
コラム
カスタマーサクセス
VoC(Voice of Customer)とは? 活用メリット・収集〜分析手順・成功事例を完全解説
2024/08/21

VoC(Voice of Customer)とは、商品やサービスに対する顧客の意見・要望・不満・期待など、あらゆるフィードバックを指す言葉です。
電話やメール、チャット、SNS、アンケート、店舗での会話など、収集の手段は多様で、これらの「声」をただ集めるだけでなく、体系的に整理・分析し、商品改善やサービス向上、顧客体験(CX)の強化に役立てていく一連の取り組みが「VoC活動」です。
顧客との対話から本質的なニーズを読み取り、経営や現場の意思決定に結びつけるこの活動は、今や多くの企業にとって欠かせない重要テーマとなっています。本記事では、VoCの基本的な考え方から、実践的な収集・分析手法、さらに成果につなげる運用のポイントまでをやさしく解説します。
記事監修:斎藤 雅史(Commune Voice 事業責任者)
目次
- VoCとは? ── 定義と注目される背景
- VoC(Voice of Customer)の定義
- CS/CX/NPSとの違い
- 2020年代後半にニーズが急伸した3つの理由
- VoCを活用すると何が変わる?【4大メリット】
- VoCの成功事例4選
- ファンコミュニティを活用したVoC収集と商品開発 -カルビー株式会社「絶品かっぱえびせん」の事例
- オンラインコミュニティ活用による継続的VoC収集 -日本ケロッグ合同会社「オールブラン」の事例
- リアル店舗とオンラインの相乗効果によるVoC活用 - 株式会社大丸松坂屋百貨店「World Wine Now!」の事例
- 多角的なVoC収集による製品改善と顧客理解 - 株式会社SHARP「ホットクック」の事例
■記事監修:斎藤 雅史(さいとう・まさし)
コミューン株式会社Commune Voice 事業責任者。2014年、エン・ジャパン株式会社に新卒入社。2016年より新規事業開発室に異動。マーケティングリサーチ事業立ち上げを経験。大手B2CメーカーのVoC解析→インサイト探索PJTなどに従事。
2020年4月よりスタートアップ企業を創業し、代表取締役として音声コミュニティ事業、SaaS事業運営を経て、コミューン株式会社に参画。
VoCとは? ── 定義と注目される背景
VoC(Voice of Customer)の定義
VoCとは、顧客が製品・サービス・ブランドに抱く期待・不満・要望・感情といった「声」を、定性的・定量的に捉えた情報の総体を指します。
近年では、アンケートやインタビューに加え、SNS投稿・チャットログ・コールセンター音声などの多様な一次データをリアルタイムに統合し、AIで構造化する手法が主流になっています。
CS/CX/NPSとの違い
- CS(Customer Satisfaction)
購入・利用後の満足度を数値で測る指標。結果を「点」で捉えるのが特徴です。 -
CX(Customer Experience)
顧客体験全体を扱う概念で、感情曲線やジャーニーマップを用いながら改善を図ります。 -
NPS(Net Promoter Score)
「他者に薦めたいか」を0〜10で問う単一の指標。ブランドロイヤリティを測る尺度です。(参考)
2020年代後半にニーズが急伸した3つの理由
- CAC(顧客獲得コスト)の高騰
広告競争の激化により、新規獲得よりも既存顧客の深耕がROI面で優位になっています。 -
プロダクト主導成長(PLG)の定着
開発と利用データを高速で循環させるためには、実ユーザーの声が不可欠です。 -
生成AI・テキストマイニングの民主化
かつて専門部署でしか扱えなかった分析が、SaaSツールを月額数万円で利用可能になりました。
VoCを活用すると何が変わる?【4大メリット】
-
離脱率・解約率の低減
ネガティブなシグナルを早期に察知し、顧客ごとの課題に即応できます。 -
アップセル・クロスセルの精度向上
「欲しい機能」「拡張ニーズ」を定量化し、新パッケージや価格設計に反映できます。 -
プロダクト改善サイクルの高速化
バグ報告や要望をエンジニアに即共有し、リリース優先度をデータドリブンで決定できます。 -
部門横断での共通KPI化
CS・マーケ・開発が同一ダッシュボードを参照することで、意思決定が迅速化します。
VoCの収集チャネルと設計上のポイント
定量チャネル
アンケート、アプリ/Webログ、購入履歴、NPS調査など、数値として集計できるデータ源です。短期間で大量にサンプリングでき、トレンドの把握やKPI化に向いています。
一方で、「なぜそのスコアになったのか」という背景文脈や感情のトーンまでは捉えにくいため、定性的な補完が不可欠です。
定性チャネル
ユーザーインタビュー、SNS投稿、コミュニティ掲示板、サポートチケット、コールセンター音声など、顧客の生の言葉を含む情報源です。数値化しづらいものの、潜在ニーズや体験上の摩擦点(ペイン)を発見できる点が大きな強みです。
ただし、サンプルバイアスが発生しやすく、分析者の解釈によるノイズが入りやすいため、コーディングやタグ設計の一貫性が重要になります。
収集時に留意すること
-
法規制への適合
顧客データを扱う際は、GDPRや改正個人情報保護法といったプライバシー関連の法律に沿う必要があります。具体的には、「どんな目的で」「どの範囲のデータを」「どのように使うのか」をあらかじめ明示し、同意を得たうえで運用することが重要です。 -
サンプリングバイアスの補正
調査結果が特定の層(例:アクティブユーザーや一部地域)に偏ると、全体像を誤って判断してしまうことがあります。これを防ぐために、回答者の属性に応じて重みをつける(ウェイト調整)、またはあらかじめ属性ごとに均等に抽出する(層化抽出)といった工夫を行います。 -
データ構造の統一設計
分析前に、タグやカテゴリ、メタデータのルールを統一しておくことが後々の手間を大きく減らします。特に、複数のチャネル(アンケート、SNS、コールログなど)を横断して集計する場合は、 「同じ意味の言葉を同じタグで表す」など、共通の語彙ルール(ボキャブラリ)を最初に決めておくのが効果的です。
分析フレームワークとツール選定
カテゴリ分けから「なぜそうなったか」の分析まで
① テキストをざっくり整理して、どんな話題が多いかを見る
まずは「テキストマイニング」と呼ばれる分析手法を使い、アンケートやチャットの中からよく出てくる単語や、セットで語られる言葉を見つけ出します。これによって「何が話題になっているか」「どんな不満や要望が多いか」が見えてきます。
② 顧客の感情を数値化して、変化を追う
次に「感情分析」を使って、ポジティブ(好意的)、ネガティブ(不満)、ニュートラル(中立)の感情を時間軸で追っていきます。たとえば、機能追加や値上げをしたときに、感情がどう変わったかを見ることで、顧客の反応を客観的に把握できます。
③ その感情の動きが「何が原因で起きたのか」を検証する
最後に、「A/Bテスト」や「疑似実験」といった手法を使って、「この施策をやったら本当に効果があったのか?」を調べます。単なる「意見の集まり」ではなく、経営の意思決定に役立つ「確かな材料」へと進化させるイメージです。
代表的な分析ツールの例
それぞれのニーズに応じて、次のようなツールが使えます:
-
すべての工程をまとめてやりたい場合:
→「Qualtrics XM」が便利。アンケート作成からレポート作成まで一気通貫で行えます(月額10万円前後)。 -
すでにZendeskなどで問い合わせを管理している場合:
→「Synap」を追加すれば、AIで問い合わせ内容を要約して、分析もしやすくなります(月額8万円前後で現場も楽に)。 -
社内に技術力があり、もっと自由に分析したい場合:
→「LangChain × BigQuery」といったOSS(オープンソース)の構成で、自分たち専用の分析基盤を作ることも可能。コストは使い方次第ですが、柔軟性はピカイチ。
KPIのつながり方(ツリー構造)
顧客の声を分析して実行する施策が、最終的に企業の売上(ARR)にどうつながるかを可視化するには、次のような流れで考えると良いです:
-
最終目標(例):ARRの増加
-
そのために必要な行動:施策の実行数
-
施策の元になるのは:抽出したインサイト(気づき)の数と質
-
さらにそのインサイトは:有効なVoC(フィードバック)の数に左右される
このように指標を階層でつなぐことで、マーケティング・開発・カスタマーサクセスなど、部門をまたいで共通のKPIを見ながら動けるようになります。
AIを使ってもっとラクに・早くする
-
最新の「声」を反映させる方法:
→「RAG(検索付き生成AI)」を使えば、毎回新しいデータを参照しながらAIにまとめさせることができ、情報の鮮度が保てます。 -
トレンドの把握にも活用:
→「トピックモデリング」で話題の変化を自動で追えるので、リリースやキャンペーンごとの影響を可視化できます。これは経営会議の資料にもそのまま使えます。
AIをうまく組み合わせることで、分析にかかる時間を減らしつつ、判断のスピードも上がります。
VoCの成功事例4選
顧客の声を効果的に収集・活用し、製品やサービスの改善に成功した4つの事例を紹介します。オンラインコミュニティ運営、音声分析、SNSモニタリング、顧客調査など、多様なアプローチでVoCを活用し、具体的な成果につなげた企業の取り組みをご紹介します。
ファンコミュニティを活用したVoC収集と商品開発 -カルビー株式会社「絶品かっぱえびせん」の事例
カルビー株式会社は、複数の VoC (Voice of Customer)チャネルを組み合わせることで、商品開発と顧客理解を飛躍的に深めました。
まず、お客様相談室への問い合わせを分析した結果、「箱買い」「品切れ店舗を巡る」など熱量の高い購買行動を把握しました。次に実施した消費者調査では、利用シーンの写真提供を依頼し、たとえば「ビールのお供に楽しむ」といった具体的な食卓シーンを可視化しました。
さらに、洞察を拡張するためにオンラインコミュニティを開設し、日常的な商品レビューや開発担当者との対話の場を用意しました。開発の裏話や試行錯誤も包み隠さず共有する双方向コミュニケーションによって、従来の調査では得られなかった“本音”を引き出すことに成功しています。
この取り組みの集大成として、コミュニティ内で 50 件以上のアイデアを募集し、投票と試食会を経てファンと共創した新商品を発売しました。デビューシリーズにもかかわらず、高いブランド推奨意向を獲得し、VoC 活用の有効性を実証しています。

*カルビー株式会社「絶品かっぱえびせん」の事例を読む
オンラインコミュニティ活用による継続的VoC収集 -日本ケロッグ合同会社「オールブラン」の事例
日本ケロッグ合同会社は、オールブランの熱心な愛用者から学び、継続的な喫食を後押しするためにオンラインコミュニティ「オールブラン腸活部」を立ち上げました。
まず約 70 名の限定メンバーで土台を固め、その後「オールブランすっきりチャレンジ」など参加型イベントを定期開催しながら、朝食シーンの写真投稿やオリジナルのアレンジレシピといった質の高い VoC を日常的に収集しています。
コミュニティでは「オールブランを混ぜ込んだお好み焼き」のように開発側では想定していなかった活用法も生まれ、メンバー同士の共有を通じて食べ方の幅が大きく拡張しました。その結果、参加者の喫食回数は参加前比で 1.6 倍に増え、全 5 種類のうち 3 種類を購入するメンバーが 44 %に達するなど、買い回り率の向上にもつながっています。
さらに、新商品開発時にはコミュニティを通じてスピーディーに顧客インサイトを取得できるため、企画サイクルの短縮にも寄与しています。

*日本ケロッグ合同会社「オールブラン」の事例を読む
リアル店舗とオンラインの相乗効果によるVoC活用 - 株式会社大丸松坂屋百貨店「World Wine Now!」の事例
株式会社大丸松坂屋百貨店は、年に 2 回開催する催事「世界の酒フェス」だけでは顧客との接点が限定的であるという課題を解消するため、ワイン愛好家向けオンラインコミュニティ「World Wine Now!」を開設しました。
当初は新規顧客の獲得を狙っていましたが、運営を進めるうちに既存顧客との関係深化とVoC(顧客の声)収集のプラットフォームへと方針を転換。セミナーやイベント参加後の感想、店頭商品の反応、個々のワイン嗜好など、従来は把握できなかったインサイトを継続的に蓄積しています。
この取り組みにより、「カリフォルニアワインの愛好家はオーストラリアワインにも好意的」といった嗜好傾向や、「ドロップストップ」のような想定外の関連アイテムへのニーズを発見できました。さらに、コミュニティ内での商品紹介が実店舗への来店を促進し、セミナー参加者による体験投稿が新たな来店動機を生むなど、オンラインとオフラインを相互に強化する効果も生まれています。

*株式会社大丸松坂屋百貨店「World Wine Now!」の事例を見にいく
多角的なVoC収集による製品改善と顧客理解 - 株式会社SHARP「ホットクック」の事例
株式会社 SHARP は、自動調理鍋「ホットクック」に関して、従来のカスタマーサポートだけでは拾い切れない顧客の声を集めるため、オンラインコミュニティ「ホットクック部」を開設しました。
注目すべきは、購入検討期・導入期・熟練期という製品ライフサイクルの各段階で異なる VoC を体系的に収集できている点です。購入検討者からは具体的な購入障壁や比較検討の悩みが寄せられ、初心者ユーザーからは操作方法への不安や日常での困りごとが挙がります。さらに、ベテランユーザーからは詳細な改善要望に加え、「大量購入した肉の下処理」や「離乳食づくり」のような想定外の活用アイデアも届けられました。
この多面的な VoC は、製品価値の再発見と新機能の着想源となっています。また、新機能リリース時にはコミュニティでリアルタイムに反応を収集し、改善点を即座に開発チームへフィードバックする体制を構築。これにより、顧客ニーズをダイレクトに製品改良へ反映させる高速な PDCA サイクルが実現しています。

*株式会社SHARP「ホットクック」の事例を読む
初心者からベテランまで。異なるユーザーニーズと点在する顧客接点を一元サポート。限られたリソースでも効果を生むホットクック部のカスタマーサクセスとは。
よくある質問(FAQ)
Q1. VoCとNPSはどちらを先に導入すべきですか
現状把握のスピードを優先するなら NPS から着手するのが手軽ですが、解約要因の深掘りやアップセルのインサイトまで取りに行くなら、多面的に収集できる VoC 基盤を初めから構築したほうが再設計の手間を抑えられます。理想は、NPS を早期警報装置、VoC を原因分析装置として併用することです。
Q2. 小規模組織でもVoC運用は可能か
従業員 50 名規模でも、収集チャネルをサポートメール・アンケート・SNS の 3 つに絞り SaaS ツールを活用すれば、月額数万円で運用を開始できます。重要なのはデータのタグ付けルールを統一し、隔週で分析を回す習慣を埋め込むことです。
Q3. コンプライアンス上の注意点は何か
個人情報は識別子をハッシュ化したうえで保存し、利用目的をプライバシーポリシーに明記する必要があります。EU 圏ユーザーが含まれる場合は GDPR に準拠した同意取得が必須で、日本国内でも改正個人情報保護法のガイドラインに従って第三者提供の有無を開示してください。
Q4. 生成AIはいつ導入すべきか
月間フィードバックが 1,000 件を超え、ルールベースでは分類精度が頭打ちになった段階が目安となります。まずは要約タスクから始め、精度検証を終えたら感情分析やトピックモデリングへ拡張することで費用対効果を高められます。
Q5. BtoBとBtoCで運用は何が違うか
BtoB では契約単価が高く、意思決定者と利用者が異なるため、アカウント単位で集計し、関係者ごとの声を階層的に可視化する必要があります。一方 BtoC ではデータ量が多いため、セグメント別に感情スコアを時系列で追い、パターンを抽出するアプローチが有効です。
まとめ
VoC(Voice of Customer)活動は、顧客との関係を深めながら製品・サービスを磨き上げるうえで欠かせない取り組みです。現在はアンケート、コールセンター、SNS、口コミサイトなど多様なチャネルで声を集められる一方、チャネルごとに運用が分断されているとデータ統合や分析が難しくなり、真に価値のある顧客インサイトを取りこぼす恐れがあります。
そこで近年注目を集めているのが、ファンコミュニティを基盤にした VoC 活動です。カルビー株式会社や日本ケロッグ合同会社の事例が示すとおり、コミュニティでは継続的かつ双方向の対話が行われるため、従来手法では得にくかった深層ニーズを把握できます。ユーザー同士の自然な会話から想定外の活用アイデアや新商品のヒントが生まれるほか、改善要望をリアルタイムで収集できるため、開発サイクルも加速します。
もし貴社でもコミュニティを活用した VoC 体制にご興味がありましたら、以下のフォームから無料資料「3 分でわかる Commune」をダウンロードください。具体的な運用フローや成功事例をコンパクトにご確認いただけます。