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単純接触効果(ザイオンス効果)とは?広告・営業への活用法と注意点

2025/06/20

単純接触効果(ザイオンス効果)とは?広告・営業への活用法と注意点
コミューン編集部

コミューン編集部

「ユーザーに自社の商品やサービスを好きになってもらう」ことは、単なる認知拡大以上に重要なテーマです。ところが、どれだけ広告費を投じても、営業担当が熱心に訪問を重ねても、相手に好印象を持ってもらえるとは限りません。そんなとき、心理学の知見からヒントを得られるのが「単純接触効果(ザイオンス効果)」です。
 
これは「人は繰り返し接する対象に対して、自然と親しみや好意を抱きやすくなる」という現象で、広告、営業、SNS、イベントなどあらゆるタッチポイント設計に応用可能な考え方です。本記事では、この単純接触効果を深掘りし、その仕組みとビジネスへの活かし方、さらには見落としがちな注意点までをわかりやすく解説します。マーケティング担当者はもちろん、営業やブランド構築に携わるすべてのビジネスパーソンに役立つ内容となっていますので、ぜひご一読ください。

1章:はじめに

企業のマーケティングや営業活動において、「ユーザーに自社の商品やサービスを好きになってもらう」ことは、単なる認知獲得以上に重要な課題です。ところが、どれだけ広告に予算を投じても、営業担当者が何度訪問しても、相手の心に響くとは限りません。そんなとき、注目すべきヒントとなるのが、心理学の知見──単純接触効果(ザイオンス効果)です。

単純接触効果とは、ある対象に繰り返し触れることで、次第に好感や親近感が芽生えるという心理的現象を指します。人は無意識のうちに、「何度も目にする」「耳にする」「会う」といった体験を通じて、その対象に安心感を抱くようになります。初めは関心のなかったものでも、繰り返し接することで、いつの間にか好意的な印象を持ってしまう──それが、この効果の本質です。

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┗“認知の質”や“第一印象設計”に関する理解を深められます。

2章:単純接触効果(ザイオンス効果)とは

単純接触効果は英語で「mere exposure effect」とも呼ばれ、1968年に心理学者ロバート・ザイオンス(Robert B. Zajonc)によって提唱されたことから、「ザイオンス効果」としても知られています。

この現象の最大の特徴は、ある対象に対して「嫌いでも好きでもない」といったニュートラルな第一印象を持っていた場合、その対象に繰り返し接触することで、自然と好意的な感情が芽生えやすくなるという点です。

たとえば、最初は関心がなかった広告を街中で何度も目にしたり、毎日のように耳にするテレビCMのメロディが、気がつけば頭に残り、むしろ好ましく感じられるようになった経験はないでしょうか。あるいは、職場で特に印象のなかった同僚に、毎日顔を合わせているうちに親しみを感じるようになるといったケースも、単純接触効果のわかりやすい例です。

このように、同じ対象に繰り返し触れることによって、特別に意識していなくても好感や関心が徐々に高まっていく──それが単純接触効果の本質です。

ただし、この効果には前提条件があります。すでに強い嫌悪感やマイナスの印象を持っている対象に対しては、接触を重ねることで逆に不快感が強まる「逆効果」になる場合もあるのです。単純接触効果が成立するのは、あくまで「フラットもしくはプラス寄りの感情」がベースにあるときに限られる心理現象だということも、忘れてはなりません。

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┗単純接触を通じて生まれる“好意”を、どう“忠誠”にまで育てるかのヒントに。

3章:単純接触効果が起こる仕組み

なぜ繰り返し接触するだけで、人は対象に好感を抱くようになるのでしょうか。その背景には、人間の本能的な安心志向や、脳の情報処理の仕組みが深く関わっています。単純接触効果が生まれるメカニズムは、主に次の4つの観点から説明されています。

まず一つ目は、「安心感の獲得」です。人は本来、未知のものや初対面の対象に対して無意識に警戒心を抱く生き物です。しかし、何度も同じ対象を見聞きするうちに、脳が「これは安全な存在である」と判断し、自然と警戒が緩んでいきます。その結果、「見慣れている=安心できる」という認識が形成され、好意的な感情へとつながっていくのです。

二つ目は、「知覚的流暢性(フルエンシー)の向上」です。これは、情報を受け取る際の“処理のしやすさ”が感情に影響を与えるという心理学の仮説で、単純接触効果を支える理論のひとつです。人は、何度も見たものや聞いたものに対して、認知的な負荷が低くなり、スムーズに理解できるようになります。この“わかりやすさ”や“扱いやすさ”が、脳内で快の感情と結びつき、本来はただの「見慣れた対象」を「好きなもの」と錯覚してしまうのです。

三つ目の要素は、「潜在意識への影響」です。広告やロゴ、CMのフレーズといった反復的な情報は、必ずしも意識的に受け取られるわけではありません。むしろ、意識の外側で繰り返し接触した情報が、無意識のうちに「親しみ」や「信頼感」として蓄積されていきます。「なんとなく知っている」「聞き覚えがある」という感覚が、購買や選好の意思決定に密かに影響を及ぼすことが、さまざまな研究で示されています。

四つ目は、「人間の社会的本能」です。人類は言語が未発達だった時代から、「頻繁に顔を合わせる相手=仲間」と判断する本能的な仕組みを育んできたとされています。同じ空間で何度も顔を合わせる人には自然と親近感が湧き、敵意ではなく好意を持ちやすくなるのです。この本能的な傾向が、現代においても社内コミュニケーションや営業活動における信頼醸成に活かされています。

このように、単純接触効果には「安心感の形成」「認知負荷の低減」「無意識の刷り込み」「進化的な社会性」といった複数の心理メカニズムが重層的に関与しており、私たちが対象に対して好意を抱く仕組みは、決して単純ではないことがわかります。

ただし、注意すべき点もあります。一部の心理学実験では「接触回数が10回を超えると好感度が飽和、あるいは上昇が停滞する」といった結果が示されており、接触すればするほど効果が右肩上がりに高まるわけではないことが分かっています。過剰な接触は飽きや反感を生みやすく、逆効果となる可能性もあるのです。この点については、後の章で詳しく解説していきます。

4章:マーケティングでの活用法

単純接触効果は「好感度や関心を高める」という心理的な特性を活かし、マーケティングや営業、企業ブランディングの場面で幅広く応用されています。ここでは、実際のビジネスにおいてどのように活用されているのか、代表的な手法をいくつかご紹介します。

まず挙げられるのが、リターゲティング広告です。一度自社のWebサイトを訪れたユーザーに対し、別のWebページやSNS上で繰り返し広告を表示する手法で、もっとも単純接触効果を体現している施策のひとつです。ユーザーが初回訪問時に購入や問い合わせに至らなかったとしても、何度も同じ広告を目にすることで、次第に親しみや興味が高まり、再訪やコンバージョンの可能性が高まります。

次に、メールマガジンやフォローメールも効果的な手段です。すでに商品を購入した顧客や、資料請求・会員登録をしたユーザーに対して、定期的に情報を届けることで、ブランドとの関係性を維持し続けることができます。とくに新商品の案内やキャンペーン情報を定期的に配信することで、リピート購入やアップセルのきっかけを作ることが可能です。ここでも、繰り返し接することによって自然とブランドへの親近感が育まれていきます。

さらに、SNSの定期投稿も、現代のマーケティングにおいて欠かせない接触チャネルです。X(旧Twitter)やInstagram、Facebookなどのプラットフォームを活用し、企業アカウントから定期的に発信を続けることで、フォロワーとの接点が積み重なり、認知や関心が徐々に高まります。SNSの強みは、単なる情報発信だけでなく、ユーザーとのコメントやメッセージによる双方向コミュニケーションを通じて、より深い信頼関係を築ける点にもあります。

また、営業訪問やオンラインミーティングも、単純接触効果を活用した典型的な例です。営業担当者が継続的に顧客や見込み顧客と接点を持つことで、「顔を知っている人」「話したことがある人」という親しみが醸成され、商談のハードルが下がります。近年ではオンライン会議ツールの普及により、対面でなくても定期的な接触を維持することが容易になりました。むしろ、短い時間でも繰り返し顔を合わせることが、顧客との距離を縮めるポイントになるのです。

次章では、単純接触効果を活用する際に注意すべき点や、接触頻度の最適な設計について詳しく解説します。

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┗接触によって得た関心を、UGCへ展開する際の活用手順として有効です。

5章:活用時の注意点

単純接触効果は強力な心理現象ですが、いくつかの注意点を押さえていないと、思わぬ逆効果を招く可能性があります。特に以下の4つは必ず意識しておきたいポイントです。

  1. 初期印象がマイナスの場合は逆効果
    単純接触効果は、初期印象がフラットないしプラス寄りの対象に対しては好印象を強めます。しかし、もし第一印象で不快感や強い嫌悪感を与えてしまった場合、繰り返し接触するほど相手のネガティブ感情を増幅させてしまう危険があります。したがって、営業や接客の場面では最初の挨拶や態度が極めて重要です。

  2. 接触回数に上限がある
    一部の研究では「接触回数が10回前後で好感度がピークに達する」とも示唆されています。現実には商品や業種によって最適な回数は異なるものの、広告の出しすぎや過度な営業メールは「しつこい」「うるさい」という印象を与えやすいため、適切な頻度を見極める必要があります。

  3. 頻度やタイミングのバランス
    月に1回や年に数回程度の稀な接触では、相手に忘れられてしまう可能性が高まります。一方、1日に何度も同じ広告が目に入れば、鬱陶しさや嫌悪につながるでしょう。理想的には、相手の状況や興味関心を考慮しながら「間隔を空けすぎず、詰めすぎず」のペースを探ることが大切です。

  4. 広告疲れを避ける工夫
    消費者は常に多くの広告や情報に晒されており、同じクリエイティブやメッセージを何度も見せられると「広告疲れ」を起こしやすくなります。フォーマットや文面、画像などを少しずつ変化させることで、同じブランドの露出でも飽きや嫌悪を招きにくくする工夫が必要です。

こうした注意点を踏まえたうえで、適度な接触頻度や質の高い情報提供を行えば、単純接触効果はビジネス成果に大きく貢献してくれます。逆に「何度も目に触れれば自然と好きになってもらえる」という安易な思い込みだけで施策を進めると、思わぬ失敗を招くリスクがある点に注意しましょう。

6章:単純接触効果を高めるコツ

前章で紹介した注意点をクリアしたうえで、単純接触効果をより効果的に発揮させるにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、実践の質を高めるための4つのコツをご紹介します。

1. 質の高い情報提供を心がける
接触の“回数”を重ねることは確かに重要ですが、それ以上に「接触の中身」が問われます。内容が薄かったり、ユーザーにとって無関係だったりすると、「またどうでもいい情報が来た」と受け取られてしまう可能性があります。毎回の接触で新しい発見や役立つ知識、課題解決のヒントを提供できれば、その都度ポジティブな印象を上書きしていくことができます。単なる認知獲得ではなく、「会うたびに信頼が増す」という接点を目指すべきです。

2. 複数チャネルを組み合わせて接触する
同じフォーマット、同じ場所で何度も広告や情報を発信していると、ユーザーはやがて視線をスルーしがちになります。Web広告だけでなく、SNS投稿、メールマガジン、DM、オフラインのイベントや資料など、複数のチャネルを適度に組み合わせることで、接触の鮮度とバリエーションを保ちつつ、効果的な反復が可能になります。異なる文脈で繰り返し目にすることで、単純接触効果の自然な醸成が期待できます。

3. 短期間で集中的にアプローチする
顧客が興味を持ち始めた“反応の兆し”が見えたタイミングで、一定期間集中的に接触を増やすのも有効です。たとえばキャンペーン前の1〜2か月間、SNS投稿や広告の配信頻度を意図的に高めておくことで、ユーザーの購買意欲を温め、キャンペーン開始時に一気にコンバージョンへとつなげる設計が可能になります。「興味が高まっている時期に、逃さず存在を思い出させる」という接触設計が成果を左右します。

4. “初回印象”を徹底的に磨く
繰り返しの接触が効果を発揮するためには、「最初の印象がマイナスではない」ことが大前提です。初回の営業メールの文面が雑だったり、問い合わせ対応が不親切だったりすると、それ以降いくら接触を繰り返しても好感度が高まるどころか、むしろ悪化する可能性すらあります。第一印象がフラットまたは好意的であるよう、言葉遣い、デザイン、トーン、対応スピードなど、最初の接点には特に丁寧さが求められます。

これらのポイントを押さえることで、「ただ回数をこなすだけ」の単純なアプローチから脱却し、「接触のたびに印象が良くなる」設計へとステップアップできます。単純接触効果をビジネスに取り入れる際は、質と量の最適なバランスを見極めることが最大の成功要因となるのです。

7章:まとめと今後の展望

単純接触効果(ザイオンス効果)は、人間が「よく見るもの」を好意的に感じやすいという普遍的な心理を明らかにした理論です。学術研究だけでなく、日常生活やビジネスの現場でも数多くの実証が積み重ねられてきました。その活用範囲は広告、セールス、ブランディング、人材採用など多岐にわたります。

一方で、最初の印象が悪い場合や頻度を誤った場合、逆効果になるリスクも抱えています。むやみに接触回数だけ増やすのではなく、初期印象の設計・接触回数のコントロール・不快感を与えない情報の質などを総合的に考えることが不可欠です。また「10回がピーク」という研究も示すように、過度な接触は飽きや嫌悪を招く可能性があることを認識しましょう。

現代はSNSやWeb広告の発達によって、ユーザーと企業の接触チャネルが格段に増えました。今後も多様なデジタルメディアが登場し、人々が日常的に受け取る情報量は増え続けます。だからこそ、単純接触効果を正しく理解し、質と量のバランスを巧みに設計することで、効果的なマーケティングを実現できるでしょう。

もし自社の施策で「認知はあるが、好意を獲得できている実感が少ない」と感じるなら、まずは接触の質や頻度を見直してみてください。単なる知名度アップではなく、ユーザーが「このブランドにはなんとなく好印象を持っている」と思う境地まで導くことができれば、競合他社との差別化にもつながります。単純接触効果をうまく活かす施策の設計は大変ですが、顧客との関係をじわじわと深め、長期的に顧客ロイヤルティを高める手段として非常に有効です。

以上が単純接触効果の概要やビジネスでの具体的活用ポイント、そして留意すべき注意点や効果を高めるコツとなります。ぜひ自社のマーケティング活動・営業戦略に取り入れてみてください。繰り返しアプローチする際の設計をほんの少し変えるだけで、顧客の感じ方や購買行動が驚くほど変わる可能性があります。しっかり学んで実践に移し、継続的な成果を積み重ねていきましょう。

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