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マーケティング

再春館製薬所が描く「愛されサイクル」。顧客の信頼を成長の原動力に(MarkeZineDayレポート)

2026/03/04

再春館製薬所が描く「愛されサイクル」。顧客の信頼を成長の原動力に(MarkeZineDayレポート)

2025年9月11日、MarkeZine Dayにて開催されたセッション「顧客との信頼関係が成長の原動力。再春館製薬所が描く“愛されサイクル”」では、ドモホルンリンクルを展開する株式会社再春館製薬所 ファンマーケティングマネージャーの田中真希氏が登壇。顧客との信頼関係をいかに事業成長へと結びつけているか、その実践を語りました。
 
モデレーターを務めたのは、コミューン株式会社 Community Lab 所長の黒田悠介です。顧客とのつながりを可視化・育成・創造する「信頼起点経営」を提唱する立場から、再春館製薬所の事例をひもときながら、愛されるブランドが持つ本質的な強さ──すなわち“顧客が企業を育てる循環”のあり方を探りました。

信頼を経営資源に変える“愛されサイクル”

リピート率94%、10年以上の愛用者が全体の6割。この数字の背景には、単なる顧客満足を超えた「関係の深さ」があります。

再春館製薬所は、ドモホルンリンクル誕生50周年の翌年となる2025年「ポジティブエイジカンパニー」という新たなビジョンを掲げました。「明日が楽しいと思える毎日をつくる」という理念のもと、顧客の声を起点とした商品開発にとどまらず、日々1万件に及ぶ顧客とのコミュニケーションを通じて得られる「生の声」を、製品設計やサービス改善に継続的に反映。単なるフィードバックの収集ではなく、顧客と一緒になってブランドの価値を磨き続けています。

今回のセッションでは、その象徴的な取り組みである“愛されサイクル”がテーマとなりました。

創業以来、同社は「人も自然の一部である」という漢方理念のもと、画一的な正解を押しつけるのではなく、個々の声に向き合う姿勢を大切にしてきました。その必然として「お客様の声こそすべての基本」と捉え、商品やサービスを磨き続けています。

しかし時代がオンラインへと移行するにつれ、顧客との双方向コミュニケーションの機会は相対的に減少しました。そうした変化の中で再春館が取り組み始めた「愛されサイクル」は、新たな挑戦というよりも、創業以来大切にしてきた顧客との関係性を、現代にふさわしい形であらためて確かなものにしていくための取り組みでした。信頼をもう一度、時代に適応したかたちで築き直そうとする強い意思が、その背景にあります。

「お客様の声を、ただ受け取るだけでなく、変化として返せる距離に置き続けること。その循環を守ることが、愛されるブランドとしての責任だと思います」と田中氏は語ります。

顧客接点の消失から始まった“再定義”

「私たちはこれまでも、お客様と向き合いながら商いをしてきました。かつては電話でのコミュニケーションが中心で、毎日のようにお客様と直接お話ししていました。

ご注文をいただくだけではなく、『最近お肌の調子はいかがですか?』『どうしてこのタイミングでご連絡くださったのですか?』と、自然と会話が生まれる。その一つひとつがインタビューのようで、お客様の暮らしや気持ちを深く理解できていたんです」

しかし、状況は大きく変化しました。時代の流れとともに、注文の大半がオンラインに移行していったことで、双方向のコミュニケーション量も徐々に減少。多くのお客様がWebサイトからスムーズに注文できるようになった反面、『なぜ今ご購入されたのか』『どうして少し離れてしまったのか』といった背景が見えづらくなったそうです。

 「社内では次第に、“お客様がわからない”という言葉を耳にするようになりました。お客様が何を望まれているのか、どう感じておられるのかが数字だけでは掴めない。そんなもどかしさが広がっていました。

でも、直接お話をするとまったく違うんです。『ドモホルンリンクルが大好き』『再春館製薬所の理念にすごく共感している』とおっしゃってくださる方ばかりでした」

この“顧客の姿が見えない”という危機感こそが、再春館製薬所の新たな「愛されサイクル」誕生の原点でした。田中氏は当時の葛藤を率直に語ります。
 
「全国のお客様にお会いして伺ったら多くの方がこうおっしゃるんです。『周りに使っている人がいないから、自分からは話しづらい』と。その言葉の背景を、もっと深く伺っていくと『年齢的に、それぞれ化粧品へのこだわりがあるから勧めづらい』『決して安価な商品ではないから、もしかしたら自慢していると思われるかも』『シワやシミのケアを一生懸命していると思われるのが少し恥ずかしい』など。

皆さんがそう感じて口に出さなければ、周りに“使っている人”は見えません。隣の席の方も使っているのに、お互いに話していない。そんな状態が起きていたのです」

田中氏が出した答えはCtoC、つまり“お客様同士がつながる場”の創出でした。 

「これまでのように企業から顧客へ一方向につながるだけでは、声の一部しか拾えなくなっていると感じました。まず必要なのは、安心して本音を共有できる心理的安全性。その土台があってこそ、お客様同士が自然につながるCtoCのコミュニケーションが生まれ、より率直な声が立ち上がってくるのではないかと思ったのです」

CtoCの熱量がブランドを動かす

「以前はオフラインの『お手当講習会』という形で、私たちからお客様にスキンケア方法をお伝えする場を設けていました。そこに「お客様同士の交流」という要素を意図的に組み込み、お客様同士が語り合う場をつくろうと決めたんです

ドモホルンリンクルを愛用するお客様同士が製品の感想や肌の変化を語り合うなかで、自然と笑顔が広がっていったといいます。

「『同じ商品を使っている人、こんなにいるんだ』『肌がきれいな人が多い』──そんな声が次々と上がって、どんどん会話が広がりました」

この体験が、オンラインコミュニティを立ち上げる決定打になりました。まずはLINEオープンチャットを試験的に運用したところ、予想以上に活発なやり取りが生まれたといいます。

 「LINEオープンチャットを立ち上げたところ、お客様同士が『この間はありがとうございました』と声をかけ合いながら会話を始めてくださって、手応えを感じました。そこで、『じゃあ、きちんとしたコミュニティにしていこう』と決めた経緯があります」

再春館製薬所は、過去にもコミュニティを立ち上げたことがあったのですが、そのときはうまくいかず結果的にクローズしてしまったそうです。

「一度はドモホルンリンクルへの愛が高じるあまり、一部のお客様がマウントを取るようになってしまったり、逆にただ人を集めるだけになってしまってキャンペーンがないと動かなくなったり。だから今回は、同じ失敗はしないと決めていました」

「交流会などでお客様とお会いすると、『この方は本当にドモが好きで、私たちの理念にも共感してくださっているな』というのが、自然と伝わってきます。そういう方々に、私自身が1on1でお声がけに行きました。 

『こういうコミュニティを立ち上げたいと思っている。ただ、社員だけでなく、お客様と一緒につくっていきたい。ぜひ一緒に盛り上げてもらえませんか』と、スカウトするような形です。北は北海道まで行きました」

こうして誕生したのが、再春館製薬所の“ファーストクルー”です。ファーストクルーを中心に、コミュニティは着実に拡大していきました。新たな参加者が加わると、既存のメンバーが自発的に歓迎のコメントを送り合い、スキンケアの工夫や使い方を共有する。その連鎖が、企業が過度に介入しなくても“温度のある関係性”を育てていきました。

自費にも関わらず、熊本に1,000人のファンが!

再春館製薬所のコミュニティは、オンラインだけで完結するものではありません。田中氏は、その狙いをこう語ります。
 
「情報を見ているだけだと、人間は徐々に熱量が下がっていきます。オンラインコミュニティは、“熱量を保温する場所”だと思っています。だからこそ温め続けるだけでなく、時にはリアルで一気に熱を上げていく機会が必要だと思います」

その象徴が、2025年4月19日に熊本で開催された「ファンフェスタ」でした。全国から約1,000人のファンが自費で、ドモホルンリンクルの聖地・熊本の再春館ヒルトップに集まり、会社や工場の見学、普段社員が食事をとる社員食堂での食事、また様々なワークショップやPOPアップなどを通して、社員やお客様同士での交流を楽しみました。

 「交通費はすべて自費です。それでも“行きたい”と言ってくださる方が全国から集まったんです。北海道や台湾から来てくださった方もいて、本当に嬉しかったですね」

ファンフェスタのもう一つの目標は、社員の一枚岩の醸成でした。そのために、当日の役割だけでなく、事前の企画・運営に全社からスタッフを選出し、横断プロジェクトとして取り組んだのです。

「お客様・ファンと向き合うイベントだからこそ、全社員が自分事化していくこと、日頃の取り組みからつなげていくことが大切だと考えました。各セクションごとにプロジェクトリーダーを立て、それぞれに責任をもって進めてもらっていくことで、各自がお客様のことを考え、連携し、モチベーションをあげていくことにもつながったと思っています」

ファンフェスタ当日は、会場全体がひとつの物語を共有するような熱気に包まれました。特に印象的だったのは、入場インビテーションとして配布されたスプリングブルーのスカーフです。

 「このスカーフをつけて、熊本に来ていただく仕掛けにしました。空港や駅で“あなたも参加者ですか?”と声を掛け合う光景が生まれて、移動の段階からすでにイベントが始まっていたんです」

クローズド(限定公開)だからこそ安心感が生まれる

ファンフェスタを終えた後も、再春館製薬所のコミュニティは止まることなく動き続けました。社員が仕掛けた以上の勢いで、ファン自身がブランド体験を広げていったのです。

「ファンフェスタのあと、『仙台店にみんなで行こうよ』というツアーをお客様が自主的に企画してくださったんです。私たちがお願いしたわけではなく、名古屋や東京の方が『同じ新幹線で行こう』と声を掛け合って、現地でお店を訪問してくださって。本当にありがたいですね。まさに推し活をしていただいているな、と思います」

こうした動きは、社内にとっても新鮮な驚きでした。従来の企業主導のマーケティングでは想定できなかった“自発的な聖地巡礼”が起き、SNSには「#ドモ活」というハッシュタグが広がり始めます。

「以前は『高価な基礎化粧品だから言いづらい』という声も多かったのですが、コミュニティの中で共感し合ううちに、『私も言っていいんだ』という安心感が生まれたのだと思います」

この心理的安全性の高さこそ、コミュニティがクローズド(限定公開)である理由でした。

「最初はオープンコミュニティにする予定でした。でも、あるときお客様から『ここは、ドモを好きな人しかいないから安心して色んなことを話せる』と言われたんです。その言葉を聞いて、『広げることより、守ることが信頼なんだ』と気づきました。

 “ここが好き”“この部分は少し使いづらい”“こんな新しい企画があったら嬉しい”、そんな投稿が自然と生まれるようになりました。お客様が本音で話してくださるから、私たちも応えたくなる。双方の信頼が強くなっていくのを感じています」

さらに、コミュニティの中で交わされた声が、商品の改良や施策設計に直接生かされるケースも増えました。たとえば、基本4点セットを入れる専用バッグがリニューアルして登場したときには、社員が魅力的に伝えるにはどうしたらよいかと悩んでいる間にコミュニティ内で話題が広がり、「ここが変わっていて嬉しい」といったコメントが、社員にヒントを与えたといいます。


「単にマルバツをつけるアンケートでは見えない“文脈の温度”がわかるんです。たとえば、『前のデザインも好きだったけど、新しいものはこんなところが魅力的』という一言に、お客様に響くポイントが見えますよね。これはコミュニティの力だと思います」

コミュニティとSNSをつなぐ“共感の導線”

再春館製薬所が次に目を向けたのは、コミュニティの熱を外へ伝える仕組みづくりでした。田中氏はこう語ります。

「コミュニティは熱を“育てる場所”。一方で、SNSはその熱を“拡散する場所”。この2つをつなぐことで、お客様の想いをもっと多くの人に届けたいと考えました」

この発想から生まれたのが、コミュニティとSNSを連動させた新たな仕組みです。ファンが安心して語れるクローズドな場で信頼と共感を育み、その熱量をオープンなSNS上で自発的に表現する流れを設計しました。

この考え方を実践した象徴的な取り組みが、2025年9月に代官山で開催されたポップアップイベント「美活カフェ 2025」でした。漢方の理念に基づくお茶体験を中心に、再春館製薬所が大切にしてきた“内外美容”の考え方を体感できる場として設計されたイベントです。

初日は台風の影響で来場者がわずか90名と、幸先は厳しいスタートでした。しかし翌日以降、SNS上での口コミが急速に拡散します。

「“お茶が美味しかった”“社員さんが本当に丁寧だった”“香りで癒された”。そうした投稿がX(旧Twitter)やInstagramで自然に広がっていったんです。結果的に3日間で1,300名を大きく超える方が来場してくださいました」

その裏には、緻密な仕掛けがありました。ひとつは、インフルエンサーとの共創。単なるPR案件ではなく、彼女たち自身がドモホルンリンクルの世界観に共感できるよう、事前に社員との交流を設けたのです。

 「最初はお仕事の関係で関わってくださった方々が、実際に製品を使ってくださり、ファンになってくれたんです。当日もご依頼していないのにわざわざ自費で来てくださり、“本当に好きになった”とオーガニック投稿してくださる方もいました」

もうひとつの仕掛けは、ファンのアンバサダー育成でした。SNS発信に不慣れなファンの方々に向け、写真の撮り方や投稿の工夫を学ぶワークショップを実施。
「“熱量はあるけれど発信が苦手”という方に、自分の言葉で伝える方法をお伝えしました。少し工夫するだけで投稿の印象が変わり、他のファンの方が“私もやってみよう”と広がっていくんです」

こうした丁寧な育成が功を奏し、イベント期間中にはSNS上で数百件のポジティブな投稿が生まれました。

信頼を循環させる企業へ──“愛され続ける”ブランドの条件

セッションの締めに、田中氏は以下のようにコメントしています。

「ファンの熱量というのは“もともとあるもの”を見つけるだけではなく、“育てて次につなぐもの”だと思います。最初から熱い思いを持っている方と、少し控えめだけれど共感力のある方を組み合わせると、不思議とその熱が伝播していく。燃えやすい人が周囲を照らし、また新しい熱が生まれていく。その循環を日々実感しています。

何より、お客様は本当にブランドのことを大切に思ってくださっています。だからこそ、ストレートに意見を届けてくださいます。その一つひとつの声が本当に宝物です。企業目線だけでは気づけない視点や温度を、私たちは日々学ばせていただいています」

2024年2月、わずか8人でスタートした再春館製薬所のファンコミュニティは、2025年秋には1,000人規模に成長しました。オンラインでの対話、地域ごとの交流会、そしてファンフェスタのような大規模イベント──そのすべてが「お客様と共にブランドを育てる」という目的のもと、ひとつの循環としてつながっています。

「輪が育つと、“ブランドのことを外で語るのが恥ずかしい”という気持ちが少しずつ消えていきます。『好き』を語ることが当たり前になる。それこそが、愛されるブランドの証なのかもしれません。

一方で、その関係を保つには、声を拾う努力を止めてはいけないとも思っています。お客様の声が見えなくなった瞬間、距離は確実に広がっていく。だからこそ、オンラインでもオフラインでも、心の通う交流の場を絶やさないことが何より大切です。小さな接点の積み重ねが、信頼を育て、ブランドを長く愛される存在へと導いていくのだと感じています」

“愛されサイクル”とは、単なるファンマーケティングの成功モデルではありません。そこにあるのは、顧客と企業が共に成長し、信頼を未来へ引き継いでいく構造です。信頼を育て、信頼で成長する。 その循環を絶やさない限り、ブランドは時代を超えて“愛され続ける”存在であり続けるということではないでしょうか。