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カスタマーエクスペリエンス向上の成功事例7選を詳しく紹介!メリットや顧客体験向上の方法も解説
2025/02/12

カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、商品やサービスに触れるあらゆる場面で得られる「顧客体験価値」を指します。競争の激しい市場において差別化を図り、顧客ロイヤルティを高めるうえで多くの企業が注目しています。
この記事ではCXの基本的な概念から成功事例、CX向上のメリットと具体的な取り組み方法まで解説します。
目次
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?

カスタマーエクスペリエンス(CX)は、日本語で「顧客体験」を意味し、認知から購入・利用、アフターサポートに至るまで、顧客が商品やサービスを通じて得る体験価値のことです。単なる提供だけに留まらず、利用のしやすさや接客対応、ブランドとの精神的つながりなど、多角的なタッチポイントで顧客が感じる印象が重要になります。CXを高めることでブランド力と顧客ロイヤルティが向上し、企業の長期的な成長を後押しします。
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CXの成功事例7選

ここからは、CXの取り組みによって成果を上げている企業の実例を7社ピックアップしてご紹介します。スターバックスやパナソニックといった有名企業の戦略に加え、その他の事例も見ながら、どのような施策が顧客体験を底上げしているのか一緒に学んでみましょう。
スターバックス
スターバックスは、顧客体験の巧みな設計により、世界的なブランドとしての地位を確立しました。同社の成功は、綿密に計画された複数の要素が組み合わさることで実現されています。
まず、従業員を「パートナー」と位置づけ、彼らの自主性とホスピタリティを重視した接客を展開しています。パートナーによる心のこもったコミュニケーションは、他のコーヒーチェーンとの大きな差別化要因となっています。接客の質の高さは、単なるサービスを超えて、顧客との深い絆を築くことに貢献しています。
商品開発においても、コーヒーやフラペチーノなど、スターバックスでしか味わえない特別な飲み物を提供し続けることで、顧客の期待に応えています。季節限定商品や店舗限定メニューを戦略的に展開することで、顧客の興味を常に喚起し、再来店を促す効果も生んでいます。
店舗デザインにおいても、画一的な店舗づくりを避け、それぞれの地域の文化や特性を反映した空間デザインを採用しています。これにより、顧客は訪れる店舗ごとに新鮮な体験を得ることができ、発見の喜びを感じることができます。
さらに、デジタル技術を活用したサービス改善にも積極的です。スマートフォンアプリを通じた「モバイルオーダー&ペイ」システムの導入により、待ち時間の短縮と注文の利便性向上を実現しています。さらに、顧客は自分好みにカスタマイズした商品を簡単に注文することができます。
これらの要素が有機的に結びつくことで、スターバックスは単なるコーヒーショップを超えた存在となっています。顧客にとって、それは心地よい時間を過ごせる特別な空間であり、日常生活に彩りを添える場所となっています。この総合的なアプローチにより、スターバックスは強固なブランドロイヤリティを構築し、持続的な成長を実現しているのです。
パナソニック
パナソニックは、家電や住宅設備など多岐にわたる分野で事業を展開する中で、CX管理ソリューションと呼ばれる顧客体験を起点としたマーケティング活動を積極的に推進しています。この取り組みの核心は、顧客の行動データや購入履歴、問い合わせ内容などを包括的に管理し、それらをユーザー視点でのマーケティング戦略立案に活用することにあります。
同社の特徴的なアプローチは、商品企画からデザイン、プロモーション、そしてカスタマーサクセスに至るまで、一貫してユーザー目線を重視する姿勢にあります。具体的には、SNSや問い合わせ窓口、アンケートなど、様々なチャネルを通じて顧客の声をリアルタイムで収集しています。これらの生の声は、企業にとって貴重な情報源となっています。収集したデータは横断的に分析され、顧客が感じている使いづらさや期待している点が詳細に可視化されます。この分析結果は、新商品の開発だけでなく、既存商品の改善やアフターサポート体制の強化にも直接反映されており、継続的な顧客体験の向上につながっています。
このように巨大企業でありながら、顧客起点のアプローチを徹底することで、パナソニックは企業と顧客との距離を効果的に縮めることに成功しています。その結果、ユーザーにとって使いやすく、安心感のある製品やサービスを提供する体制が確立され、ブランドへの信頼とロイヤリティの向上に結びついています。
ニトリ
家具・インテリア用品の大手であるニトリは、「お、ねだん以上。」というキャッチフレーズでも知られています。近年では、デジタル技術を活用した「バーチャルショールーム」によって顧客体験を拡張し、売上増加に貢献しているのが注目ポイントです。
ニトリのバーチャルショールームは、都内最大級の売り場面積を誇る「ニトリ目黒通り店」の4階家具フロアをデジタル上に再現。顧客はスマートフォンやPC、アプリなどからアクセスし、あたかも店舗を歩き回るように商品をチェックできます。これにより、店舗に行く時間がなかなか取れない顧客や、遠方に住む人でもリアルな感覚で商品のサイズ感や雰囲気をつかめるようになりました。
さらに、バーチャルショールーム内の商品説明からそのままECサイトへ誘導する仕組みも整備した結果、Web経由の売上が前期比59.2%増の705億円(引用:ニトリの公式発表)を達成し、DX(デジタルトランスフォーメーション)によるCX強化の好例となりました。
また、ニトリは店舗での接客や物流の効率化にも注力し、オンラインとオフラインの垣根をなくす「オムニチャネル戦略」を推進、顧客は「自宅からバーチャルで下見→ECで注文→店舗受け取り」など、自分のライフスタイルに合わせた買い方を選択できるようになりました。こうした柔軟な購入体験こそがニトリの強みであり、リピーターを増やすCX施策として機能しています。
ANA
ANAは、新型コロナウイルスによる航空需要の激減期においても顧客体験の強化に注力し続け、その成果は2022年のCXランキングで3位にランクインするなど、高い評価として表れています。特筆すべき点は、社内に「CX推進室」を設置したことで、CX向上を全社的なミッションとして明確に位置づけ、より深い顧客満足の実現に向けた取り組みを本格化させたことです。
ANAの成功を支える重要な要素の一つが、ストリーミングエンジンと呼ばれるデジタルプラットフォームの導入です。このシステムは、顧客一人ひとりの予約、決済、搭乗チェックインといった行動データと、離着陸やゲート変更などの運航状況をリアルタイムで連動させる機能を持っています。これにより、フライトの遅延発生時における乗客への迅速かつ的確なアナウンスや、搭乗ゲートが離れている場合の最適化された案内など、パーソナライズされた情報提供を実現しています。
さらに、CX推進室による横断的な統制も重要な成功要因となっています。従来は部署ごとに分断されがちだった顧客データや対応を一元管理し、顧客体験の一貫性を確保するための全社的なルールづくりを強化しています。これにより、各部署間の連携がスムーズになり、最適なタイミングで最適なサービスを提供する一貫性のある体験の実現が可能となりました。
こういった総合的な取り組みにより、ANAは単なる移動手段としてではなく、快適な空の旅を提供する総合的な体験としてのブランド価値を確立しています。その結果、顧客のリピート率向上や新規顧客の獲得につながり、持続的な成長を実現しています。このように、顧客体験を中心に据えた経営戦略は、航空業界における同社の競争力強化に大きく貢献しているのです。

TikTok
ショート動画プラットフォームとして爆発的に利用者が増えているTikTokは、顧客が「飽きずに楽しめる動画体験」を追求し、さらに「動画コマース」を展開している点がCX戦略において興味深い事例です。
TikTokは、ユーザーが視聴、いいね、コメントする動画の傾向をAIが解析し、ユーザーの興味に合致した動画をレコメンドしてくれる仕組みが強みです。これにより、ユーザーは常に自分にとって魅力的なコンテンツが表示されるため、プラットフォーム内の滞在時間が長くなり、「次々に見たくなる」体験が形成されました。
さらに、2021年頃からはARエフェクトによる商品体験を活用した「動画コマース」に力を入れています。動画で商品を見せるだけでなく、AR技術でユーザー自身が使っているイメージを体感できるなど、“エンタメ×購買”を融合しました。これが功を奏して「TikTok売れ」という言葉まで生まれるほどのヒット商品も複数出現し、CPC(クリック単価)は12円に、CVR(コンバージョン率)は4.44%に上昇したケース(一例)も報告されています。
つまり、コンテンツを楽しむ体験と、商品購入につなげる体験の両面を高次元で融合させることで、ユーザーにとっては“飽きずにショッピングできるプラットフォーム”、企業にとっては“エンゲージメントの高い広告チャネル”として機能しているのがTikTokの成功要因といえるでしょう。
クラシエホームプロダクツ
クラシエホームプロダクツは、長年日本の家庭用品市場で重要な位置を占めてきた企業として、DXを活用した顧客体験の向上に注力しています。
特に注目すべき事例として、オンラインカスタマーサポートの刷新が挙げられます。従来の電話やメールによる問い合わせ対応に加えて、AIチャットボットを導入し、24時間365日の問い合わせ対応を実現しました。このチャットボットは、製品の使用方法や、よくある質問への回答を即座に提供し、顧客の待ち時間を大幅に削減することに成功しています。
また、同社は製品開発においても顧客体験を重視しています。例えば、シャンプーや柔軟剤などの製品開発過程で、実際の使用者から詳細なフィードバックを収集し、製品改良に活かすプログラムを実施しています。具体的には、数百人規模のモニターグループを作り、製品の使用感や香り、パッケージのデザインなど、多角的な評価を収集しました。このフィードバックは直接製品開発チームに共有され、迅速な改善につながっています。
さらに、環境への配慮を求める顧客ニーズに応えるため、詰め替え用パッケージの改良にも取り組んでいます。従来よりも注ぎやすく、最後まで使い切れるパッケージデザインを採用し、顧客満足度の向上と環境負荷の低減を同時に実現しています。
デジタルマーケティングの面では、顧客のライフスタイルや使用シーンに合わせたパーソナライズされたコンテンツ配信を強化しています。SNSを活用した双方向のコミュニケーションを通じて、製品の使用方法や活用術を提案し、顧客との継続的な関係構築に成功しています。
このように、クラシエホームプロダクツは、デジタル技術の活用と従来の強みを組み合わせながら、常に顧客視点に立った製品開発とサービス提供を心がけ、持続的な顧客満足度の向上を実現しています。
カインズ
カインズは、ホームセンター業界におけるDXリーダー的存在として、顧客体験の革新に力を入れています。特に注目すべきは、オムニチャネル戦略の展開です。実店舗とオンラインショップの連携を強化し、顧客がどちらのチャネルからでもスムーズに買い物ができる環境を整備しています。具体的な施策として、「カインズアプリ」では、商品の在庫状況をリアルタイムで確認はもちろんのこと、店舗での商品の陳列場所まで詳細に案内する機能を搭載し、広い売り場でも目的の商品にスムーズにたどり着けるよう工夫されています。
また、プライベートブランド商品の開発においても、顧客体験を重視しています。例えば、DIY初心者でも扱いやすい工具シリーズを展開し、商品パッケージには使用方法を分かりやすく表示しました。さらに、店舗内にはDIYアドバイザーを配置し、顧客の相談に丁寧に応じる体制を整えています。
物流面では、「クリック&コレクト」サービスを導入し、オンラインで注文した商品を最寄りの店舗で受け取れるようにしています。これにより、顧客は配送料を抑えながら、必要な時に確実に商品を入手できるようになりました。さらに、サステナビリティの観点からも顧客体験の向上を図っています。店舗での使用済み商品の回収や、環境負荷の少ない商品の品揃え強化など、環境意識の高い顧客のニーズに応える取り組みを実施しています。
これらの取り組みにより、カインズは従来のホームセンターの枠を超えた、より便利で快適な買い物体験を提供することに成功。実店舗とデジタルの強みを組み合わせた独自のCX戦略は、顧客満足度の向上と新規顧客の獲得に大きく貢献しています。
CX向上のメリットとは?
カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上は、企業に様々な重要なメリットをもたらします。その代表的な効果として、まず顧客ロイヤルティの向上が挙げられます。商品やサービスに付加価値が生まれることで、顧客は特定のブランドでの購入や継続的なサービス利用を好む傾向が強まり、競合他社への流出リスクが軽減され、LTV向上につながります。
また、CXの向上は他社との差別化を可能にします。価格やスペックだけでは差異化が難しい市場においても、優れた顧客体験を提供することで、独自のブランドイメージを確立し、競合との明確な差を生み出すことができます。
さらに、良質な顧客体験は口コミ効果や情報拡散をもたらします。満足度の高い体験をした顧客は、SNSやレビューサイトなどで積極的に情報を発信する傾向があり、そのポジティブな口コミは新規顧客の獲得に大きく寄与します。
CXを向上させる方法

顧客体験(CX)の向上には、商品やサービスとの接点における一貫性の把握、ユーザー視点での課題の特定、そして具体的な改善施策の効果検証という段階的なアプローチが重要です。これらのステップを通じて、持続的な顧客満足度の向上を実現することができます。
顧客と商品の一貫性を把握する
顧客に対して期待通りの体験を提供するためには、顧客と商品の一貫性を保つことが不可欠です。これを実現するための重要な要素として、まずブランドの統一感が挙げられます。広告、SNS、ECサイト、店舗など、すべてのチャネルで発信するメッセージやデザインを整合させることで、顧客に安心感のある体験を提供することができます。また、正確な商品情報の提供も重要です。顧客が商品やサービスについて誤解なく理解できる情報を提供することで、購入後のギャップを最小限に抑え、顧客満足度を高めることができます。
さらに、アンケートやレビューの分析を通じて、顧客のリアルな声を定量・定性両面から把握し、商品やサービスの改善ポイントを明確にすることが必要です。継続的なフィードバックの収集と、それに基づく改善で、一貫性のある顧客体験を維持することが可能となります。このような一貫性のある情報提供と双方向なコミュニケーションこそが、顧客に期待通りの体験を届ける鍵となるのです。
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ユーザー視点で課題を可視化する
企業が行うCX施策において最も注意すべき点は、自社目線での発想のみでサービスを改善してしまうことです。真の顧客体験の向上には、常にユーザー視点での課題を洗い出せるアプローチが不可欠となります。
具体的な取り組みとして、定期的な顧客へのアンケートやインタビューの実施を通じて、使い勝手や不満、要望などを直接聞き取ることが重要です。集められた意見は客観的に分析し、具体的なアクションへと落とし込んでいきましょう。また、新商品のリリース前やサービス改善の段階では、ユーザーによるテストもおすすめです。実際のユーザーから得られるフィードバックは、施策の有効性を判断する重要な材料となります。
さらに、Webサイトのヒートマップやアクセス解析、アプリの操作ログなどのデータ分析を活用し、ユーザーの離脱ポイントを数値的に可視化することも効果的です。これらの分析結果から改善の優先順位を判断し、継続的な最適化を図ることで、CXの向上を効果的に進めることができます。
課題を改善するための効果検証を行う
CX向上の施策を実行した後の効果検証が重要です。
効果検証には、NPS(Net Promoter Score)の活用が有効です。NPSは商品やサービスを友人や同僚に薦める可能性を数値化することで、顧客ロイヤリティを測定する手法です。NPSの上昇は、CX施策がポジティブな効果をもたらしていることを示す重要な指標となります。さらに、アンケートなどを通じた顧客満足度(CS)調査も重要です。施策前後やキャンペーンごとに数値を比較することで、顧客満足度の変化を明確に把握することができます。
これらの効果検証は一度限りではなく、PDCAサイクルを繰り返して継続的に実施することが重要です。市場や顧客ニーズは常に変化しているため、継続的な効果検証とアップデートがCX向上には欠かせない要素となります。
まとめ
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、顧客が商品やサービスに触れるすべてのプロセスで得る体験価値を指し、昨今の競争の激しい市場においては企業を差別化するための重要要素となっています。スターバックスやパナソニック、ニトリ、ANA、TikTokなど、さまざまな企業が独自の施策で顧客体験を高め、ロイヤルティ向上や売上アップを実現しています。
CXの向上には、一貫した顧客コミュニケーション、ユーザー視点での課題可視化、効果検証を繰り返すPDCAサイクルが不可欠です。もし自社で顧客体験の質をより高めたいと考えているなら、コミュニティ活用やデジタルツールの導入などを検討し、顧客の声を活かしながら持続的な改善を図ってみてください。顧客との接点を大切にし続けることで、競争の激しい市場であっても長期的なファンの獲得へとつながるでしょう。