コラム
マーケティング
これからのインフルエンス(影響力)の源泉はフォロワー数ではない。カギはその人らしさと信頼にある
更新日:2026/06/08
マーケティングでお困りの方へ
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施策は実行している。CSにも取り組んでいる。
それでも、どこか噛み合わない。
その違和感は、顧客との関係性が
積み上がっていないことかもしれません。
顧客との関係性を「面」として設計するために、
コミュニティという選択肢を検討しませんか?
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目次
インフルエンサーマーケティングの市場規模は、2026年時点で世界全体で275億ドルを超え、2034年には899億ドルに届くと予測されています。
さらに、LTKとノースウェスタン大学の共同調査では、CMO(最高マーケティング責任者)の97%が2026年にクリエイターマーケティングへの予算を増やす予定だと回答しました。
数字だけを見れば、インフルエンサーマーケティングは絶好調です。ところが、この成長の裏側で興味深いことが起きています。TikTokでは「#deinfluencing(脱インフルエンス)」というハッシュタグが15億回以上も視聴され、クリエイター自身が「これは買わなくていい」とフォロワーに語りかけるコンテンツが爆発的に広がりました(参考:NPR https://www.npr.org/2024/03/25/1239897929/influencers-deinfluencing-tiktok-instagram-shopping-environment )。
消費者は、インフルエンサーの推薦に対して懐疑的になっているようです。
インフルエンサー市場は拡大しているのに、信頼性は減っている。この矛盾が示しているのは、「インフルエンス(影響力)の質」が根本的に問い直されているのではないか、ということです。
2025年3月、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がこの変化を象徴する記事を公開しました。タイトルは「Forget Influencers. Welcome to the World of the ‘Alternatively Influential.’」。従来のインフルエンサーとは異なる、新しい形の影響力を持つ人々の台頭を伝える内容です(参考:WSJ https://www.wsj.com/cmo-today/forget-influencers-welcome-to-the-world-of-the-alternatively-influential-e058e639 )。
この記事では、WSJの報道を起点に、「フォロワー数に依存しない影響力とは何か」「なぜ今、その人らしさと信頼が影響力の源泉になるのか」「企業はこの変化にどう向き合えばいいのか」を掘り下げていきます。
それではいきましょう!
1. Alternatively Influentialとは誰なのか?
WSJの記事で紹介されているのは、「Alternatively Influential(別の形で影響力を持つ人々)」と呼ばれる存在です。
彼らは従来のインフルエンサーのように数十万、数百万のフォロワーを持つわけではありません。思想家、研究者、編集者、ニュースレターの発行者、ポッドキャストのホスト、アプリの創業者。いわゆる「SNSのためのコンテンツ」を作る人ではなく、サロン、ワークショップ、出版、イベントといった知的活動を中心にコミュニティを築いている人たちです。
こうした人材とブランドを結びつける新しいマネジメント会社として記事に登場するのが、Figuresという企業です。Figuresが契約しているのは、フォロワー数では測れないけれど、特定の領域で強い信頼と関心を集めている人々。
WSJの表現を借りれば、「インスタグラムで栄養サプリや歯のホワイトニングを宣伝するような動画は絶対に投稿しない人々」です。
ここで注目したいのは、「なぜ今このタイミングでこうした人々が企業から求められるようになったのか」という点です。
2. インフルエンサーの過剰供給問題
背景にあるのは、インフルエンサーの過剰供給です。
企業は長らくフォロワー数やリーチ数といった「規模」を重視してきました。しかし、その結果として生まれたのは、何万人ものインフルエンサーが同じフォーマットで商品を紹介するという均質化した風景です。消費者はリングライトの前で語られる推薦文に見慣れ、その裏に広告費が動いていることも知っています。
データもこの変化を裏付けています。Influencer Marketing Hubの2026年のベンチマークレポートによれば、ブランドの73%がマイクロインフルエンサー(フォロワー1万~10万人)との協業を好むようになりました。
さらに小規模なナノインフルエンサー(1,000~10,000人)は、TikTokで平均10.3%、Instagramで平均2.19%というエンゲージメント率を記録しており、メガインフルエンサーを大きく上回ります。
この数字が意味しているのは、「リーチの広さ」と「影響の深さ」は別物だということです。100万人に届いても素通りされるメッセージと、3,000人に届いて行動を変えるメッセージ。企業が後者に価値を見出し始めたのは、当然の流れかもしれません。
WSJの記事の中で、あるブランドの責任者が語った言葉がこの変化を端的に表しています。
私たちは一番大きな部屋ではなく、正しい人たちがいる部屋に行きたい。
3. 「その人らしさ」が希少資源になる時代
では、Alternatively Influentialな人々は何が違うのでしょうか。
WSJの記事が指摘する重要なキーワードが2つあります。「taste(審美眼)」と「思想の独自性」です。
これは、AIの進化と深く関係しています。生成AIが大量のコンテンツを瞬時に生成できるようになった今、「よくまとまった情報」はもはや希少ではありません。誰でもAIに指示すれば、それなりに整った商品紹介やレビューが書けてしまう。だからこそ、AIにはコピーできないもの、つまり「その人にしかない視点、スタンス、ものの見方」が際立つようになるのです。
電通クリエイティブの2025年CMOレポートは、この感覚を数字で裏付けています。調査対象となったCMOの87%が「これからのマーケティング戦略には、より多くの創造性、共感、人間性が必要だ」と回答。さらに78%が「生成AIは人間の想像力を代替することはない」と答えており、この数値は前年から13ポイント上昇しています。
つまり、AIが普及するほど、「人間らしさ」の価値が上がる。そしてその人間らしさの中でも、特に価値を持つのが「その人にしかない視点」なのです。
考えてみれば、あなたが信頼する専門家や識者を一人思い浮かべたとき、その人のフォロワー数を覚えているでしょうか。おそらく覚えていないはずです。覚えているのは、その人がどんなことを語り、どんなスタンスを持ち、どんな場面で信頼できる判断を示してきたか、ではないでしょうか。
4. 信頼の構造が変わっている
Alternatively Influentialな人々が力を持つもう一つの理由は、信頼の構造そのものが変わっているからです。
2026年のEdelman Trust Barometerは、過去5年間で「同僚やCEOなど身近な人間関係」への信頼が上昇した一方、「政府のリーダー、大手メディア、海外の企業リーダー」への信頼は低下していることを報告しています(参考:Edelman https://www.edelman.com/trust/2026/trust-barometer )。人々は、遠くの権威よりも近くの関係性を信頼するようになっている。
これはマーケティングの文脈にも直結します。マーケティングエージェンシーGALEが2026年に公開した消費者調査「Connections Over Impressions」では、回答者の72%が「自分も会話に参加できるプラットフォーム上の情報をより信頼する」と回答。80%が「友人がポジティブに語っていたら、そのブランドにもっと興味を持つ」と答えています。
信頼は「誰が言ったか」に強く依存します。そして、その「誰」は、有名人やセレブリティではなく、自分と同じコミュニティにいる「近い人」になりつつある。
Alternatively Influentialな人々が影響力を持つのは、まさにこの構造変化の中心にいるからです。彼らはフォロワーに向かって一方的に発信するのではなく、コミュニティの中で対話し、自分の考えを示し、メンバーからの反応を受け止めながら信頼を蓄積していきます。その信頼は、「この人が勧めるものなら間違いない」という行動変容に直結する力を持っています。
5. 「正しい人たちがいる部屋」をどう作るか
ここで、企業の立場に目を向けてみましょう。
先ほどの「私たちは一番大きな部屋ではなく、正しい人たちがいる部屋に行きたい」という言葉は、多くの経営者やマーケティング担当者にとって示唆的です。しかし、「正しい人たちがいる部屋」に行くだけでは十分ではありません。その部屋を自分たちで作り、育てることもまた、企業にとっての選択肢です。
Vogueの2026年のインフルエンサーマーケティング特集では、ブランドの予算配分がますます「単発の投稿」から「長期的な関係構築」へとシフトしていることが報じられています。
6〜8週間のコンテンツサイクルを組み、月次でパフォーマンスをレビューし、クリエイターとの関係を継続的に深めていく。その関係の先にあるのは、一回きりの広告効果ではなく、コミュニティの中に蓄積される信頼です。
いまや、影響力とは、「多くの人に届けること」ではなく、「信頼できる人が、信頼できる場で語ること」によって生まれるようです。
6. パタゴニアの「Don't Buy This Jacket」が教えてくれること
この文脈で思い出される企業の1つが、パタゴニアです。
2011年のブラックフライデーに、パタゴニアはニューヨーク・タイムズに全面広告を掲載しました。そこに書かれていたのは「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という、一見すると自社製品の売り上げを否定するようなメッセージでした。
広告の本文では、その1着のジャケットを作るためにどれだけの水が使われ、どれだけの二酸化炭素が排出されるかが記されていました。
このキャンペーンは、消費を煽るのではなく、消費の意味を問いかけるという行為そのものがブランドの「スタンス」を際立たせた事例です。パタゴニアは「売ること」ではなく「環境に対する誠実さ」というその企業らしさを優先しました。
そして興味深いことに、このキャンペーンの後、パタゴニアの売り上げは増加しました。「買わないで」と言われた消費者が、むしろ「この企業は信頼できる」と感じたのです。
この事例が示しているのは、「何を言うか」だけでなく「何を言わないか」「何をしないか」もまた、その人(その企業)らしさの表現であるということです。
Alternatively Influentialな人々が「宣伝しない」ことで信頼されるのと、同じ構造がここにはあります。
7. 影響力の「インフラ」としてのコミュニティ
ここまでの議論を整理してみましょう。
従来のインフルエンサーマーケティングは、「フォロワー数の多い人に商品を紹介してもらい、そのリーチで売り上げを伸ばす」という考え方でした。
しかし、Alternatively Influentialの台頭は、影響力の方程式が書き換わりつつあることを示しています。新しい方程式は、こうです。

影響力とは、フォロワー数(リーチ)、その人らしさ(独自の視点やスタンス)、信頼(コミュニティの中で蓄積された関係性)という3つの変数の関数である、というイメージです。
従来のモデルはReach(リーチ)だけを最大化しようとしてきました。しかし、AuthenticityとTrustがゼロに近ければ、どれだけリーチを広げても影響力は生まれません。逆に、リーチが小さくてもAuthenticityとTrustが高ければ、掛け算の結果として大きな影響力が生まれる。Alternatively Influentialな人々が少ないフォロワー数で行動変容を起こせるのは、この掛け算の構造で説明できそうです。
そして、AuthenticityとTrustが発揮されるためには「場」が必要です。コミュニティと言い換えてもいいでしょう。
Alternatively Influentialな人々は、いずれもコミュニティを持っています。ニュースレターの購読者、ポッドキャストのリスナー、ワークショップの参加者、Discordサーバーのメンバー。規模は小さくても、そこには対話と信頼の蓄積があります。
この視点は、企業がオンラインコミュニティを運営することの意味にも関わってきます。それは、ブランドが「その企業らしさ」を発揮し、メンバーとの間に信頼を蓄積し、影響力を構造的に生み出すためのインフラなのです。
おわりに
影響力の源泉は、フォロワー数ではない。AIが大量のコンテンツを生成できる時代に、人々が耳を傾けるのは、その人にしかない視点を持ち、コミュニティの中で信頼を蓄積してきた声です。
そして、この変化は企業にとって実は朗報です。なぜなら、「その人らしさ」を持っているのは有名インフルエンサーだけではないからです。あなたの会社のコミュニティにいる一人ひとりのメンバーが、すでにAlternatively Influentialな存在かもしれません。商品を長年使い続け、独自の活用法を編み出し、他のメンバーに惜しみなく共有してくれる人。その人のフォロワー数は知らなくても、その声が持つ影響力は、よくできた広告の何倍も強いはずです。
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