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エクスパンションとは?アップセル/クロスセルでMRRを伸ばす方法

2024/03/27

エクスパンションとは?アップセル/クロスセルでMRRを伸ばす方法
コミューン編集部

コミューン編集部

エクスパンション(Expansion)とは、既存顧客の利用範囲や取引額を“拡張”し、継続収益を伸ばす成長戦略です。顧客獲得コスト(CAC)が年々高騰する現在、売上を「新規獲得」に依存するだけではビジネスの伸びは頭打ちになりがち。そこで注目されるのが、既存顧客の価値を最大化するエクスパンション施策です。
 
エクスパンションを具体的に推進するうえで欠かせないのが、次の3つのアプローチです。
 
1. アップセル:上位プランや追加機能へ誘導し、平均売上単価(ARPU)を向上させる
2.クロスセル:関連サービスや補完プロダクトを提案し、利用範囲を横展開する
3.ダウンセル:料金や機能を抑えたプランを提示し、離脱を防ぎながら長期的なLTVを確保する
 
この記事では、それぞれの概念と役割を整理したうえで、MRR(Monthly Recurring Revenue)を持続的に拡大するための実践ポイントをわかりやすく解説していきます。

エクスパンションとは

エクスパンション(Expansion)とは、既存顧客の取引額・利用範囲・契約期間を意図的に“拡張”し、中長期の売上と LTV(顧客生涯価値)を最大化する成長戦略です。

現在、平均 CAC(顧客獲得コスト)は 5 年前の 1.3〜1.7 倍に高騰すると言われ、「既存顧客をどう深耕するか」こそが持続的なスケールの分水嶺になりつつあります。

エクスパンションは、大きく アップセル・クロスセル(パッケージセル)・ダウンセル の三施策で構成されます。これらを データドリブン・タイムリー・パーソナライズド に実行することで、SaaS 企業の MRR 伸長率のうち 20〜40% を占めることも珍しくありません。本章では、それぞれの概念・仕組み・成功要件を詳しく解説します。

・関連記事:LTVとは?重要視される背景や計算方法、向上のための施策例を解説
┗ エクスパンションの目的である顧客生涯価値(LTV)の全体像と伸ばし方がわかります。

1. アップセル ― 上位プラン・高機能版への誘導

アップセルとは、ユーザーに「もっとできるようになる」「もっとラクになる」という明確な価値を提示し、現在より高価格帯のプランや追加機能へ自然に移行してもらう手法です。

たとえば、無料版の YouTube を利用している顧客に、広告非表示やバックグラウンド再生が可能な YouTube Premium を案内したり、Dropbox Basic の利用者に容量が6倍になり家族で共有できるファミリープランを勧めたり、マーケティングオートメーション(MA)ツールの利用企業へ SAML 認証や ABM 機能、専任カスタマーサクセスが付帯するエンタープライズプランを提案するケースが代表例となります。

成功の鍵は、利用容量が80%に達した、ログイン頻度が急増したといった行動トリガーを検知し、最適なタイミングで提案を行うことです。その際、アップグレードによって得られる時短効果や売上増、安全性向上などの ROI を具体的な数値で示し、7〜14日程度の無料トライアルやサンドボックス環境を用意して気軽に体験してもらうと転換率が高まります。

・関連記事:アップセル・クロスセルとは?概要から事例まで徹底解説!
┗ 上位プランへの誘導や提案タイミングなど、アップセル成功のポイントを詳しく学べます。

2. クロスセル/パッケージセル ― 関連サービスの横展開

クロスセルとは、既存顧客が抱えるニーズを“隣接領域”へと広げ、取引額全体を底上げするアプローチです。

身近な例としては、Amazon が「よく一緒に購入されている商品」を提示したり、モバイルキャリアが端末購入時に保証オプションを勧めたりするケースが挙げられます。BtoB の現場でも、チャットツールを導入している企業に同じユーザー数で利用できるクラウドストレージを抱き合わせで提案したり、マーケティングオートメーション(MA)を導入済みの企業に連携可能な CDP(顧客データ基盤)をセット販売したりするなど、活用シーンは多岐にわたります。

この手法を成功させるうえでは、本命商品と機能・利用シーンが連続しているかという補完性を確認しつつ、単体購入より総額を 10〜20%下げておトク感を訴求する価格設計が不可欠です。また、決済画面やサンクスメール、プロダクト内ポップアップなど、自然に目に入るポイントで提案する導線設計に加え、複数プロダクトを 1 SKU にまとめて契約・請求を一本化するバンドル設計が奏功します。

成果指標としては平均受注額や関連商材の採用率、クロスセル後の解約率などが用いられ、実際に契約後 90 日以内に 1 つ以上の関連プロダクトを導入した顧客は、そうでない顧客と比べて継続率が 10 ポイント以上高まることが報告されています。

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┗ クロスセルによるMRR拡大の考え方と数値管理のコツを解説しています。

3. ダウンセル ― 低価格プランで離脱を抑えるセーフティネット

ダウンセルとは、「失うよりも残す」ことに価値を置き、顧客の離脱を最小限に抑えるための施策です。

たとえば、機能が過剰だと感じて解約を検討している企業に対しては主要機能だけを備えたエッセンシャルプランを提案したり、年払い更新のタイミングで予算削減を迫られた顧客には一時的に月払いの廉価版へ移行してもらうといった形が典型例になります。

こうした対応により解約率を 2〜5 ポイント抑制できるケースが多く、実際にはダウンセルを受け入れた顧客の 15〜25%が 12 か月以内に再び上位プランへ戻るという調査結果も報告されています。

実装時は、キャンセルページにライトプランを即提示しワンクリックで移行できるようにするなど、解約フローに直接組み込むことが有効です。また、サクセスチームと連携してダウンセル後も機能の利用を促し、「プロダクトを十分に活用した結果、上位プランが必要になる」というシグナルを継続的に収集すると、アップセルへの再昇格がスムーズになります。

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・関連記事:チャーンレートとは?種類から計算方法まで徹底解説!
┗ ダウンセルで抑えたい解約率(チャーン)の測り方と改善アプローチを学べます。

エクスパンションのメリットとデメリット

エクスパンションのメリット

エクスパンション施策を実行する最大の利点は、既存顧客一人当たりの売上単価と顧客生涯価値(LTV)を同時に高められる点です。

アップセルやクロスセルによって追加機能や周辺サービスを採用してもらえれば、月次の平均売上単価が上昇し、その顧客が契約期間を通じて企業にもたらす総利益も伸長します。さらに、新規顧客を獲得する際に発生する広告費や営業工数、オンボーディングコストが不要なため、収益性の高い成長を実現できるのも大きな魅力です。

加えて、どの程度の顧客がアップセルやクロスセルに応じているかを計測することで、プロダクトがユーザーの課題や期待に適合しているか、また顧客満足度がどの水準にあるかを客観的に把握できるという副次的なメリットも得られます。

エクスパンションのデメリット

一方で、エクスパンションには注意点もあります。アップセルやクロスセルを過度に推奨してしまうと、顧客が押し売りと感じて反発し、ダウンセルや解約につながるリスクが高まる点です。

特に機能を十分に使いこなしていない段階で上位プランを案内すると、コストが先行して顧客体験が損なわれる可能性があります。そのため利用状況やログイン頻度、機能活用度といったデータを綿密に分析し、「今まさに価値を実感できるタイミング」でアプローチすることが不可欠です。

適切なターゲティングとタイミングを欠いたエクスパンション施策は、かえって顧客ロイヤルティを低下させ、長期的な LTV を削ってしまう恐れがある点を忘れてはなりません。

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エクスパンションの計算方法

エクスパンションがどれだけ発生したかを定量的に把握できれば、顧客満足度やプロダクト適合度を測るうえで強力なヒントになります。

エクスパンションMRR

最も汎用的な指標は「エクスパンション MRR」です。MRR(Monthly Recurring Revenue)は月間の経常収益を示す指標ですが、エクスパンションMRRはそのうち「前月から取引額が増えた既存顧客が生み出した増分」を集計したものです。

たとえば、ある顧客が前月 5 万円の契約だったところ今月 8 万円にアップグレードした場合、差額の 3 万円がエクスパンション MRRとして計上されます。複数顧客で発生した増分を合算すれば、当月の追加収益全体が明確になります。

コントラクションMRR

一方で、ダウングレードや利用縮小によって前月より取引額が減少した既存顧客の影響を測る指標が「コントラクション MRR」です。

これはコントラクション(収縮)という言葉のとおり、「前月比で減った分」を月次で集計したものです。たとえばエッセンシャルプランへダウンセルした結果、月額が 10 万円から 7 万円に下がった場合、差額の 3 万円がコントラクション MRRとなります。この値を把握しておくと、どの施策あるいは顧客セグメントで収益が減っているかを特定しやすくなります。

MRRの4つの指標

エクスパンションMRRは以下の形で求めることができます。

エクスパンションMRRの計算式

  • エクスパンションMRR=アップセル額+クロスセル額

このシンプルな式で、既存顧客が当月生み出した“追加収益”を定量化できます。アップセルは上位プランへの移行による増分、クロスセルはアドオンや関連サービスの採用による増分を指します。

エクスパンションMRRの計算式と具体例

計算例

  • プラン構成
    • ベーシックプラン:月額 1,000 円
    • プレミアムプラン:月額 2,000 円
    • サポートサービス(アドオン):月額 100 円
  • 顧客構成
    • 先月:ベーシック 6 名、プレミアム 4 名
    • 今月:ベーシック 4 名、ベーシック+サポート 1 名、プレミアム 5 名
  1. 先月の MRR
    1,000 円 × 6 名 + 2,000 円 × 4 名 = 14,000 円
  2. 今月の MRR
    1,000 円 × 4 名 + (1,000 円+100 円) × 1 名 + 2,000 円 × 5 名 = 15,100 円
  3. エクスパンションMRR
    今月の MRR(15,100 円)- 先月の MRR(14,000 円)= 1,100 円

    • うち 1,000 円 はベーシックからプレミアムへ移行したアップセル分
    • 100 円 はサポートサービスを追加したクロスセル分

このように顧客数が変わらなくても、アップセルとクロスセルを通じて MRR は 月次で 1,100 円 増えました。増分の内訳を把握することで、どの施策が収益向上に寄与したのか、またプロダクトがどれだけ高い満足度を提供できているかを定量的に評価できます。

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まとめ

複数の月額プランやアドオンを提供しているサービスでは、総売上だけでなく、エクスパンションMRRやコントラクションMRRといった細かな指標を把握することが欠かせません。これらの数値を参照することで、どのプランが収益に貢献しているのか、逆にどこに改善余地があるのかを定量的に確認できます。まずは自社サービスの現状を冷静に見つめ直し、指標ごとの推移から課題を特定してみてください。

コミュニティサクセスプラットフォーム「Commune(コミューン)」は、コミュニティ施策の企画から構築、運用までをワンストップで支援し、既存ユーザーのロイヤルティ向上と売上拡大を実現してきた実績があります。こちらの資料では、コミュニティ活用について詳しくご紹介しています。顧客体験をさらに強化したいマーケティング担当者の方は、ぜひダウンロードしてご活用ください。

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