
コラム
カスタマーサクセス
カスタマーリレーションズとは?BtoB事例と施策ステップ
2025/04/17

新規顧客の獲得コストが高騰し、競合製品との価格・機能差が縮まるなか、「顧客との長期的な関係づくり」がビジネスを左右する時代に突入しました。
本記事では、カスタマーリレーションズ(Customer Relations)の重要性から実践方法、BtoB領域ならではの視点、さらには成功事例までを網羅的に解説します。新たな仕組み導入を検討中の方や、現行の顧客施策を見直したい方にも役立つ具体的なヒントを提供していますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
カスタマーリレーションズとは何か
カスタマーリレーションズ(Customer Relations)とは、企業が顧客と長期的に良好な関係を築き、相互に価値を創出し合うための戦略・活動の総称です。単発の取引ではなく、継続的なコミュニケーションを通じて顧客満足度やロイヤルティを高めることで、リピート購入やポジティブなクチコミにつなげる考え方を指します。
近年はデジタルチャネルの普及や競合の激化により、顧客は多様な選択肢を容易に比較検討できるようになりました。その結果、「安いから買う」「性能がいいから買う」といった従来型の差別化が難しくなり、企業と顧客の結びつきそのものが競争力として注目されるようになっています。
カスタマーサービスとの違い
似た言葉に「カスタマーサービス」がありますが、これは顧客からの問い合わせやクレームへの対応などリアクティブな性格が強いものです。一方、カスタマーリレーションズは「顧客体験の向上を目的に、企業側から能動的に関係を深めにいく」プロアクティブ点が特徴です。
もちろん高品質のカスタマーサービスは関係性の土台となりますが、あくまでひとつの要素であり、カスタマーリレーションズはより包括的な概念として位置づけられます。
CRM・カスタマーサクセスとの関係
- CRM(Customer Relationship Management):
- 顧客情報を一元管理し、営業・マーケティング・サポート部門間で連携するためのツール・仕組み。
- カスタマーサクセス:
- 特にサブスクリプション型ビジネスで注目される考え方で、顧客企業が製品・サービスを活用して成功することを支援する活動。
これらはカスタマーリレーションズを支える具体的な手段や考え方といえます。たとえばCRMを活用して顧客情報を整理し、カスタマーサクセスチームが定期的に顧客をフォローすることで、リレーションズを強固にしていく流れが確立します。
カスタマーリレーションズの範囲
- 問い合わせ・サポート対応:購入前後の不安や不明点を素早く解消
- 顧客データ分析:購買履歴や利用状況を踏まえ、きめ細かな施策を打つ
- コミュニケーション戦略:メール・電話・SNSなど多チャネルで接触機会を創出
- アップセル・クロスセル:顧客価値をさらに高めるための追加提案や上位プラン移行
このように、カスタマーリレーションズは企業と顧客を長く結びつけるためのあらゆる活動を含んでいます。

カスタマーリレーションズが重要な理由
市場環境の変化
かつては製品やサービス自体の差別化が容易でしたが、現在では供給過多やグローバル化による価格競争で顧客獲得が難しくなっています。さらにSNSなどの口コミが瞬時に拡散されるため、顧客満足度がブランド評判を直接左右する時代です。
こうした状況下では「長期的関係の構築」が競争優位を生む鍵となり、カスタマーリレーションズの重要性が高まっています。
顧客維持・リピートの経済効果
新規顧客の獲得コストは、既存顧客の維持コストよりも数倍高いという「1:5の法則」が有名です。特にBtoB領域では一度契約した顧客が長期にわたって取引を続ければ、安定的かつ大きな収益源となります。カスタマーリレーションズがしっかりしていれば、多少の不満や競合の提案があってもすぐに離れにくく、結果的にLTV(顧客生涯価値)の向上につながります。
ブランドイメージと口コミ拡散
顧客満足度が高いと、人は自然とポジティブな情報を周囲に伝えたくなるものです。ネット上のレビューやSNSの評価が、次の新規顧客を呼び込む効果を生むため、企業が能動的に広告を打たずともブランドの評判を高められます。
反対に、悪い体験は即座にネガティブ口コミとして拡散し、企業イメージを損なうリスクが高まります。カスタマーリレーションズに注力することで「良い口コミが増えやすい仕組み」を整えられるのです。
顧客離脱の抑制とLTV最大化
- 離脱リスクの抑え込み:
定期的なフォローや迅速な対応で、顧客が不満をため込む前に改善アクションをとれる - 追加提案機会の創出:
顧客を深く理解していれば、ニーズの変化に合わせた提案が可能になる - 長期視点での利益確保:
毎回の小さな取引よりも、長期契約による安定収益が得やすい - ロイヤルティ促進:
顧客が愛着を持ち、競合からの誘いにも揺らぎにくい状況を作れる
上記のように、顧客との関係性を深めることがLTV(顧客生涯価値)を高め、企業の持続的成長に直結します。

BtoBカスタマーリレーションズに求められる視点
複数ステークホルダーへの対応
BtoB(企業間)取引では購買担当、経営層、利用部門など、一社の中でも意思決定者が複数いることが一般的です。それぞれが異なるニーズや関心領域を持つため、コミュニケーションの切り口を変えてアプローチする必要があります。
例えば現場の担当者には操作方法や運用メリットを訴求し、経営層にはROIや財務面での優位性を提示するなど、役割ごとに共感を得る工夫が欠かせません。
長期的パートナーシップの重要性
BtoBでは契約規模が大きく、一度パートナーとして選ばれれば比較的長期にわたって取引が継続するケースが多いです。顧客から見ても「ベンダーを変えるリスク」は大きいため、安定したサービス提供や手厚いサポートがある企業は優位性を得やすいといえます。
つまり、信頼される長期的パートナーになるための取り組みがBtoBのカスタマーリレーションズでは特に求められます。
カスタマーサクセスの役割
サブスクリプション型サービスが増えるにつれ、単に売って終わりではなく「顧客企業が自社製品で成果を上げるよう伴走する」姿勢が重視されるようになりました。これがカスタマーサクセスの概念です。
たとえば四半期ごとのビジネスレビュー(QBR)を行い、導入成果や改善点を検証し続けることで、顧客は契約更新やアップグレードを前向きに検討しやすくなります。
BtoBカスタマーリレーションズ強化の要点
- 継続的なヒアリング:クライアントのビジネスゴールや課題を定期的に確認
- 専任担当者の配置:営業とサポートが連携し、窓口を一本化してスムーズに対応
- 契約更新前のフォロー:不満や疑問を事前に解消し、安心して更新できるように支援
- コミュニティ運営:同業種の他社事例などを共有し、ユーザー同士の学び合いを促進
カスタマーリレーションズを強化するには
顧客理解の深化
まずは顧客を知ることがスタートラインです。購入履歴や問い合わせ内容、あるいはSNSでの発言など、あらゆる接点から得られるデータを分析し、「顧客が求めるものは何か」「どんな課題を抱えているか」を把握します。
BtoBの場合は「業界動向」「顧客企業の組織構造」「競合ベンダーの存在」なども含めて理解を深めると、より的確な提案やサポートが行いやすくなります。
プロアクティブなコミュニケーション
問い合わせを待つのではなく、積極的に顧客にアプローチしていく姿勢が大切です。製品のアップデート情報や活用事例、Webセミナーの案内などを定期的に届けるとともに、困りごとがないかをヒアリングすることで信頼度が高まります。障害や遅延が発生しそうな場合も事前に知らせておくと、顧客が感じる不満は格段に小さくなります。
一貫性ある顧客体験
- 部門横断での顧客情報共有:営業部とサポート部でデータを連携し、担当が変わっても同じレベルの対応
- 統一されたメッセージ:製品のメリットや料金体系など、社内で統一した情報を提供
- サービス方針の周知徹底:カスタマーリレーションズ重視の姿勢を社員全員が共有
- 顧客接点の可視化:チャット、メール、電話など各チャネルでのやり取りを把握
こうした仕組みを整えることで、どの担当と話しても同じ質のサポートが受けられると顧客は感じ、安心感が増します。
アップセル・クロスセルの機会
カスタマーリレーションズを強化すれば、顧客の課題や状況を把握しやすくなるため、自然な形でアップセル・クロスセルがしやすくなります。ただし“押し売り”は逆効果なので、顧客にとって本当に役立つ追加提案だけを丁寧に行うのが原則です。

ツールとテクノロジーの活用
CRMの導入
顧客情報を一元管理し、営業・マーケティング・サポート各部門がリアルタイムでデータを共有できる仕組みは、カスタマーリレーションズの基盤となります。システム上で顧客とのやり取り履歴や購買履歴を把握できるため、個々の顧客に合わせた対応やフォローアップが可能になります。
マーケティングオートメーション
見込み顧客から既存顧客まで、一連の顧客ライフサイクルに合わせて適切なコンテンツを配信・スコアリングするMA(Marketing Automation)は、BtoBでも一般的なツールになりました。定期的なメールマガジンや興味度合いを高める育成施策を自動化でき、効率よくコミュニケーションを継続できるのがメリットです。
ヘルプデスクやチャットボット
問い合わせ対応を迅速化するため、ヘルプデスクシステムやチャットボットの導入が効果的です。チャットボットが一次対応を行い、複雑な質問や高度なサポートは人間のオペレーターに引き継ぐハイブリッドな運用により、顧客がいつでも回答を得られる環境を整備します。
データ分析とAI活用
- 離脱予測:AIで顧客の行動データを解析し、離脱リスクの高い顧客を事前に特定
- パーソナライズ提案:購買履歴や利用状況をもとに、顧客に最適な製品・サービスをレコメンド
- 感情分析:問い合わせログやSNS投稿を解析し、顧客満足度や改善ポイントを把握
- 自動応答の高度化:AIチャットボットが自然言語処理で柔軟に顧客の意図を理解
こうした高度な分析や自動化により、企業はより高精度なカスタマーリレーションズ施策を展開できます。

成功事例から学ぶポイント
海外企業の先進事例
たとえばAmazonは顧客一人ひとりの嗜好を把握し、レコメンデーションや関連商品の提案を行うことで大きな売上増を実現しています。Zapposは「顧客満足度を最優先」という方針のもと、電話対応に上限時間を設けず顧客が納得するまで話し込める体制を築き、結果的に熱狂的ファンを獲得しました。
どちらも「顧客を深く理解し、その期待を超えるサービス」を軸にしている点が共通しています。
BtoB企業での取り組み例
ITソリューションを提供する企業がカスタマーサクセスチームを設置し、導入後の運用支援や定期レビュー(QBR)を徹底することで、契約更新率やアップセルが著しく向上した事例があります。また、ユーザーコミュニティを運営し、顧客同士の成功事例やノウハウを交換する場を提供することで、利用促進と離脱抑止に成功したケースも見られます。
事例から得られる共通点
- 常に顧客の声に耳を傾け、サービス改善に活かしている
- トラブルや課題を放置せず、早めに手を打つプロアクティブな姿勢
- 社内で顧客情報や顧客対応方針が共有され、対応に一貫性がある
- 顧客に無理な売り込みをせず、あくまで「価値提供」を重視する
こうした取り組みが“顧客第一”の姿勢を裏付け、リレーションズ向上につながります。
トラブル対応の好事例
トラブル時の誠実な対応がかえって顧客ロイヤルティを高めることがあります。たとえば障害発生時に顧客からの連絡を待たず、企業自ら「問題の原因・対策・見込み時期」を迅速に伝え、フォローアップも行うことで「この会社は信頼できる」という感情を生むのです。
まとめと今後の展望
ここまでカスタマーリレーションズの概要から、BtoB特有の視点や具体的施策、そして成功事例までを網羅的に解説しました。ポイントをおさらいすると、以下のようになります。
- 顧客との長期的関係を構築する
- 複数ステークホルダーを考慮し、長期的パートナーシップを意識する
- プロアクティブなコミュニケーションと、一貫した顧客体験
- CRMやMAツールなどを適切に導入し、効率と品質を両立する
具体的な施策に移す際は、まず社内の顧客データや問い合わせ対応状況を洗い出し、現状の課題を明確にするところから始めましょう。BtoBの場合は特に、営業部門だけでなくサポートやコンサルティング部門とも連携し、全社的なプロジェクトとして取り組むのがおすすめです。
AI・データ分析技術の進化に伴い、顧客ごとの行動パターンや離脱リスクをさらに精緻に把握できるようになるでしょう。ただし、自動化やチャットボットに頼りすぎて“人間だからこそできる丁寧な対応”を失わないよう注意が必要です。顧客が本当に困ったときや大きなトラブルが起こったときに、対面や電話で親身にサポートできる体制を残しておくことがカスタマーリレーションズの要になります。
もし具体的な導入や施策立案でお悩みでしたら、専門家やコンサルタントに相談するのも有効です。企業規模や業種に合わせたカスタマーリレーションズの最適解を見つけることで、長期的に安定した収益や評価を得られるでしょう。
価格競争や機能比較だけでは差別化しにくい時代だからこそ、企業と顧客の絆がビジネスの成否を決めるカギになっています。今回の解説を通じて、カスタマーリレーションズの重要性や具体的な強化手法が理解できたと思いますので、ぜひ自社の現状を見直し、一歩ずつ改善に取り組んでみてください。