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「ネスレ Ken人こみゅ」が示す、生活者起点の信頼づくり(CCdays2025レポート)

2026/01/16

「ネスレ Ken人こみゅ」が示す、生活者起点の信頼づくり(CCdays2025レポート)
コミューン編集部

コミューン編集部

「ネスレ Ken人こみゅ」は、オープン当初から長く参加者との関係を育んできました。2025年、生活者の価値観や接点の変化を受け止めるべく提供価値・コンセプト・運営体制を再定義の上、「県人こみゅ」から「ネスレ Ken人こみゅ」へ大規模リニューアルを、コミュニティの存在意義をあらためて問い直しています。
 
本セッションでは、ネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーションズ本部 コンシューマーエンゲージメントサービス部の定浪 葵(さだなみ・あおい)氏、髙司 空(たかじ・そら)氏が、取り組みの背景や具体施策、成果、今後の展望について語りました。
モデレーターは、コミューン株式会社 日本事業責任者室 マネージャー 間藤 大地。15年にわたる対話と試行錯誤をひもときながら、生活者と“ともにつくる”信頼のかたち、そしてブランドの学習サイクルをいかに継続させていくかを探ります。

「ネスレ Ken人こみゅ」とは?

ネスレ日本株式会社は、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」というパーパスを軸に、日々の企業活動を行っています。

グローバル企業として世界共通のブランド戦略を持ちながらも、“Think Globally, Act Locally” の考え方を重視し、味の調整や価格設定、消費者コミュニケーションといった領域では、各国の現地法人に大きな裁量が委ねられています。「ネスカフェ」や「キットカット」といったグローバルブランドも、この方針に基づいて日本市場に最適化されています。

定浪氏・髙司氏が所属するコンタクトセンターでは、七つのミッションを掲げて日々業務を推進しています。

とくにコミュニティ運営において重視しているのは、「顧客接点でのポジティブ経験」と「人の温もりを感じられる対話」を提供すること。デジタルが中心となった現在においてこそ、一人ひとりの生活者に寄り添い、“温度のある関わり”を届けることが大切な役割だと考えています。

「ネスレ Ken人こみゅ」は、「食」と4つの“Ken”をテーマに全国の参加者が日常の喜びや気づきを共有し、生活を「今よりちょっと楽しく」することを目指して運営されています。

2025年の「ネスレ Ken人こみゅ」へのリニューアルでは、参加文脈の再定義、コンセプトとトーンの整理、社内外での理解促進を重点に据えました。生活者の行動データや声を改めて読み解き、どの体験が「好き」「参加したい」といった前向きな感情を引き出すのかを可視化。そのうえで、コミュニティ全体の価値を“短期施策の結果”ではなく“中長期の信頼形成”として捉え直しています。

なぜ今リニューアルなのか

ネスレにおけるコミュニティは、長く生活者に寄り添い続けてきました。オンライン施策が今ほど一般化していなかった時代から、”お客様のお声を最前線でお聞きする”という等身大の視点で交流を育ててきた点が特徴です。

とはいえ、SNSの普及や消費行動の分散により、生活者の接点は目まぐるしく変化しました。これまで通り温度感のある関係は維持しながらも、より一人ひとりの動機に寄り添う設計が求められていたのです。

定浪氏は、以下のように語ります。

<私たちコンタクトセンターがコミュニティを運営する大きな理由は、「お客様の声に最も近い立場にある」ということでした。ただ、運営が長く続くにつれ、コミュニティは徐々に企業主体の場へと傾いてしまいました。お客様の声を“集める”ことに意識が寄り過ぎてしまい、一方的なコミュニケーションになっていたんです。

加えて、社内からも「このコミュニティ、本当に意味があるの?」という声が上がるようになり、サイトは存続の危機に陥りました。私自身も「本当にお客様と向き合えているのか」と自問自答する日々が続きました。

そこで私たちは、コンタクトセンター主導という体制はそのままにコミュニティの意義そのものを根本から見直すことにしました。お客様の声を“傾聴するだけ”で終わらせず、この場を通じてお客様とブランドがしっかりつながれるようにしたい。人と企業、そして社会との関係を広げていく“ハブ”のような存在になりたい。そんな思いを持って、コミュニティの再構築に踏み出しました>

コミュニティ価値の再設計、3つの取り組み

リニューアルにあたり、ネスレ日本が最初に着手したのは「参加者にとって価値ある体験とは」を丁寧に可視化することでした。定浪氏は、以下のように語ります。

コミュニティ価値の再定義

定浪氏
<一つ目は、「ネスレとユーザー様にとってコミュニティがどのような価値を持っているのか」を改めて調査することでした。

長年続いてきたコミュニティではあったのですが、社内では価値が見えづらく、先ほど申し上げたように閉鎖の危機にまで直面していました。そこで私たちはまず、参加者と非参加者の両方に向けてメールでアンケートを行いました。

その結果クリック数は非参加者の約18倍、回答者数は約20倍という非常に大きな差が出ました。コミュニティの参加者はそもそも企業活動への関心が高く、自発的にネスレの情報に触れてくださる方が多いということが、改めて数字として確認できたのです。また、「ネスカフェ」や「キットカット」などのブランドに対するロイヤルティの高さやNPSも、コミュニティ参加者のほうが高いことが分かりました>

コンセプトの立て直しと再浸透

二つ目の取り組みは、「お客様を巻き込みながらコミュニティのコンセプトを立て直し、それをしっかり浸透させていくこと」でした。

定浪氏
<コミュニティを大切に育ててくださったお客様の意思を無視してリニューアルすることは、とても失礼だと感じていました。そこで、アンケートや座談会を通じてお客様の声を直接聞き、新しいコミュニティの方向性についてアイデアを募りました。

その中で、旧名称である「県人こみゅ」に愛着を持ってくださる方がいる一方で、もっと幅広いテーマでコミュニケーションしたいという声も見えてきました。そこで私たちは、都道府県の「県」からローマ字の“Ken”に進化させ、複数の意味を持たせる方向へ踏み出しました。

たとえば、健康の「Ken」では食やウェルビーイングの話題を扱い、賢い人の「Ken」ではちょっと役立つ知識をシェアし、社会貢献の「Ken」ではサステナビリティやボランティアといったテーマを扱えるようにしました。

ブランド縛りを外し、お客様自身が語りたくなる“余白のある空間”として再設計した形です。これらのテーマは、ネスレが掲げるパーパスとも強くつながっている内容だと感じています>

定量・定性的な分析

三つ目の取り組みが、成果をしっかり把握し、改善を続けられるようにするための「定量・定性的な分析」です。

定浪氏
<日々つながる場づくりを意識してきた結果、参加率やアクション率といった指標は、同規模の一般的なファンコミュニティと比較しても非常に高い水準を維持できています。通常、リニューアル後は徐々に数字が落ちていくと聞いていますが、私たちのコミュニティでは高い水準を安定して保つことができました。

運営開始から約数ヶ月半のデータでは、ログイン数が2,414回に達した方もいらっしゃいました。これは1日平均15回ログインしてくださる計算になります。

投稿は168件、コメントは1,283件で、1日8回以上のペースで投稿されるなどコアなファンの方々が自走し始めている状況です。少数精鋭でもしっかりと活発に回るコミュニティへ進化していると感じています。

定性的にも、人の温もりを大切にした対話を続けたことで、お客様がネスレのアンバサダーのような存在になってくださる事例も生まれました。

髙司氏
<私自身、日々コミュニティでコメントや投稿をやり取りする中で、本当に多くのお客様が運営チームのことを思ってくださっていると実感しています。
 
「応援しています」「無理せず頑張ってくださいね」といった温かい言葉をいただくことも多く、こちらが励まされる場面も少なくありません。

私は趣味でお菓子作りをしているので、「ネスカフェ」製品を使った手作りのお菓子をコミュニティに投稿することがあります。すると、「髙司さんのお菓子を食べるのが夢です」といったコメントをいただくこともあって驚きました。お客様と企業の担当者という関係を超えて、“一人の人間としてつながれているんだな”と感じられる瞬間です>

コンタクトセンターがコミュニティを実施すべき理由

多くの企業では、コミュニティ運営を担うのはコンタクトセンターではなく、CRMチームやファンマーケティングの専門部署であることが一般的です。

しかし、ネスレ日本ではコンタクトセンターが主体となってコミュニティを運営しています。日々お客様の声に最も近い立場にいるからこそ、生活者のリアルな感情を捉え、温度のあるコミュニケーションをつくり出せるという強みがあります。

髙司氏は、以下のように語ります。

特定のブランドに限定されない対話ができる

<コーヒーが好きな方、チョコレートが好きな方、ネスレという企業そのものに愛着をもってくださる方など、さまざまなお客様が集まって自由に会話できる場になっています。

商品に関する話題だけでなく、日常の出来事や身近なエピソードまで、お客様から自発的に投稿していただける温かい空間になっており、私たちからの問いかけに答えていただくだけでなく、お客様のお話に私たちが応えるという“双方向のコミュニケーション”がしっかりと生まれています>

一過性ではないコミュニケーションができる

髙司氏
<商品やブランドを中心にしたコミュニティの場合、その商品の販売終了や旬の終わりとともに盛り上がりも低下してしまうことがあります。

一方で私たちのコミュニティは、特定ブランドに依存しないため、商品寿命に左右されず、企業とお客様が長期的に関係を育て続けられます。これはコンタクトセンターが運営する大きな強みだと感じています>

寄り添ったコミュニケーションができる

髙司氏
<私も定浪も受電経験があり、お客様対応の実践で培った姿勢をそのままコミュニティに活かしています。温かみのある対話を常に心がけ、コンタクトセンターが運営していることをしっかり伝えることで、「この商品どこで買えますか?」といった問い合わせも自然にコミュニティ内に寄せられます。そうした声には部署内で迅速に連携し、スムーズに回答できる体制を整えている点も、私たちならではの価値だと思っています。

このように、コミュニティを介してお客様と企業をつなぐことは、コンタクトセンターの本質的な役割とも重なる部分が多く、だからこそ私たちが運営する意味があるのだと、日々実感しています>

今後の展望について

リニューアルを経て、「ネスレ Ken人こみゅ」は次のステージに向かおうとしています。これまでの取り組みで培った“日常と地続きの関係性”を基盤に、コミュニティは 参加者とともにつくる循環 をいっそう強めていきます。

髙司氏は今後の展望について「お客様にも運営にご参画いただき、より自走するコミュニティを目指してまいりますと語ります。コミュニティが企業主導ではなく、生活者とともに育っていく場へ進化することで、関係性はより強く、自然に深まっていくという考えです。

一方、定浪氏は「私はまだ一度もお客様と直接お会いしたことがありませんので、今年こそはオンラインだけでなく、リアルでもお話しできる機会をつくりたいと思っています」と語り、つながりのあり方を広げていく姿勢を示しています。オンラインとリアルの両方で継続的にコミュニケーションを重ねることで、より強固な信頼関係を築き、会社としても価値のあるコミュニティへ成長させたい。そんな決意が感じられます。

「ネスレ Ken人こみゅ」ここまでの歩みと未来への構想には、生活者とともにコミュニティを育て続けるという、一貫した姿勢が宿っています。急がず、丁寧に、しかし確かに関係を紡いでいく。その積み重ねこそがブランドへの信頼を深め、時間とともに関係が熟成していくプロセスそのものが、コミュニティの価値であるといえるでしょう。