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インフルエンサーマーケティングとは?信頼と共感で動かすブランド戦略

2025/07/25

インフルエンサーマーケティングとは?信頼と共感で動かすブランド戦略
コミューン編集部

コミューン編集部

スマートフォンとSNSが生活の中心になった今、人々の購買行動は「共感できる個人の言葉」から動き始めています。InstagramやTikTok、YouTubeには、等身大の視点で商品を紹介するインフルエンサーが溢れ、企業広告では届かない心の距離を埋めています。
 
その背景には、メディア接触の変化(Z世代のSNS利用はTVの2倍)、広告不信の拡大(ステマ炎上、広告ブロック)、そしてSNSアルゴリズムの高度化といった社会的変化があります。これらが相まって、広告ではなく「信頼できる第三者の声」が購買の起点となる時代が到来しました。
 
こうした文脈で注目されているのがインフルエンサーマーケティングです。フォロワーとの信頼関係を基盤に、広告臭を抑えた形でメッセージを届け、共感を伴った購買につなげるこの手法は、2022年に615億円だった国内市場を2027年には1,300億円超へと押し上げる見込みです。
 
本稿では「そもそもインフルエンサーマーケティングとは?」という基本から、戦略設計、KPI管理、リスク回避、成功事例までを体系的に解説。社内説得にも使えるフレームワークやデータを詰め込み、実践に直結する“運用型ガイド”として活用いただけます。

第1章 インフルエンサーマーケティングの定義と歴史的背景

インフルエンサーマーケティングは「SNS上で影響力を持つ個人が、フォロワーとの信頼関係を通じてブランドやサービスを紹介し、認知・理解・購買を促すマーケティング施策」と定義できます。この“影響力”はフォロワー数だけで測られるわけではありません。“フォロワーに与える態度変容の大きさ”こそが本質だからです。

1.1 セレブ広告からUGC経済へ

テレビ全盛期の1950年代、企業はハリウッドスターを起用して製品を宣伝しました。いわば“マスメディア×セレブリティ”の図式です。

スタンフォード大学医学部は、「19世紀半ばには咽頭がんは広く認知されていた」と指摘しており、当時は「喫煙者のがん」と呼ばれていました。そして、タバコ業界は1930年代から1950年代にかけての広告において、「喉への安心感」戦略を用いてこうした不安を和らげ、著名人の声を起用して自社のタバコブランドが喉に優しいことを強調しました。(参照

しかし2000年代後半、ブログとYouTube が台頭し、カジュアルゲームレビューや DIY ハウツー動画を投稿する“プロではない個人”が熱狂的な支持を得始めます。彼らは同時に広告報酬を得る先駆的インフルエンサーでもありました。

続くInstagram(2010年)・TikTok(2016年)の登場で、①高性能スマホカメラ、②無料編集アプリ、③AIによるレコメンドがそろい、誰もが自分の“好き”を高速で発信・拡散できるUGC経済が出現。マイクロインフルエンサー(フォロワー1~10万)やナノインフルエンサー(同1万人未満)が信頼密度の高い“コミュニティ影響力”を武器に企業とコラボする事例が急増しました。

ナノ・クリエーターが美容界最高のマーケティング・ツールになるまで

美容コンテンツのエンゲージメントが停滞する中、ブランドは中小規模のフォロワーを持つクリエイターに傾倒している。(参照

1.2 市場規模の急拡大

国内市場は2017年約210億円→2020年約400億円→2022年615億円→2025年1,021億円へと指数関数的に伸長。海外でも2025年には3兆円規模が予測されています。

インフルエンサーマーケティングは指数関数的な成長を続けており、業界の推定市場規模は2025年に325億5000万ドルに達する。2024年には240億ドル、2014年には14億ドルだった。 これは、年平均成長率(CAGR)33.11%という驚くべき数字である。これは、過去10年間のこのセクターの持続的な勢いと急速な拡大を示している。(参照

背景要因は「購買前にSNSを参考にする生活者が8割」「マーケターの93%が“効果がある”と回答」「広告ブロッカー利用率世界平均41%」などデータが裏付けます。

1.3 インフルエンサーの多様化

  • メガ(100万+):国民的タレント級。主に短期的な話題づくりに最適。
  • マクロ(10万~100万):業界トレンドを牽引する旗振り役。拡散力と専門性のバランスが良い。
  • マイクロ(1万~10万):フォロワーと近い距離感でエンゲージメント率が高い。購買寄与度が最も高いという調査も。
  • ナノ(~1万):小規模ながらコメント返信率が高く、地域密着やBtoBなどニッチ領域で力を発揮。

歴史を俯瞰すれば、インフルエンサーマーケティングは“芸能人頼み”の時代を卒業し、「共感性」「専門性」「双方向性」を武器にしたマイクロ勢が主役となる“信頼経済”へ移行していることがわかります。

・関連記事:パーセプションとは?「認識」の本質と実践
┗ インフルエンサーの影響力を左右する“認識のズレ”と、その測定・是正方法を解説した記事です。

第2章 いま注目される3つの理由

2.1 メディア接触の地殻変動

スマホ保有率は15歳以上で93%、SNSアプリ利用率は82%。総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動調査」によると、20代は平日で1日平均266分をSNS・動画配信に費やし、テレビ視聴の約1.9倍という結果が出ています。

さらに“ながら視聴”が定着し、動画広告はスキップ、バナーはスクロールで飛ばされやすい。インフルエンサーの有機的(オーガニック)投稿は、タイムライン内部に“ネイティブ”に溶け込むため、広告回避行動に引っ掛かりにくいというメリットがあります。

2.2 広告不信と“共感主義”の台頭

米 Edelman の「Trust Barometer」によれば、企業広告を信頼する人は46%に過ぎません。一方、フォロワーが「自分に似ている」と感じるインフルエンサーへの信頼は73%。ステマ規制の強化で透明性が担保された結果、“日常シーンに商品が自然に登場する”投稿がユーザーの心理的抵抗を下げ、「自分ごと化」を生みやすいと分析されます。

2.3 UGCエコシステムとアルゴリズムの進化

TikTok のFor Youフィードは、興味を示した投稿に対し同ジャンル動画を瞬時に補給する仕組みを採用。これによりマイクロインフルエンサーでも累計再生数1,000万超が珍しくなく、企業は“安価にUGCを量産→アルゴリズム拡散→自然流入獲得”という方程式を組み立てやすくなりました。

Instagram もリール経由の非フォロワーリーチが全体の38%を占めるとされ、UGCと公式広告の境界が曖昧化。ユーザー投稿→再シェア→公式広告化というサイクルが高速で回る仕組みが整っています。

・関連記事:ペルソナとは?顧客像を精密化する設計プロセス
┗ 誰に届けるかを明確化し、最適なインフルエンサー選定につなげるための基本フレームを紹介します。

第3章 メリットとデメリットを俯瞰する

メリット

  1. 高い共感と信用
    インフルエンサー投稿は「親しい友人のおすすめ」に近い形で届きます。コメント欄での質疑応答やストーリーズでの舞台裏共有によって、フォロワーは“商品ストーリーの共犯者”となり、広告的反発が起こりにくい。また、専門家インフルエンサーの場合は「権威付け」としても機能し、第三者評価として消費者心理を後押しします。・参考:購買前のSNS参照実態(アルティウスリンク調査, 2025/5)
  2. 精密なターゲティング
    インフルエンサーのフォロワー属性は 、SNS インサイトで詳細に把握が可能です。年齢・性別・地域はもちろん、興味関心タグや購買行動までセグメントできるため、同じ広告費でも「購買余地のある見込み層」への効果が高まります。BtoB領域でも LinkedIn やテック系 YouTuber を活用すれば、意思決定者のいるコミュニティへ直接的なアプローチが可能です。
  3. UGC拡散効果
    インフルエンサー投稿をトリガーに、フォロワーが自発的に画像レビューや動画デュエットを投稿。その結果、ブランド公式が手を下さずとも「口コミの連鎖」が起こり、トータルリーチが雪だるま式に拡大します。ある事例では、インフルエンサー10名の動画から二次拡散したUGCが9倍に膨らみ、検索ボリュームは2週間で4倍に跳ね上がりました。
  4. 広告ROIの改善
    マイクロインフルエンサー施策の平均CPAは、ディスプレイ広告などの従来型デジタル広告と比較して約3割低いという報告もあります。Aspireのレポートでは、インフルエンサー生成コンテンツ(IGC)活用時にCPAが30%低下との結果が示されています。Influencer Marketing Statistics(QRCode‑Tiger経由のAspire調査)UGCを広告素材に二次利用する“UGCリターゲティング広告”を組み合わせることで、広告制作コストを最小限に抑えながらパフォーマンスを最大化できます。

デメリット

  1. 選定コストとミスマッチのリスク
    「フォロワー100万人なら安心」という考え方が失敗の第一歩。ジャンル不一致・フォロワー水増し・Bot混入などのリスクがあり、事前リサーチと過去投稿チェックが欠かせません。最近では AI 解析ツールでエンゲージメント率やフォロワーの“質”をスコアリングすることが一般化しています。こちらのInfluencer fraud is on the rise(Firework, 2024)では 、ブランドの59.8%が「偽フォロワー・不正エンゲージメント」を経験しており、選定時の精査が不可欠であることが明確になっています。
  2. 炎上・ブランド毀損
    インフルエンサーの過去発言が差別的だった、広告表記を怠ってステマ疑惑が浮上した、などの炎上リスクは常に存在します。契約書でコンプライアンス遵守を明確にし、万が一の際には双方で謝罪・説明を行うフローを事前策定しておく必要があります。2023年10月1日に施行した景品表示法によるステマ規制(消費者庁告示)では、広告表記を怠ると「不当表示」に該当、措置命令などの行政処分対象に当たることが明文化されました。
  3. 費用対効果の見込み違い
    フォロワー単価が安くても、購買力の低い層ばかりでは売上に結びつきません。成果報酬型契約でリスクヘッジは可能ですが、「投稿から購入までのタイムラグ」を考慮しないと短期ROIが赤字に見えるケースも。こちらの記事(成果報酬型/固定報酬型/ハイブリッド型の費用形態(ナハト))では、 成果報酬型でリスクヘッジ可能なものの、KPIや成果定義が曖昧だと期待外れに終わる可能性も示唆されています。
  4. 効果測定の複雑さ
    SNS投稿→ECサイト→実店舗来店という複数チャネルをまたぐと、アトリビューションが不透明になりがちです。UTMパラメータ、専用ランディングページ、オフライン連携クーポン、アンケート調査など多層的な計測設計が不可欠です。

メリットを最大化しデメリットを制御する鍵は、選定と計測の精度、そして透明性あるコミュニケーションにあります。

・関連記事:口コミマーケティング入門:UGCを生む仕組みと実践
┗ インフルエンサー施策を単発露出で終わらせず、UGC拡散へつなげるための設計思想を解説した記事です。

第4章 主要施策と5ステップ実行プロセス

4.1 主要施策の詳細

  • ギフティング投稿
    新商品を無償提供し、リアルな使用感を自由に発信してもらう手法です。化粧品・食品など“体験価値”が語りやすい商材と相性が良い。リスクは低い一方、投稿数の確約やブランドメッセージの統一が難しいため、事前ブリーフで「訴求したいキーワード」を共有しつつ、クリエイティブはインフルエンサーの個性に任せることが肝。
  • イベント招待/体験レポート
    店舗や生産現場への訪問を通じて“裏側”を見せることで、ブランドの誠実さやストーリー性を強調。リアルタイムのライブ配信は視聴者の疑問をその場で解決でき、購買検討層の不安払拭に直結する。
  • コラボレーション・監修
    単なる広告出演ではなく、商品開発・レシピ監修・パッケージデザインなど“共創”に参加してもらう。インフルエンサーの信念が商品に宿るため、フォロワーの愛着が強化され、プレミアム価格でも売れやすい。コラボの過程をドキュメンタリー的に発信すれば長期的な話題づくりが可能。
  • 長期アンバサダー契約
    1投稿単発よりも、半年~1年スパンで複数投稿+イベント登壇+UGC二次利用を組み合わせると、ブランドコミュニティ形成に波及。コミットメントが高い分、契約・管理コストは大きいが、LTVを重視するサブスクや高単価商材では費用対効果が高い。

4.2 5ステップ実行プロセスの要点

  1. 目的・KPI設定
    目標は「認知」「興味・検討」「購入」「リテンション」のどこに置くかで指標が変わる。例:認知ならリーチ数、購入ならCV数とCPA、リテンションなら解約防止率。KPIは“最大3つ”に絞ると、モニタリングが現場負荷になりにくい。
  2. インフルエンサー調査・選定
    選定基準は「親和性」「信用」「実績」「将来性」の4軸。ハッシュタグ分析、競合調査、フォロワーのコメント傾向、過去PR投稿の反応などを多面的に確認。プラットフォームや代理店を活用する場合は、KPI達成率やバルクディスカウントの有無など契約条件を細かく比較する。
  3. 合意・契約
    契約書には(1)投稿本数と期限、(2)使用可能メディアと期間、(3)修正回数、(4)PR表記ルール、(5)成果報酬の算定方法、(6)炎上時の対応責任分担、を明記。法務部・コンプライアンス部門が入ることで社内承認がスムーズになる。
  4. 運用・モニタリング
    投稿前チェックは“コンプライアンス観点”と“メッセージ整合性”のみに留め、表現手法や語り口への介入は最小限に。公開後は24時間以内のエンゲージメント推移を注視し、コメント欄での疑問や誤解を公式アカウントが迅速にフォローすると、炎上予防と信頼向上につながる。

効果測定と改善
短期(リアルタイム〜1週間)で“エンゲージメント&流入”、中期(1〜3か月)で“売上・CAC”、長期(3か月〜半年)で“リピート率・LTV”を追う三段階モデルを推奨。施策後アンケートで「どこで商品を知ったか」を聞くと、アトリビューションの“最後の見えない一押し”を可視化できる。

・関連記事:ROASとは?広告費対効果を可視化する指標と改善の手順
┗ 施策の投資対効果(ROAS)を算出し、次回のインフルエンサー活用に活かす方法を整理。

第5章 成功事例に学ぶ3つの勝因

A社(化粧品)×美容家コラボでは、開発ミーティングから発売までの半年間を YouTube Live で逐次配信。視聴者は“共同開発者”のような感覚で参加し、発売直後に限定版が即日完売。リピート購入率も従来品比1.7倍に伸長しました。勝因は(1)過程共有でファンエンゲージメントを高めた点、(2)美容家の専門性で製品説得力を補強した点にあります。

B社(食品)×料理系マイクロ30名起用では、ハッシュタグ「#5分料理チャレンジ」を統一し、短尺レシピ動画を同時投稿。合計UGCは1,400件超、TikTok 総再生数1,200万回、店頭購買データはキャンペーン期間で前年比130%。マイクロ分散により、炎上耐性とエンゲージメント率を両立できたことが評価されました。

C社(BtoB SaaS)×技術系 YouTuberは、30分のハンズオン動画でエンジニア向けに実践的活用法を紹介。視聴からサービス申込までの導線を LP に一本化したことで CVR は従来セミナー施策の2倍、CAC は1/3に低下。専門家の権威性が意思決定者の不安を払拭し、商談スピードを大幅短縮しました。

三事例の共通点は「インフルエンサーの価値観をブランドストーリーに統合し、視聴者が参加・共創できる仕組みを用意した」こと。単なるタイアップ投稿ではなく、ファンとブランド・インフルエンサーが三位一体で体験を共有するデザインが成功要因です。

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┗ 短期の波及効果だけでなく、LTVで“長期価値”へ転換する考え方と算出プロセスを紹介した記事です。

第6章 チェックリストとまとめ

  • 目的と指標を共有しているか
    プロジェクト開始時に「何をもって成功とするか」を明文化。認知→興味→購入→継続のどの段階を狙うかで、施策設計とKPIは根本的に変わります。
  • インフルエンサーの創造性を尊重しているか
    台本通りのセリフ読みではフォロワーが離脱しやすい。ブランドメッセージはエッセンスだけ共有し、語り口やシーン設定はインフルエンサーに任せるのが鉄則です。
  • 透明性を担保しているか
    #PR 表記を忘れるとステマと見做され炎上リスクが高まります。プラットフォームのガイドラインや消費者庁の「ステマ規制」に準拠し、投稿内で広告である旨を明確に示しましょう。
  • 効果測定フローを事前に設計しているか
    UTMリンク、クーポン、ランディングページ、ブランドリフト調査など多層的に仕組みを敷設。施策後に「結局どの数字を見ればいいのか」と迷うことがないよう、関係者全員でチェック項目を共有しておきます。

インフルエンサーマーケティングは、一見“バズ狙い”の派手な手法に見えますが、本質は「信頼と共感の構造化」です。

インフルエンサーの物語にブランドを溶け込ませ、フォロワーが自らの体験として語りたくなる仕組みを設計できれば、短期売上だけでなく長期的なファン基盤を築けます。本稿で示したフレームワークとチェックリストを活用し、まずはスモールスタートから PDCA を回しながら、自社に最適な共創モデルを育ててみてください。

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