
コラム
マーケティング
カスタマーマーケティングとは?重要性や効果・施策例について解説
2025/04/15

近年、BtoB企業の収益拡大戦略として「カスタマーマーケティング」が注目を集めています。これは新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客に対して継続的かつ戦略的にアプローチし、アップセル(既存契約内での追加購入)やクロスセル(関連製品の購入)やエクステンション(同一製品の別事業・部門への導入)を通じて収益の拡大と長期的なロイヤルティを高める手法です。
SaaS・サブスクリプションモデルが普及する中、既存顧客との関係性が企業の成長に大きく寄与するようになりました。本記事ではカスタマーマーケティングの概要や重要性、具体的な施策例、そして効果測定のポイントを解説します。
■監修:春山椋介(コミューン株式会社)
カスタマーマーケティング部・部長。学習院大学文学部心理学科卒。新卒でエムスリーキャリアに入社、営業リーダーを経験後、弁護士ドットコム クラウドサインのカスタマーサクセスにてCS Opsの立ち上げ(オペレーション改善/構築やデータ分析)とテックタッチCSMを担当。
コミューンにて2度目のCS Ops立ち上げ、ビジネス組織全体のオペレーション構築、Salesforceのシステム管理者を経て、部門横断組織のマネージャーを経験。前職にてシードフェーズのPMM兼CSを経験後、2025年3月よりコミューンに復帰し現職。
目次
カスタマーマーケティングとカスタマーサクセスとの違い

カスタマーマーケティングとは、すでに契約している顧客を対象に製品・サービスの利用満足度を高めたり、アップセル、クロスセル、エクステンションなどを促進するマーケティング活動全般を指します。BtoB企業では、比較的長期の契約期間や顧客との深いリレーションが構築されやすい特性があるため、適切に施策を展開すれば大きな成果を得やすいとされています。
カスタマーマーケティングと混同されやすいものに、カスタマーサクセスという概念があります。カスタマーサクセスは、導入後・利用中のお客様が自社のサービスを使って成果を出せるよう支援する「考え方全般」を指します。2025年時点では主にBtoB企業で導入が進んでおり、担当者(CSM: カスタマーサクセスマネージャー)が1対1でフォローするのみというケースも多く存在します。
一方、カスタマーマーケティングは主に「1対多」で行われるカスタマーサクセスの活動の一つです。「様々な製品やその価値を広く伝える」「顧客のファン化をする」といった視点で顧客基盤に対し“攻める”側面を多く持ちます。イベント・コミュニティ・メール配信・SNSなども駆使しながら、多くのお客様を支援する取り組みをしていきます。
特に「顧客のファン化」に関してが従来のBtoB顧客戦略とは異なる点です。ユーザー同士の交流や事例共有を促し相互の課題解決を図ったり、ユーザー共創での製品開発・改善を進めたり、口コミ・紹介によって新しい顧客も取り込むなど、既存売上はもちろん・認知拡大や新規獲得にも貢献するものとなります。
解約や買い替え防止だけでなく、既存顧客を起点に、様々な企業活動へ寄与していく取り組みがカスタマーマーケティングです。
なぜBtoB企業においてカスタマーマーケティング戦略が重要なのか
NRR(ネット収益継続率)が重視されるようになった
BtoB領域、とりわけSaaS・サブスクリプションモデルではNRR(Net Revenue Retention:ネット収益継続率)という指標が重視されます。これは既存顧客から得られる収益がどれほど維持・拡大されているかを表し、以下の式で示されます。
NRR = (期初MRR + 拡張MRR – 解約MRR / 縮小MRR) / 期初MRR × 100%
- 期初MRR: ある月(あるいは四半期)のはじめに保有していた月次収益
- 拡張MRR: アップセルやクロスセルによって既存顧客から増えた月次収益
- 解約MRR / 縮小MRR: 解約やダウングレードなどで失われた月次収益
NRRが100%を超えているということは、解約やダウングレードの損失を上回る形で拡張収益が確保できている状態を意味します。一時、SnowflakeがNRR 170%超、Atlassianが140%超といった数字を示していたように、高成長企業ほど既存顧客における収益増が全体のドライバーになっています。
既存顧客からの収益拡大が効率的であるため
新規顧客を獲得するには、広告費用や営業コストなど多大な投資がかかります。一方、すでに信頼関係を築いている既存顧客へのアプローチは、比較的低コストで大きな追加収益を期待できます。
(新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかるという「1:5の法則」)
またBtoBの場合、特にエンタープライズ顧客では「まず1部署・1チームで導入してみて、効果を検証しながら徐々に利用範囲を拡げる」という“ランドアンドエクスパンド”の導入形態が多くなります。ここで顧客が最初の導入でしっかり成果を得られれば、追加導入(エクステンション)や別プロダクトの購入(クロスセル)に進みやすいのです。
ブランドロイヤルティ向上による長期メリットが見込めるため
既存顧客が製品やサービスを深く理解・活用し、社内に推進役(チャンピオン)が生まれるほど、その企業は離脱しにくくなります。製品やサービスを使いこなすほど他社製品と置き換えにくくなる「スイッチングコスト」が上がり、解約率の低減だけでなく継続的なアップセルにつながります。
さらに、こうした顧客は外部に製品の良さを広める「ブランドアンバサダー」としても期待できます。BtoBの購買は複数の意思決定者が絡むため、他社の推薦事例や実績が導入の大きな後押しとなります。既存顧客をファン化してリファレンスとして協力してもらうことは、新規リードの獲得にも寄与し、結果的にマーケティングコスト全体の削減やブランドイメージ強化につながるのです。
カスタマーマーケティングの成功には、コミュニティを通じた継続的な顧客接点の創出が不可欠です。
カスタマーマーケティングの主な効果

NRRの向上
カスタマーマーケティング最大のメリットは、既存顧客からの拡張収益によってNRRを高められる点です。NRRが高い企業は、新規顧客獲得が多少落ち着いても売上全体を伸ばし続けられる“強い基盤”を持つことを意味します。NRRの改善こそが、長期的なSaaSビジネスの安定と拡大を支える柱となります。
解約率(チャーンレート)の低下
顧客が自社製品に満足しない最大の理由は、「価値を十分に感じられなかった」「導入メリットを理解していない」などが挙げられます。カスタマーマーケティングの中には、顧客教育やコミュニティ施策など、製品活用度を高める取り組みが含まれます。顧客が製品の価値を理解し、成功体験を得られるほど離脱率は下がり、チャーンを防ぐことができます。
顧客生涯価値(LTV)の向上
顧客生涯価値(LTV: Life Time Value)は「顧客が契約を続ける期間中にもたらす総利益」を示す指標です。カスタマーマーケティングはアップセルやクロスセルにより1社あたりの売上を増やし、さらに継続期間を延ばすことでLTVを飛躍的に高めます。LTVが伸びれば、最終的な利益率の向上や、顧客あたりの獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)回収率の改善にもつながります。
ブランド強化とコミュニティ形成
BtoB企業の多くは、カンファレンスやユーザー会、オンラインフォーラムなどで顧客同士が情報交換できる場を提供しています。こうしたコミュニティ施策が活発になると、自社製品に対する「共感」や「愛着」が自然と醸成されていきます。顧客を製品の“共同開発者”あるいは“パートナー”のような存在に位置づけることで、リファレンス獲得やUGC(ユーザー生成コンテンツ)の拡散など、より大きな波及効果を得ることができます。
カスタマーマーケティングの具体的施策例
■エクステンション(利用範囲拡大)施策
例:社内成功事例の共有
まずは小規模導入で確実に成果を出し、その事例を顧客企業内で共有してもらうことが重要です。成果が明確な部門・チームが社内へ「うちではこんなメリットが出た」と声を上げれば、他部門も興味を持ちやすくなります。また、顧客コミュニティ内やユーザー会などで事例発信をすることで、顧客企業外において評判になり、企業内で声が掛かるというケースも多く存在します。
■クロスセル(関連製品の追加購入)施策
例:コンテンツマーケティング
ホワイトペーパーやヘルプ、セミナーで「他の製品と組み合わせるとこんなメリットが得られる」というロールモデルを提示します。顧客が「今の製品だけで終わるのはもったいないかもしれない」とさらなる可能性に気づくきっかけを与えます。
■コミュニティ施策
例:オンラインコミュニティやユーザー会
製品に対するQ&Aやベストプラクティスを共有する場をつくり、顧客同士の交流を促します。Gongではコミュニティ参加者のアップセル率が非参加者より3倍高いというデータも示されています(参照)。活発なコミュニティは製品活用度を上げ、買い増し・契約拡大につながります。
イベント開催(ウェビナー、カンファレンス)
新機能に関するセッションや顧客事例の発表会を定期的に行い、顧客が新しい活用方法を知る機会を提供します。イベント後には興味を示した顧客に個別提案を行い、クロスセルの商談創出のきっかけとします。
■教育・トレーニングプログラム
例:相互扶助型のオンボーディング
新しい顧客に対しては導入初期に、他の顧客も含めたコミュニケーションの場を設けます。企業対顧客だけでなく顧客同士においてもつまずくポイントを相談しあい、課題を早期解消して成功体験を得やすいようにします。成功体験を早期に獲得した顧客ほど解約率が低く、将来的なアップセルやクロスセルなどの確率も高くなります。
顧客のスキルアップ支援
Salesforceの「Trailhead」やHubSpotの「HubSpot Academy」のように、資格認定プログラムや学習コースを用意し、顧客自身が製品の知識を深められる機会を提供します。製品への理解が高まると「さらに別の機能やプロダクトも試したい」という心理が生まれ、追加導入につながることが多いのです。
■パートナー連携・リファレンス活用
例:パートナープログラムの活用
チャネルパートナーやコンサルタントが顧客企業内の別部門に働きかけたり、他のソリューションと組み合わせ提案を行ったりすることで拡張導入を後押しします。
既存顧客のアンバサダー化
成功事例を発信してもらうだけでなく、レビューサイトなど様々な場で他部門や他社に紹介してもらう仕組みを整えます。既存顧客が「ここの製品は良い」と推奨してくれるだけで、別部門での導入や新規獲得のハードルが大きく下がります。
カスタマーマーケティングの成功には、コミュニティを通じた継続的な顧客接点の創出が不可欠です。
成功事例とベンチマーク企業
Atlassian
**NRR ~147%**と高い拡張率を誇る代表的SaaS企業。JiraやConfluenceなど関連ツール群を揃え、製品間の連携を通じて自然なクロスセルを実現。セルフサービス型モデルとコミュニティを活用しながら、追加導入の導線をプロダクト内でスムーズに設計している。
Salesforce
カスタマーサクセス体制とコミュニティを徹底活用することで、顧客内での複数製品利用を促進。大規模イベント「Dreamforce」やTrailblazer Communityを通じて成功事例を共有し、導入部門の拡大や追加クラウドの契約を後押し。学習プラットフォーム「Trailhead」で顧客の知識を底上げし、アップセルやクロスセルの検討を自然に引き出している。
HubSpot
当初はマーケティング自動化ツールのみだったが、セールスやカスタマーサポートなどCRMプラットフォームへ拡大し、既存顧客の利用範囲を段階的に増やしてきた。顧客向けの教育プログラムやコミュニティを充実させることで製品理解を深め、認定資格の取得を奨励。これが社内説得に使われる材料となり、追加契約の促進につながっている。
KPIと測定方法

NRR(ネット収益継続率)
カスタマーマーケティングだけでなく、カスタマーサクセス全体の成果を評価するうえで最も重要な指標。NRRが高まるほどアップセル・クロスセルなどが上手く進み、かつ解約も抑制できていることを意味します。
クロスセル率・複数プロダクト利用率
顧客一社あたりにおける導入製品数や、複数プロダクトを利用している顧客の割合を追うことで、クロスセル施策の進捗が把握できます。複数製品を契約している顧客は解約率が大幅に下がる傾向が強いため、2製品以上の展開がある場合は重要KPIとしてモニタリングすべきと言えます。
エンゲージメント指標
コミュニティの月間アクティブユーザー数や投稿数、イベントへの参加率・満足度、顧客推奨度(NPS)などを追い、その後のアップセル転換率などとの相関を分析します。エンゲージメントが上がることでアンバサダー化が進み、新規獲得にも寄与しうるため、エンゲージメント指標は中長期の成果を占う上でも有用です。
カスタマーマーケティングの成功事例
コミュニティを活用したカスタマーマーケティングで成果を上げる3社の事例をご紹介します。既存顧客との関係深化、ユーザー主導の価値共創、高単価商材における顧客接点の強化など、それぞれの特徴的な取り組みを知ることができます。
株式会社大丸松坂屋百貨店

百貨店の大丸東京店が展開するワイン愛好家向けコミュニティ「World Wine Now!」は、カスタマーマーケティングの好事例です。半年に1度の催事しているオフラインイベント「世界の酒フェス」だけでは限られていた顧客接点を、オンラインコミュニティを通じて継続的な関係構築へと発展させました。
特徴的なのは、新規顧客の獲得ではなく、既存顧客との関係深化に焦点を当てた点です。月1-2回のセミナー開催や商品紹介を通じて顧客の興味を広げ、その体験がコミュニティ内で共有されることで、実店舗やオフラインイベントへの来店や新たな商品購入につながっています。また、会員ランク制度の導入やプレゼント企画により、顧客の嗜好をより深く理解することにも成功しています。
オンラインとオフラインを効果的に連携させ、百貨店ならではの価値提供と顧客接点の強化を実現した事例といえます。
*株式会社大丸松坂屋百貨店のファンコミュニティを見にいく
株式会社SHARP

株式会社SHARPのホットクック(自動調理鍋)のカスタマーマーケティング事例は、ユーザーコミュニティを活用した顧客理解と価値提供の好例です。「ホットクック部」と呼ばれるこのコミュニティでは、初心者からベテランまで異なるニーズを持つユーザーが集い、レシピや使用方法を共有しています。
特筆すべきは、ユーザー主体の運営方針です。企業からの一方的な情報発信を抑えることで、自然なユーザー間交流の場を実現し、投稿の7割がレシピ共有、2割が日常の投稿、1割が質問という健全な構成を維持しています。その結果、製品の新たな使用方法の発見や、購入検討者への具体的な活用イメージの提供、さらにはサポートコストの削減にもつながっています。
コミュニティをオープン化することで、潜在顧客との接点も創出し、実際の購買にも貢献する統合的なマーケティング施策として機能している点が注目されます。
*株式会社SHARPのファンコミュニティを見にいく
株式会社LIXIL

株式会社LIXILの「猫壁」は、リフォーム市場開拓の一環として生まれた革新的な商品でありながら、優れたカスタマーマーケティングの事例として注目されています。高単価商材であることを逆手に取り、オンラインコミュニティ「猫壁ひろば」を立ち上げ、顧客との深い関係構築に成功しました。
特筆すべきは、SNSでは実現できなかった濃密な顧客接点を、Communeを活用したコミュニティ運営で確立した点です。製品開発にユーザーの声を直接反映させる仕組みを構築し、顧客満足度とブランドロイヤルティを同時に向上させました。
データ分析機能を活用した効果測定や、担当者からの的確な運営サポートにより、少人数でも質の高いコミュニティマネジメントを実現し、リフォーム市場における新たなマーケティングモデルを確立しています。
カスタマーマーケティングの成功には、コミュニティを通じた継続的な顧客接点の創出が不可欠です。
まとめ
カスタマーマーケティングは、新規顧客獲得だけに注力していた従来型のマーケティング戦略とは一線を画し、既存顧客との関係性を継続的に深化させることで収益拡大を狙うアプローチです。BtoB企業においては、複数部門への展開や製品ポートフォリオの活用、コミュニティを通じたファン化など、多彩な施策を組み合わせる余地があります。
特にSaaS・サブスクリプションモデルが浸透し、NRRという既存顧客からの売上成長を示す指標が重視される今、カスタマーマーケティングの重要度はますます高まっています。顧客にしっかりと成功体験を提供し、ニーズや潜在的な課題を見極めた上で適切なアプローチを行うことで、解約を防ぎながらアップセル・クロスセル・エクステンションを実現できるでしょう。
また、コミュニティ運営やイベント、VoC(Voice of Customer)の分析を組み込むことで、顧客同士の交流やフィードバックが次なる製品改良・追加提案のヒントになります。マーケティング、カスタマーサクセス、営業、プロダクトチームが連携して取り組むことで、顧客ロイヤルティの向上とNRRの継続的な拡大が期待できます。
BtoB企業のマーケターにとって、カスタマーマーケティングは「顧客とともに成長する」ための重要な柱です。新規獲得のみに依存せず、既存顧客基盤を堅実に育て上げる施策を着実に積み上げることで、長期的・安定的なビジネス成長を目指してみてはいかがでしょうか。
カスタマーマーケティングをやるならCommune(コミューン)
カスタマーマーケティングの成功には、コミュニティを通じた継続的な顧客接点の創出が不可欠です。
コミュニティサクセスプラットフォームCommune(コミューン)は、ノーコードで簡単に自社だけのオンラインコミュニティを構築することができます。さらに、コミュニティ運営のノウハウを持つ担当者が、オンラインコミュニティの立ち上げから運営、効果測定までをワンストップで伴走しながらサポートします。高度な分析機能と専門的な運営支援により、少人数でも質の高いコミュニティマーケティングを展開でき、データドリブンな顧客理解と効果的な施策実行を実現します。
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