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マーケティング
心理ロイヤルティとは?測定指標・高める4施策・成功事例を5分で理解
2025/05/09

心理ロイヤルティとは、顧客の「好き・共感・応援したい」という感情のことを指します。広告や値引き「だけ」で選ばれる時代は終わりました。ブランド成長の決め手となるのは、顧客の心を動かす心理ロイヤルティです。
本記事では NPS+感情アンケートでの測定法から CX 改善・コミュニティ活用・パーソナルサプライズまで、ファン化を加速させる4大施策と国内外の成功事例を5分で解説します。
目次
1. 心理ロイヤルティの定義と行動ロイヤルティとの違い
一般に「ロイヤルティ(Loyalty)」は、特定のブランドや商品・サービスを継続的に選択・推奨することを指し、企業の収益安定化や口コミ拡大に寄与すると言われています。ロイヤルティには、大きく分けて以下の2種類が存在します。
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行動ロイヤルティ(Behavioral Loyalty)
実際に何度も購入したり、周囲の人に薦めたりする“行動”ベースのロイヤルティ。 -
心理ロイヤルティ(Psychological Loyalty)
ブランドや企業に対して「好き」「共感」「信頼」「応援したい」といった“感情”レベルでのロイヤルティ。
一見、行動ロイヤルティが高い顧客は「強固なファン」のように思えますが、実は「価格が安いから」「割引・ポイント特典があるから」という理由で動いているケースも少なくありません。こうした場合、競合がより魅力的なキャンペーンを打ち出せば、あっさりと離反してしまうリスクがあります。
一方で心理ロイヤルティが高い顧客は、たとえ価格差があろうとも「このブランドと付き合い続けたい」と考えるため、長期的に安定した売上基盤を支えてくれます。行動ロイヤルティと心理ロイヤルティは互いに影響を及ぼし合いますが、根本で顧客の心をつかむことが、真のロイヤル顧客を生むカギとなるのです。
顧客満足度(CS)との違い
「顧客満足度(Customer Satisfaction)」は、顧客が感じる満足の度合いを示す指標です。「自分の期待値がどの程度満たされたか」という視点で計測されるため、「不満がない」という評価になることも多々あります。
しかし、「不満がない=好き」ではありません。
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不満点がないけれど、特別に魅力を感じてもいない
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あえて積極的に周囲に勧めるほどではない状態
このように満足度が高いとしても、心理ロイヤルティが高いとは限らないのです。顧客満足度の高い顧客が、ある日突然「価格が安いから」と競合に乗り換える可能性も否定できません。したがって、企業が「ファンを増やし、長く応援してもらいたい」と考えるのであれば、心理ロイヤルティという“感情面”を別の軸で測る視点が必要になります。
2. なぜ今注目?市場背景とビジネス効果
スマホやSNSの普及によって、消費者が手軽にアクセスできる情報は爆発的に増えています。少しでも安い商品や、より魅力的なキャンペーンの情報を見つけると、「試しに乗り換えてみよう」と動くユーザーは珍しくありません。また、商品やサービスのスペック差が極めて小さい市場では、企業間の価格競争が激化しがちです。
このような「価格や機能だけでは差別化しにくい」状況下で、顧客に「ここが好き」「応援したい」と思われるかどうかは相対的に非常に重要になってきました。心理ロイヤルティの獲得が、価格競争から抜け出すための武器になるのです。
LTV向上・口コミ拡大
心理ロイヤルティが高い顧客は離脱率が低く、継続的に購入や利用を重ねてくれる傾向があります。これにより、1人の顧客が企業にもたらすLTV(顧客生涯価値)が向上し、売上を安定させやすくなります。
さらに、感情レベルでブランドに魅了されている顧客は、自発的にSNSや口コミで製品・サービスを推奨してくれます。広告予算を大きく割かずとも、新規顧客を獲得しやすくなるのは大きなメリットです。
3. 測定指標:NPS+感情アンケートの設計例
「心理ロイヤルティは感情面の話だから、測定が難しいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、定量的な指標を活用すれば、ある程度トラッキングすることが可能です。
NPS(ネット・プロモーター・スコア)の活用
NPS(Net Promoter Score) は、以下のような質問を顧客に投げかけて算出する指標です。例:「このブランド(サービス)を友人や知人に薦める可能性はどのくらいですか?0点(全く薦めない)〜10点(積極的に薦める)で回答してください。」
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9〜10点をつけた層を「推奨者(Promoters)
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7〜8点をつけた層を「中立者(Passives)」
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0〜6点をつけた層を「批判者(Detractors)」
NPSは「推奨者の割合(%)−批判者の割合(%)」で表されます。口コミ意欲と心理面が反映されやすいため、心理ロイヤルティの概況を把握する目安として有効です。数値化できるので、経営層にも説明しやすくなります。
感情面を深掘りするアンケート
NPSのスコアだけでは、「なぜその点数をつけたのか」という理由を十分に捉えきれません。そこで、感情面を補足するための設問を追加することがおすすめです。
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Q1:ブランドへの愛着度を1〜5段階で評価してください。
(1=全く愛着なし、5=強く愛着を感じる) -
Q2:購入時に感じるポジティブな感情を選んでください。
(例:安心感、誇り、ワクワク感など) -
Q3:「多少高くても利用し続けたい」と思いますか?
(はい/いいえ) -
Q4:薦めたくなる理由、または批判したい理由は何ですか?
(自由記述)
こういった質問を組み合わせ、定期的にアンケートを実施すれば「心理ロイヤルティが高い層」「割引や価格面で動いている層」の違いを浮き彫りにできます。フリーコメントなど定性情報も合わせて分析することで、改善のヒントが得やすくなるでしょう。
4. 心理ロイヤルティを高める4施策
ここからは、実際に心理ロイヤルティを向上させるための具体策を4つ紹介します。いずれも、ただの「割引施策」に頼るのではなく、顧客の心を動かす仕掛けを意識している点が特徴です。
① カスタマーエクスペリエンス(CX)の改善
まずは、顧客がブランドと接触するすべての場面(カスタマージャーニー)を点検し、ストレスや不満を取り除き、プラスの驚きや満足を与える施策を行います。
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購入前:問い合わせへの迅速・丁寧な対応、わかりやすい商品情報
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購入時:UI・UX設計、スムーズな決済、トラブル時のガイド
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購入後:商品到着後のフォローアップ、クレーム対応の質、定期的なアップデート情報など
「このブランドは細やかなところまで気を配ってくれる」「困ったらすぐに助けてくれる」という安心感が、心理ロイヤルティを育む土台になります。
② ブランドストーリーの共有
創業秘話や開発背景、社会貢献活動の想いなどを伝えることで、ユーザーは「単に商品を売るだけの企業」ではなく、「どんな価値観を大切にしているブランドなのか」を知る機会を得ます。ブランドが大切にしている世界観や理念に共感すると、ユーザーは「ここを応援したい」という感情に傾きやすくなります。
ブログ記事やSNS、メルマガ、店頭POPなど、さまざまなチャネルを通じて「ブランドの物語」を一貫して発信しましょう。ブレが生じると信頼を損ねる可能性があるため、メッセージトーンやデザインなども統一感を持たせることが大切です。
③ コミュニティ/UGCの活用
コミュニティ(オンラインフォーラム、Facebookグループ、専用アプリなど)を立ち上げ、ファン同士が交流できる場を提供すると、ユーザー間での共感や情報交換が自然に生まれます。企業主導の一方向的な宣伝よりも、コミュニティ内でのクチコミのほうが信頼度が高く、新規顧客獲得にもつながりやすいです。
さらに、UGC(ユーザー生成コンテンツ)、つまりユーザーが自発的に発信するコンテンツが増えれば、SNS等での拡散力も飛躍的にアップします。「#○○ダンス」「#タビジョ」など、ハッシュタグを活用してユーザーが投稿しやすい企画を作るのも効果的です。
④ パーソナルサプライズ
顧客一人ひとりを大切にしている感覚を与える「特別扱い」は、心理ロイヤルティを急上昇させる大きな要因です。たとえば、
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誕生日に専用メッセージや特典を送る
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長期利用者を対象に特別イベントやオンライン懇親会に招待する
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利用頻度や購入金額に応じてパーソナライズされたオファーを出す
など、顧客が「自分はここに認識され、必要とされている」と感じる仕掛けを用意しましょう。意外性やサプライズ要素を盛り込むと、SNSや口コミで拡散されやすくなります。
5. 成功事例3選(国内2・海外1)
1. Fit’sダンス(国内:菓子メーカー)
ガム製品「Fit’s」のCMで展開されたダンスキャンペーンがSNS上でバズを引き起こしました。ファンが「#フィッツダンス」というハッシュタグをつけて踊ってみた動画を投稿し合い、短期間でUGCが爆発的に増加。若年層へのブランドイメージが高まり、結果的にNPSの向上や売上増につながりました。
2. #タビジョ(国内:旅行サービス)
ある旅行会社が「旅する女性の感動を共有する」というテーマで、ハッシュタグ「#タビジョ」をSNS上で立ち上げました。ユーザーが各自の旅先の写真やストーリーを投稿し、コミュニティが拡大。リリース半年で2万件以上の投稿が集まり、ブランド認知と心理ロイヤルティが大きく高まったと言われています。
3. Dove Real Beauty(海外:Dove)
Doveが世界的に展開した「Real Beauty(リアル・ビューティ)」キャンペーンでは、「女性のありのままの美しさを認めよう」というメッセージを一貫して発信。SNS上でも多くのユーザーが共感を示し、ポジティブな口コミやUGCが激増しました。結果としてブランドNPSや売上が向上し、Doveは「女性をエンパワーする企業」のイメージを世界的に確立しました。
6. 導入フロー:Plan–Do–Measure 3ステップ
心理ロイヤルティを高めるには、単発のキャンペーンだけで終わらせずPlan(計画)→Do(実行)→Measure(測定)のサイクルを回すことが重要です。
STEP1:目標・ターゲット設定(Plan)
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まずはNPSや継続率、SNS投稿数などの数値目標をKPIとして明確化する
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企業が注力すべき顧客層はどこか、ペルソナやターゲットを具体的に定義する
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どんな感情体験を提供したいか、ブランドの軸や世界観を整理する
STEP2:コンテンツ制作・初動拡散(Do)
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ブランドストーリーを明確化し、コンテンツやSNS投稿を設計する
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コミュニティやハッシュタグを活用し、ユーザーが参加・発信しやすい場を整える
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カスタマーエクスペリエンスの向上策(UI改善やアフターサポート強化など)を実施する
STEP3:KPIトラッキング&改善(Measure)
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定期的なアンケートでNPSや心理面の評価を追跡し、推奨者・批判者の声を深堀りする
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CX・ストーリー・コミュニティ・サプライズ施策の成果をデータで振り返り、何が効果的だったかを分析する
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改善案をまとめ、再びPlanにフィードバックして施策をブラッシュアップ
7. 失敗を防ぐ3つの注意点
心理ロイヤルティ向上を目指す上で、ややもすると企業イメージを損ねてしまうリスクも存在します。以下の3点には特に留意してください。
1. ステマ規制・広告表記の順守
インフルエンサーやユーザー投稿を活用する際に、広告であることを明示せずに行えば「ステルスマーケティング(ステマ)」とみなされる恐れがあります。ステマは炎上のリスクが高く、長く築いた信頼を一気に失いかねません。各種法令やガイドラインを順守し、透明性を大切にしましょう。
2. 感情を逆撫でするNG演出
キャンペーンや広告のコンセプトによっては、「ある層にとって差別的」「不快な印象を与える」というクレームにつながる場合があります。ブランドストーリーを語るときにも、多様性・価値観への配慮が必須です。ポジティブな感情を醸成するはずの施策で、逆に批判を浴びないよう慎重にチェックしましょう。
3. 社内体制・責任者の明確化
心理ロイヤルティ施策は、マーケティング部門のみならず、カスタマーサクセス、プロダクト開発、CS(カスタマーサポート)など複数の部署が連携して取り組む必要があります。責任者を明確にせず、タスクや予算配分が不透明なまま進めると、施策が中途半端に終わってしまう恐れがあります。社内体制の整備とトップダウンでの支援を得られるかどうかが成功の分水嶺です。
8. まとめ & 次のアクション
重要ポイント3行まとめ
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心理ロイヤルティ は、従来の“行動ロイヤルティ”を超えて“顧客の感情面”まで捉えた概念であり、離反率の低減や口コミ拡大に大きく寄与する。
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測定指標 としてはNPSが有効で、愛着度や感情設問と組み合わせて定量・定性両面から継続的に評価・改善することが重要。
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高める施策 としては、CX改善・ブランドストーリーの浸透・コミュニティ活用・パーソナルサプライズなどが効果的であり、社内体制やリスク管理も視野に入れる。
次に取るべきアクション
心理ロイヤルティを高めたい企業の担当者の皆さまは、以下のステップから始めてみてはいかがでしょうか。
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自社の現状を可視化する
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NPS調査やアンケートを実施し、今のロイヤルティの状態を把握する
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ブランドのストーリーや理念を改めて整理する
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顧客に響く“物語”を再構築し、各チャネルで一貫したメッセージを発信する
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コミュニティ/UGC施策を検討する
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SNS上のハッシュタグ施策や自社プラットフォームの構築など、ファン同士のつながりを強化する仕組みをつくる
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結果をKPIでモニタリングし、PDCAを回す
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得られたデータを分析し、顧客の感情を逆撫でするポイントやボトルネックを洗い出して改善する
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顧客の“心”をつかむことは、企業と顧客の間に単なる“取引”を超えた深い関係を築く第一歩です。値下げ合戦やポイント戦略だけでなく、「ブランドを好きになってもらう」「自分ごとのように応援してもらう」状態を目指すことで、長期的な収益安定と強固なブランド価値を手に入れることができます。ぜひ、本記事の内容を活かして、自社に合った心理ロイヤルティ施策をスタートしてみてください。