
コラム
マーケティング
ロイヤルティプログラムとは?顧客をファン化する施策の基本と成功のカギ
2025/06/20

新規顧客の獲得コストが年々高騰し、商品の機能や価格だけではブランドの差別化が難しくなっている今、企業に求められているのは「既存顧客との長期的な関係づくり」です。その鍵を握る施策として、近年ますます注目を集めているのが「ロイヤルティプログラム」です。
本記事では、ロイヤルティプログラムの基本的な仕組みや考え方から、代表的なタイプ、国内外の成功事例、導入時の注意点までをわかりやすく解説します。ポイント制度や特典提供にとどまらず、サブスクリプションや有料会員プログラムなど、顧客ロイヤルティを高めるさまざまなアプローチを網羅的に紹介。自社の顧客基盤に合った最適な設計のヒントを得られる内容となっています。
「一度買ってもらった顧客をどうつなぎとめるか」「顧客をファンに育てていくには何が必要か」といった課題を抱えている方にとって、実践的かつ戦略的なヒントが詰まった一冊です。既存顧客との関係性をいま一度見直したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
第1章:ロイヤルティプログラムとは
ロイヤルティプログラムとは自社の商品やサービスを継続的に利用してもらうことを目的に、リピーター顧客に対して特典やメリットを提供する仕組みのことです。
たとえば、購入金額に応じてポイントを付与する制度や、顧客ランクに応じて優遇されるステータス制度などが典型的な例です。近年では、サブスクリプション型の有料会員制度や、SNSと連動したコミュニティ形成を軸にしたプログラムなど、より多様で柔軟な設計が広がりを見せています。
「ロイヤルティ(loyalty)」とは、直訳すれば「忠誠心」や「信頼」、「愛着」といった意味を持つ言葉です。マーケティングにおいては、顧客があるブランドに対して継続的な支持を寄せ、他の選択肢よりも優先して選び続ける状態を指します。企業側にとってロイヤルティプログラムは、顧客に「このブランドを使い続けることで得られる価値がある」と実感してもらいながら、長期的な関係性を築くための戦略的な施策なのです。
関連記事:
ロイヤルティとは?向上させる方法や成功事例を紹介
新規顧客の獲得にかかる広告費などのコストが年々高騰している現在、市場はすでに成熟し、価格や機能だけでは他社と差別化することがますます難しくなっています。一方で、既存顧客によるリピート購入は収益性が高く、LTV(顧客生涯価値)を安定的に伸ばす手段として注目されています。
加えて、近年の消費トレンドでは、製品そのもののスペックよりも「体験価値」や「ブランドへの共感・愛着」が購買行動の重要な決定要因となってきています。
こうした背景から、今企業に求められているのは、「いかに既存顧客と継続的な関係を築き、ブランドのファンになってもらうか」という課題への本格的な取り組みです。単なる顧客維持ではなく、ロイヤルティの醸成をいかに戦略的に設計するかが、ビジネスの成長に直結する時代が到来しています。
第2章:ロイヤルティプログラムが注目される背景
ロイヤルティプログラム自体は新しい概念ではありません。スタンプカードや会員向けのポイント制度など、昔から広く使われてきた施策です。むしろそれらはロイヤルティプログラムの草創期を象徴するものであり、企業が繰り返し購入を促す手段として長年活用されてきました。
ではなぜ今、あらためてロイヤルティプログラムが「本格的に注目」されているのでしょうか。その背景には、いくつかの構造的な変化が挙げられます。
まず第一に、新規顧客の獲得コストが年々高騰しているという現実があります。SNS広告、検索連動型広告、インフルエンサーマーケティングなど、オンラインチャネルは確かに増えましたが、同時に競合企業の参入も激化しており、一人の見込み顧客を獲得するための費用は上昇傾向にあります。かつては10,000円の広告費で数十件の新規登録が見込めたとしても、現在では同じ費用で数件しか獲得できないケースも珍しくありません。こうした環境下では、「今いる顧客を手放さない」ことの価値が相対的に高まっているのです。
次に、消費者の購買行動の変化も大きな要因です。かつてのように、テレビCMや新聞広告といったマスメディアが消費行動を大きく左右していた時代とは異なり、現在はオンラインショッピングやサブスクリプションサービスが日常化し、消費者は膨大な選択肢から「自分に合うもの」を探す時代になりました。
このような多様化の中では、「価格」や「機能」といった定量的な軸だけでは決定打になりにくくなり、「そのブランドが好きだから」「ここから買うと気分がいい」といった感情や共感といった“心理的ロジック”が購買判断に深く関わるようになっています。
加えて、日本をはじめとする多くの業界で、市場が成熟しつつあることも背景のひとつです。大量生産・大量販売による成長モデルが限界を迎え、新たな顧客層を開拓し続けるだけでは、持続的な成長が難しくなっています。こうした中で注目されるのが、「既存顧客を育てる」戦略です。すでに取引のある顧客に対し、より深く価値を届け、長期的な関係性を築いていく。こうしたリテンション重視の姿勢が、安定的な売上とLTV(顧客生涯価値)を支える中核として注目されているのです。
ロイヤルティプログラムは、まさにこの流れを象徴する施策のひとつです。短期的なキャンペーンで終わるのではなく、中長期で顧客との関係を強化し、「またこのブランドを選びたい」と思ってもらうための仕組みとして、多くの企業が戦略的に取り入れ始めています。単なる販促ではなく、顧客体験の中に“愛着の積み重ね”を設計する──そんな時代に、ロイヤルティプログラムの存在価値は大きく高まっているのです。
第3章:ロイヤルティプログラムで得られるメリット
ロイヤルティプログラムを導入する意義としては、大きく分けて以下のメリットが期待できます。
-
リピート購入率の向上
特典を活用しやすい形で提供すれば、顧客が「次回もここで買おう」「もう一度利用しよう」と考える動機づけにつながります。スタンプカードやポイント制度に慣れ親しんだ消費者なら、貯まったポイントを使わないともったいないという心理が働き、結果として来店・利用の頻度が上がります。 -
顧客生涯価値(LTV)の最大化
同じ顧客から何度も購入してもらえると、一人あたりの生涯売上が大きくなります。たとえばアパレル業界では、上位顧客ほど新作や関連アイテムをまとめ買いしてくれる傾向があります。少し先のステージを用意しておけば「あともう少しで上のランクに届く」というモチベーションが働き、自然と購買額が増加することが多いです。 -
口コミや紹介の促進
ロイヤル顧客は友人や家族にブランドをすすめてくれる確率が高まります。友人紹介プログラムのような仕組みをつくると、顧客が「これすごく便利だよ」「一緒に加入しよう」と声をかけやすくなり、低コストで新規顧客を呼び込めるメリットも生まれます。 -
競合との明確な差別化
同程度の品質・価格帯の商品でも、ロイヤルティプログラムの有無や特典内容の魅力によって選ばれるケースが増えています。特に消耗品や日用品など選択肢が多い商材では、「同じ買うなら特典があるほうがいい」と考える顧客心理は想像以上に強いです。
これらのメリットを獲得するには、単にポイントを配るだけでなく、ブランドならではの付加価値や上質な顧客体験をどう仕組みに落とし込むかが鍵となります。
第4章:代表的なロイヤルティプログラム形態
ロイヤルティプログラムには、企業のビジネスモデルや顧客層によってさまざまな設計があります。代表的な形態を4つ紹介します。
-
ポイントプログラム
最も一般的なスタイルで、購入金額や利用回数に応じてポイントを付与し、貯まったポイントを商品や割引などと交換できる仕組みです。シンプルに導入しやすい反面、競合他社も同様の手法をとりやすいため、いかにオリジナリティを出すかがカギになります。 -
会員ランク制(ステータス制)
一定期間の累積購入額や頻度に応じてランクを設定し、上位ランクほど豪華な特典を提供する方式です。航空会社のマイレージやホテルの会員ステータスが典型例で、顧客に「次のランクまであと少し」という目標を与え、購買のモチベーションを高める働きがあります。 -
有料会員(サブスクリプション)制
年会費や月額料金を支払う代わりに、配送無料や限定セール、追加サービス利用などの特典を受けられる仕組みです。Amazon Primeやコストコ会員のように、会費を払うことで得られる価値が大きいと感じさせれば、顧客が「せっかく会員になったからどんどん利用したい」という心理を刺激できます。 -
友人紹介プログラム
既存顧客が友人や知人を招待すると、紹介者と新規顧客の双方にポイントや割引券を付与するといった形態です。既存顧客が「ブランド大使」のような役割を担うため、口コミを広げやすく、かつ広告コストの削減にもつながります。
企業によってはこれらを組み合わせたり、コミュニティ形成やSNS活用をプラスするケースもあります。どの形態を選ぶにしても、顧客が「このブランドのプログラムは分かりやすく、楽しみながら得ができる」と感じられるデザインが不可欠です。
第5章:成功事例から見るポイント
ロイヤルティプログラムの価値を具体的にイメージするために、いくつか有名企業の成功事例をかいつまんでご紹介します。
スターバックスの「Starbucks Rewards」
モバイルアプリ経由で支払うとスタースタンプが貯まり、規定数に達するとドリンクやフードが無料でもらえます。国内では会員数が数百万人を超え、顧客データを活用したパーソナライズ施策(好みに合わせたおすすめクーポンなど)でも評価が高いです。
Amazon Prime
月額または年額の会費を払い、送料無料・動画や音楽のストリーミングサービスをはじめ多彩な特典を受けられます。顧客にとって「Amazonを利用しないと損」という心理が働きやすく、購買額が飛躍的に上がる仕組みです。
ユナイテッドアローズの会員プログラム刷新
アパレル大手のユナイテッドアローズでは、購入以外の行動でもポイント(マイル)が貯まる新制度を導入し、店舗への来店頻度やブランドへの愛着を高めました。「ファッションを試着しに行く」という体験そのものを特典化したことで、商品以外の行動にも価値が生まれています。
航空会社のマイレージ
ANAやJALなど多くの航空会社が導入しているランク制の会員プログラムは、上位ランクの顧客にはラウンジ利用や優先搭乗など特別待遇を提供します。ビジネス出張が多い顧客にとって非常に魅力が大きく、競合他社への乗り換えを防ぐ強力な仕組みとなっています。
これらの事例に共通するのは「金銭的メリットだけでなく、顧客が得する体験や、他では味わえないブランド独自の特典を用意している」点です。とくにデジタルツールを活用すると、購入履歴や利用状況から最適なオファーを提示できるため、より高いロイヤルティを築きやすくなります。
第6章:導入に向けた実務ステップ
ここでは、実際にロイヤルティプログラムを導入しようとする際の基本的な進め方をステップ形式でまとめます。
-
目標・KPI設定
まずは「リピート率を何%上げたいか」「既存顧客の年間購入額をどれだけ伸ばしたいか」といった目標指標を定めます。顧客満足度を数値化するNPS(ネット・プロモーター・スコア)を活用すると、定性的なロイヤルティの向上度合いも測りやすくなります。 -
顧客分析とプログラム設計
RFM分析などを使って既存顧客の特徴を洗い出し、どんな特典なら魅力を感じるかを検討します。ポイント制かランク制か、有料会員制にするか、あるいは友人紹介を重視するかなど、具体的な制度設計の検討段階です。 -
ツール・システムの準備
オンラインとオフラインをまたぐなら会員IDの統合管理ができる仕組みを導入します。店舗であればPOSレジとの連携、ECサイトならショッピングカートシステムの拡張が必要になるかもしれません。専用アプリを持つか、LINE公式アカウントでポイント管理するかなど、顧客の利便性と自社の運用コストを両立させる方法を選択します。 -
運用開始と効果測定(PDCA)
プログラムをローンチしたら、会員登録率や利用率をこまめにチェックし、アプリのダウンロード数やポイントの発行実績などから改善の余地を探ります。具体的には「特典が複雑で分かりにくい」「スタッフが上手く案内できていない」といった要因を洗い出し、プロモーションや施策内容を修正していきます。
ロイヤルティプログラムは作って終わりではなく、顧客の反応やデータを見ながら改善を続けることで真価を発揮します。長期的な取り組み姿勢を社内で共有し、運用チームを定期的にアップデートしていくことが成功の秘訣です。
第7章:まとめ
ロイヤルティプログラムは、新規獲得が難しい時代にこそ輝きを増すマーケティング施策です。単なるポイントカードやランク制にとどまらず、ブランドの世界観や顧客体験を総合的にデザインし、「その企業と長く付き合いたい」と思わせる仕組みを構築することが求められます。
-
顧客ロイヤルティを高める施策の一つとして理解し、ブランドのファンづくり全体の戦略と連動させる
-
メリットはリピート率向上、LTV最大化、口コミ促進など多岐にわたる
-
成功事例に共通するのは「金銭的な得+体験価値・特別感」を提供している点
-
導入時は目標設定 → 顧客分析 → プログラム設計 → ツール選定 → 運用開始とPDCAの流れで進める
自社独自のロイヤルティプログラムは、顧客との結びつきをいっそう強固にし、売上やブランド価値の向上に大きく寄与します。最初は試行錯誤もあるかもしれませんが、継続的に改善することで初めて真の成果が見えてくるはずです。既に多くの企業が様々な手法で結果を出している今こそ、自社にマッチした仕組みを検討してみてはいかがでしょうか。