました。誘引剤として、プレキャンペーンや限定のモニター等をファンサイト内で実施することで入会を促していました。最初の誘因、および継続には何もなしでは難しいところもあり、シャウエッセンファンサイトにおいては、投稿やいいね、企画に参加するとポイントがたまり、一定数溜まれば限定のグッズがもらえる仕組みを作っています。
Q:ローンチ時の誘導はどのようなことされてましたか?
佐藤・藤井:同上です。
※『シャウエッセン』ファンサイトは、相互交流で信頼を育む「Commune(コミューン)」で運用されています。


