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チャーンレートとは?種類から計算方法まで徹底解説! – 0からわかるカスタマーサクセス用語集
2024/07/01

チャーンレート(解約率)は、ある期間内にどれだけの顧客がサービスを離脱したかを示す指標です。SaaSやサブスクリプション型ビジネスの“心拍数”とも言える存在です。顧客維持が命題となるこれらのモデルでは、ARR(年間経常収益)やLTV(顧客生涯価値)と並び、プロダクトの健全性を測る最重要KPIとして位置づけられます。
またチャーンレートには複数の測定方法があり、それぞれ意味合いや活用シーンが異なります。本稿では、代表的なチャーンレートの種類を整理したうえで、事業成長を加速させる理想形の一つである「ネガティブチャーン」の仕組みと実現のポイントをわかりやすく解説します。
目次
チャーンレートとは?
チャーンレート(解約率)とは、既存顧客のうち一定期間内に契約を終了した割合を表す指標です。
SaaSやサブスクリプション型ビジネスでは、顧客が長く使い続けてくれるかどうかが成長の分水嶺になります。新規契約を獲得した時点では、広告費やオンボーディング支援などの顧客獲得コスト(CAC)をまだ回収できておらず、利用継続によって初めて利益(LTV)が積み上がります。
したがって、顧客維持の優劣を一目で示すチャーンレートは、ARRやMRRと並ぶ最重要KPIとしてモニタリングすべき指標なのです。
チャーンレートにはどんな種類があるのか?
チャーンレートは大きく二つの切り口で測定されます。1つ目は「カスタマーチャーンレート」──期首時点の顧客数を分母に、期間内に解約した顧客数を分子にしたもので、“何人”が離脱したかを捉えます。
2つ目は「レベニューチャーンレート」──期首MRR(またはARR)を分母に、解約やダウングレードで失われた売上を分子にしたもので、“いくら”失ったかを示します。
同じ1件の解約でも、月額の大きいエンタープライズ顧客か、小口の個人契約かで事業インパクトは異なるため、実務では必ず両方を併用して観測するのが定石です。
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ARRとは?役立つ場面から算出方法まで徹底解説

カスタマーチャーンレート
ある時点で契約している顧客のうち、一定期間内に「解約した顧客」や「有料プランから無料プランへダウングレードした顧客」が占める割合を示す指標です。
カスタマーチャーンレート=一定期間で解約した顧客数 ÷期首の顧客数×100
レベニューチャーンレート
レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)は 「ある時点で保有していた収益のうち、一定期間内に減少(あるいは増加)した割合」 を示す指標です。ここで言う収益とは通常、月間経常収益(MRR)や年間経常収益(ARR)などのリカーリング売上を指します。
通常、収益を動かすのは以下の三つの力です。
- 解約(Cancellation) – 顧客が完全に契約を終了し、MRRがゼロになる
- ダウングレード(Downgrade) – 上位プランから下位プランへ移行し、単価が下がる
- アップセル/クロスセル(Expansion) – 追加ユーザーや機能拡張によって単価が上がる
レベニューチャーンは、これら「減少させる力」と「増加させる力」のどちらを対象にするかで、次の二つに分類されます。
1. グロス・レベニューチャーン(Gross Revenue Churn)
解約とダウングレードによって “失った収益” だけ を集計し、期首MRRで割ったもの。失われた売上を純粋に把握したいときに使う。
2. ネット・レベニューチャーン(Net Revenue Churn)
グロス・レベニューチャーンから アップセル/クロスセルで “増えた収益” を差し引いた もの。アップセル効果まで含めた “最終的に減った(あるいは増えた)割合” を示す。追加収益が損失を上回れば値はマイナスとなり、これが理想とされる ネガティブチャーン の状態です。
レベニューチャーンレートを分解して観測することで、
- どの程度の収益が 流出 しているか
- その流出をどれだけ アップセルで補填 できているか
を定量的に捉えられます。SaaSが持続的に成長するためには、まずグロスでの流出を最小化し、同時にアップセル・クロスセル施策を強化してネットを ゼロ以下(ネガティブチャーン) に保つことが最重要課題となります。
具体的な数値をもとに計算すると?
具体的な数値を用いて、それぞれのチャーンレートをどのように計算するのか見てみましょう。
[期首の契約状況]
・5,000円プラン×10人
・10,000円プラン×10人
[期間内の変動]
・5,000円プラン→10,000円プランにアップグレード…4人
・10,000円プランの解約…3人
・10,000円プラン→5,000円プランにダウングレード…3人
[期末の契約状況]
・5,000円プラン×9人
・10,000円プラン×8人
カスタマーチャーンレート
顧客数に着目すると、20人から17人に減少しています。そのため、前述の計算式に当てはめると、
カスタマーチャーンレート=3÷20×100=15%
となります。従って、この期間のカスタマーチャーンレートは15%となります。
レベニューチャーンレート
グロスレベニューチャーンレート
今度は収益に着目します。損失額のみにフォーカスすると、
期間内に10,000円プランの解約が3人で10,000円×3人=30,000円、
10,000円プランから5,000円プランへのダウングレードが3人で5,000円×3人=15,000円、合計45,000円の損失があったことがわかります。
これを前述の計算式に当てはめると、
グロスレベニューチャーンレート=45,000÷(5,000×9+10,000×8)×100=36%
となります。従って、この期間のグロスレベニューチャーンレートは36%となります。
ネットレベニューチャーンレート
続いて、期間内の収益額全体にフォーカスしたいと思います。損失額は先ほどの計算通り45,000円、利益額は、5,000円のプランから10,000円のプランへのアップグレードが4人で5,000円×4人=20,000円となります。これを前述の計算式に当てはめると
ネットレベニューチャーンレート=(45,000−20000)÷(5,000×9+10,000×8)×100=20%
となります。従って、この期間のネットレベニューチャーンレートは20%となります。
以上で見たとおり、顧客数と収益のどちらに着目するかでチャーンレートは大きく変わります。
顧客によって契約金額に差があるサービスの場合は、レベニューチャーンレートを確認することも大切です。なぜなら、カスタマーチャーンレートでは全ての顧客を1カウントとするため、顧客ごとの収益に与える影響の大きさの違いが数値に反映されないからです。

ネガティブチャーンとは?
ネガティブチャーンとは、ネットレベニューチャーンレートがマイナスな状態のこと、つまり《解約やダウングレードによる収益減を、アップセルやクロスセルなどの収益増が上回っている状態のこと》です。
ネガティブチャーンについて、より詳しく知りたい方はこちら
先ほど挙げた例を以下のように変更して考えてみましょう。(±変更人数)
[期首の契約状況]
・5,000円プラン×10人
・10,000円プラン×10人
[期間内の変動]
・5,000円プラン→10,000円プランにアップグレード…8人 (+4人)
・10,000円プランの解約…2人 (–1人)
・10,000円プラン→5,000円プランにダウングレード…2人 (−1人)
[期末の契約状況]
・5,000円プラン×4人 (−5人)
・10,000円プラン×14人 (+6人)
損失額は、
10,000円プランの解約が2人で10,000円×2人=20,000円、
10,000円プランから5,000円プランへのダウングレードが2人で5,000円×2人=10,000円、
合計で20,000円+10,000円=30,000円となります。
一方、利益額は、
5,000円プランから10,000円プランへのアップグレードが8人で5,000円×8人=40,000円となります。従って、
ネットレベニューチャーンレート=(30,000−40,000)÷(5,000×4+10,000×14)×100= –6.25%
となります。
このように収益ベースで解約率を表した時、期間内の収益が最終的に増額していれば、解約率はマイナスの値を取ります。

ネガティブチャーンが重要な理由
事業を成長させる上で、ネガティブチャーンの実現を意識することは非常に大切になります。 その理由は以下の二つにまとめることができます。
安定性の向上
継続的な事業成長を果たすためにとるべきアプローチとして真っ先に思いつくのが、新規顧客の獲得ではないでしょうか。しかし、毎月安定して新規顧客を獲得することが難しいのは事実です。特に事業規模が大きくなるほど、この傾向は強くなるでしょう。ネガティブチャーンが実現していれば、新規顧客の獲得に左右されず収益が増加するので事業成長の安定感が増します。
成長スピードの向上
ネガティブチャーンが実現しているということは、既存顧客からの収益のみで事業が成長しているということです。つまり、新規顧客からの収益はそのまま利益として上乗せされ、より加速度的な事業成長を果たすことができます。
まとめ
チャーンレート(解約率)は大きく二つの視点で測定できます。ひとつは「顧客数」に着目する方法、もうひとつは「収益」に着目する方法です。さらに収益ベースで見る場合には、
-
解約やダウングレードによって失われた金額だけを集計する「グロス・レベニューチャーン」
-
そこからアップセル・クロスセルで増えた金額を差し引く「ネット・レベニューチャーン」
の二種類に分かれます。ネット・レベニューチャーンがゼロを下回ると、既存顧客から得た追加収益が解約や縮小で失った金額を上回る、つまり“解約しているのに売上は伸びている”状態になります。これがいわゆる「ネガティブチャーン」です。SaaSやサブスクリプション事業が安定的かつ加速度的に成長するには、このネガティブチャーンを継続的に実現することが欠かせません。
解約を抑えながらARR(年間経常収益)を増やす方程式はシンプルです。
-
既存顧客のアップセル・クロスセルを促進して収益を拡大する
-
ロイヤルユーザーを増やして解約率を引き下げる
この二つを同時に進める最短ルートが「ファンマーケティング」です。顧客を単なる利用者ではなく“熱量の高いファン”に育てることで、プロダクトへの滞在期間と利用金額の双方を引き上げられます。
ファンマーケティングを成功させるには、コミュニティ施策が非常に有効です。