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リテールメディアとは?クッキーレス時代を牽引する新たな広告モデル

2025/06/24

リテールメディアとは?クッキーレス時代を牽引する新たな広告モデル
コミューン編集部

コミューン編集部

サードパーティCookieの廃止やオンライン・オフラインの融合など、小売業界を取り巻く環境は大きく変化しています。そこで急浮上しているのが「リテールメディア」という新たな広告モデルです。実購買データをもとに商品を訴求しながら、小売企業・広告主・消費者のすべてにメリットをもたらすこの手法は、なぜ今これほど注目されているのでしょうか。本記事では、リテールメディアの仕組みや背景、具体的な活用法までをわかりやすく解説します。

1.リテールメディアとは何か

リテールメディアとは、小売企業が自社の持つ販売チャネルや顧客接点を“広告媒体”として活用し、広告主(メーカーなど)に広告枠を提供するビジネスモデルを指します。ECサイトや店舗アプリ、店頭デジタルサイネージ、POSレシートなどを通じて広告を配信し、その対価として広告費を得る仕組みです。もともと販売を主業としてきた小売業者がメディア事業者と同様に“広告の収益源”を持つ形であり、ここ数年で急速に注目を集めています。

リテールメディアの大きな特徴は、ファーストパーティデータの活用にあります。企業が独自に蓄積した購買履歴や会員情報などを用い、顧客の趣味嗜好や購買タイミングを精緻に分析することで、最適な広告を届けられる点が既存メディアと異なる強みです。特に個人情報保護の流れでサードパーティCookieの利用制限が進みつつあるいま、小売業者が自ら保有するデータの重要性は増す一方といえます。

こうした仕組みはECやスマホアプリの世界だけでなく、店舗内でも同様に機能します。デジタルサイネージや店頭POPでのクーポン発行、店舗での購買行動データとオンライン広告を連携するOMO的なアプローチがその代表例です。オンラインとオフラインをひとつのメディアとして捉えられるのがリテールメディアの強みであり、海外のAmazonやWalmartなどが先行して莫大な広告売上を生み出していることでも知られています。

  • リテールメディア=小売業が持つ媒体(EC、アプリ、店舗サイネージ等)

  • ファーストパーティデータ(購買履歴等)の活用が肝

  • 従来の外部メディア依存から転換し、自社内で広告収益を得る

  • オンラインとオフラインの両方で展開可能

こうした意味合いを押さえるだけでも、「なぜリテールメディアがこれほど話題なのか」を理解しやすくなるでしょう。

2.今なぜリテールメディアが注目されるのか

リテールメディアに注目が集まる背景には、複数のマーケティング潮流が交差しています。第一に、サードパーティCookie廃止やプライバシー規制強化の影響です。従来のデジタル広告は外部のCookie情報をもとにターゲティングしていましたが、ブラウザの仕様変更や法規制により使えなくなる場面が増えました。その代替策として、自社が直接取得したファーストパーティデータを広告配信に活用するリテールメディアが一気に存在感を高めています。

第二に、小売業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んだことも大きな要因です。ECや会員アプリを中心にオンラインとオフラインの境界が薄れ、店舗でもIoTやAIを活用して顧客行動をデータ化しやすくなりました。こうしたテクノロジーの進化により、小売企業が従来はとても実現できなかった高度な広告配信や効果測定を内製化できるようになっています。

さらに、海外市場での急成長が注目を後押ししています。AmazonやWalmartが数千億円規模の広告収益を上げている事実は「小売業が広告ビジネスを手がけるのは有力だ」という実例として世界の企業にインパクトを与えました。日本国内でもコンビニやドラッグストアの大手チェーンが相次いでリテールメディアに乗り出し、足元でも広告ソリューションの整備や協業が進み始めています。

  • サードパーティCookieの制限とプライバシー強化

  • 小売業のDX化により顧客データの蓄積・活用が容易化

  • 米国Amazon・Walmartの圧倒的成功が国内にも波及

  • コンビニや量販店の事例が増え、市場全体が盛り上がる

こうした複数要素が重なり合い、「自社の顧客データを使って広告収益を得る」という新ビジネスモデルが加速しています。

– 関連記事:インサイトとは何か?顧客の「理屈」ではなく「気持ち」に耳を澄ませる
┗広告配信の“精度”だけでなく、ユーザーの感情文脈を捉えるインサイト視点を学べます。

3.リテールメディアのメリットと恩恵

リテールメディアの特徴を理解するには、「誰にとってどのようなメリットがあるのか」を押さえるのが手っ取り早い方法です。ここでは、小売企業(リテール事業者)、広告主(メーカーなど)、消費者の三者それぞれに分けて整理してみます。

小売企業側のメリット

小売企業は、自社が保有するECサイトや店舗アプリ、店頭の広告枠を広告主に販売できるため、新たな収益源を得るチャンスがあります。しかも、購買データを分析して確度の高いターゲティング広告を提供できれば、広告単価を高めつつ顧客への訴求力もアップします。また、販促費用を従来の外部メディアに払うよりも、自社メディアで循環させたほうがコスト効率が良い場合も多く、販促施策の内製化という観点でもメリットがあります。

広告主(メーカー)側のメリット

メーカーなど広告主の視点では、実購買データに基づく高精度のターゲティングが可能になるのが大きな利点です。興味関心や購入履歴がはっきりしている顧客に広告を届けられるため、認知獲得から購買までの効率が向上します。とくに日常品やリピート需要が高いカテゴリーでは、使い終わる頃に最適なクーポンを発行するといったきめ細かい施策が実現しやすくなり、費用対効果の向上が期待できます。

消費者側のメリット

消費者は自分の興味やニーズに合う情報を適切なタイミングで得やすくなり、購買体験の向上につながります。必要のない広告ばかり見せられるストレスが減り、「今ちょうど欲しかった商品が割引されている」という嬉しい提案が届く可能性が高まります。ただし、小売企業にはプライバシーへの配慮と広告を送りすぎないバランスが求められる点は留意すべきでしょう。

三方良しの構造

リテールメディアは、小売企業・広告主・消費者の三者全員が得をするモデルとして語られます。小売企業は新収益を得てDXを加速でき、広告主は実購買データに基づく精度高い広告を打ち、消費者は手間なく欲しい情報を入手できる——この「三方良し」の構造こそ、リテールメディアが急成長している背景にあります。

– 関連記事:顧客インサイトとは?見つけ方・成功事例まとめ
┗購買行動の背後にある“なぜ買うのか”を掘り下げ、リテール広告精度を高める参考になります。

4.代表的な事例:海外と国内

リテールメディアの話題を語る上で、海外事例としてWalmartAmazonは外せません。日本国内でも、コンビニやドラッグストアの事例が脚光を浴びています。それぞれの主要な成功要因を簡単に見ていきましょう。

Walmart(海外)

Walmartは全米各地に5,000店を超える実店舗を持つ小売大手で、ECサイトも運営しています。店舗内サイネージだけでも十数万台規模という膨大な広告枠を抱え、その視聴データと実際の購買データを組み合わせて広告主にレポート提供する「Walmart Connect」を展開しています。2022年の広告収益は数千億円規模に達し、デジタル×実店舗をフル活用したリテールメディアの代表格として世界的な注目を集めています。

Amazon(海外)

AmazonはECプラットフォームそのものが巨大なメディアとして機能します。検索結果画面で「スポンサープロダクト広告」を表示するほか、購買履歴や閲覧履歴に基づいてレコメンド広告を展開。2023年時点の広告収益はすでに数兆円規模とも言われ、米国の広告市場でGoogleやFacebookに続く存在に成長しています。オンライン完結型リテールメディアの極致として、膨大なユーザー数とトランザクションデータを武器に広告ビジネスを拡大中です。

コンビニ(国内)

日本のコンビニエンスストア大手も、アプリ会員数が数千万規模に達しており、そこにターゲティング広告を出せる魅力は大きいです。たとえばセブン‐イレブンは「セブンアプリ」で個々の購買データを紐づけし、クーポン配信の効果測定を重ねています。ファミリーマートでは大手広告会社と組み、レジ上モニターに動画広告を流す取り組みを進めており、店舗数の多さを背景に大規模な広告ネットワークを作り上げる計画を発表しています。

ドラッグストア・家電量販(国内)

マツモトキヨシやヤマダデンキなども、ポイントカード会員データやアプリ連携を活かして、店頭POPとオンライン広告を組み合わせたリテールメディア施策を拡充中です。たとえばマツキヨでは、ある動画広告の実施によって対象商品の購入率が170%以上に伸びたといった成果を公表しています。家電量販大手でも、店舗サイネージとスマホアプリ、さらにはECサイトの閲覧履歴を組み合わせる形でメーカーへの広告提案を強化しており、新たな収益の柱として育成を目指している状況です。

5.導入・活用のステップとポイント

リテールメディアを実際に導入する際は、企業の規模や業態によってアプローチが異なります。それでも、大まかに共通するプロセスを挙げると以下のような流れになります。

まずは顧客データ基盤の整備が欠かせません。ECやポイントカード会員の購買履歴、店頭のPOSデータなどを集約し、分析しやすい形に管理する必要があります。このデータを活用してターゲットをセグメント化できれば、どの層にどんな広告を届けるかが見えてきます。

次に、配信媒体と広告枠の設計を行います。ECサイトやスマホアプリのどの画面に広告を表示するか、店頭サイネージやPOPをどう配置するかを具体化する段階です。この際には、あまりに広告を大量に詰め込みすぎると利用者体験を損なう可能性があるので注意が必要です。

その後、広告主への提案・契約を進めます。小売企業が広告主(メーカーや代理店)とやり取りし、広告枠の価格設定や掲載期間、クリエイティブの内容などを決めます。最近は、大手小売が自社広告プラットフォームを整備し、オンラインで広告出稿が完結できる仕組みも登場しています。

最後に、効果測定とPDCAを回します。何件の広告が表示され、どのぐらいのクリック率や購買率を獲得したか。クーポン回収率や来店率なども合わせて検証し、改善案を練って次の広告配信に反映させます。ここで重要なのは、小売側だけでなく広告主も結果を共有し、施策をブラッシュアップする体制を作ることです。

  • データ基盤整備(EC、POS、会員情報の統合)

  • 媒体・広告枠の設定とユーザー体験への配慮

  • 広告主との契約・価格交渉・クリエイティブ準備

  • 効果測定と継続的なPDCAサイクル

適切なステップを踏めば、リテールメディアは小売企業にとっての新たな柱として機能し、広告主と継続的な関係を築く好循環を生む可能性があります。

– 関連記事:なぜコミュニティが、ユーザーインサイト獲得に効くのか?
┗リテールメディア戦略の「顧客理解の深化」には、コミュニティが大きな力を発揮します。

6.成功のための課題と対策

リテールメディアには大きな可能性がある一方で、実際に運用する際にはいくつかの課題も存在します。ここでは代表的なものを整理し、その対策を考えてみましょう。

まず、小売企業にとっては広告ビジネスのノウハウ不足が挙げられます。従来の小売事業の枠を超え、広告枠の管理やクリエイティブディレクション、広告効果のレポート作成など、広告会社さながらの知識と運営体制が必要になります。解決策としては、広告会社やDXコンサルティング企業と提携し、運用代行やプラットフォーム導入を進めるのが現実的でしょう。

次に、顧客データのプライバシー保護への懸念があります。ファーストパーティデータを使うといっても、ユーザーの同意を得ずに過剰な広告を送ったり、個人情報を不適切に扱うと反発が起こりかねません。プライバシーポリシーの整備、オプトアウトのしやすさ、セキュリティ対策などを徹底し、信頼を損ねない運用が必須となります。

また、広告主側から見ると媒体ごとの規格の違い効果測定の難しさが障壁となり得ます。小売企業ごとに配信フォーマットや測定指標が異なるため、複数リテールメディアを横断して広告を出す際に比較がしづらいのです。標準化や第三者プラットフォームの活用を進めることで、広告主にとって使いやすい環境を整えなければ、規模の拡大は難しいでしょう。

  • 広告ビジネス運営のノウハウ不足

  • 顧客データのプライバシー保護・適切な活用

  • 媒体規格の標準化と効果測定の一元管理

  • 広告過多によるユーザー体験の悪化リスク

こうした課題をクリアすることで、小売企業は信頼性の高い広告プラットフォームとして成長し、広告主・消費者からも歓迎されるメディアに進化できます。

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┗“広告の見せ方”と“どう認識されるか”のギャップを埋める視点として有効です。

7.今後の展望とまとめ

リテールメディア市場は今後も拡大傾向が続くと見られています。ある調査会社のレポートによれば、米国では検索広告・SNS広告に次ぐ“第三の広告市場”として2025年以降も安定成長すると予測されています。日本国内でも、コンビニやドラッグストアに加えて家電量販、ホームセンターなど多様な業態が参入しており、さらにはスーパーや飲食チェーンまで独自のリテールメディアを模索し始めています。

今後は、リアルとデジタルのさらなる融合が鍵を握るでしょう。店舗内で取得できる行動データ(来店頻度、棚前滞留時間など)とEC上の閲覧履歴をシームレスに統合し、One to Oneレベルの高度なパーソナライズ広告を実現する試みが加速すると考えられます。また、データクリーンルームなどの仕組みを使って、より安全に外部データや異業種の情報とも掛け合わせる取り組みが広まれば、リテールメディアの可能性はさらに広がるはずです。

一方で、広告の出し過ぎやプライバシーへの配慮不足が顧客体験を損ねるリスクも否定できません。小売企業はDX推進の視点からリテールメディアを検討する際、顧客に心地よいサービスを提供するという基本を忘れてはいけないでしょう。結局のところ、生活者の購買行動を深く理解し、適切な接点で無理なく情報を提供することができれば、広告主・消費者ともに“メリットの大きい”メディアとして発展していきます。

リテールメディアは、これからの広告市場を変革し得る大きな潮流です。小売業が広告会社のようにメディアを内製化することで、企業としての収益アップ、広告主の効果向上、消費者の利便性アップを同時に叶えられる点が魅力です。現状でも、コンビニやドラッグストアといった業種を中心に事例が続々生まれていますが、今後はさらに多種多様な小売企業が自社チャネルをフル活用する時代が来るでしょう。今この瞬間にも、Cookieレス時代の最適解として注目度が高まっているリテールメディアの動向からは、まだまだ目が離せません。

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