
コラム
マーケティング
カスタマーレッドグロースとは?あらゆる企業が実践すべき重要戦略
2025/02/04

「顧客のニーズを深く理解し、事業に活かしたい」
そう願うのは、どの企業も同じでしょう。
しかし、
「一方的にリサーチするだけでは、もう限界なのでは?」
このような疑問が頭によぎったことがあるなら、“カスタマーレッドグロース” に取り組むべきタイミングかもしれません。
カスタマーレッドグロース(Customer-Led Growth) とは、あらゆる顧客のちからを成長に活かす経営のことで、顧客を事業成長のパートナーと捉え、顧客が企業の成長を牽引する、共創型の成長モデルです。
今後、企業が一方的に「顧客のニーズを探る」だけでは、市場で勝ち残るのは難しくなっていくでしょう。顧客と深くつながり、共に価値を創造する仕組みを構築することが、市場で抜きん出るための、大きな差別化要因となるのです。
本記事では、カスタマーレッドグロースの全貌を、基本的な意味から成功事例、具体的な実践ステップまで、分かりやすく丁寧に解説します。
カスタマーレッドグロースの考え方とアプローチを理解し、自社の事業にどのように取り入れられるかを検討してみてください。持続的な成長への道筋が、はっきりと見えてくるはずです。
目次
- 1. カスタマーレッドグロースとは何か?基本の知識
- 1-1. あらゆる顧客のちからを成長に活かす経営=カスタマーレッドグロース
- 1-2. 顧客をターゲットやリサーチ対象ではなく「パートナー」と捉え直す
- 1-3. 具体的なアプローチの例(開発/マーケ/CS)
- 1-4. PLG・SLGとカスタマーレッドグロースの比較
- 1-5. 従来の「顧客起点マーケティング」との違い
- 1-6. ビジョン:あらゆる組織と人が融け合う未来
- 2. なぜ今「カスタマーレッドグロース」が必要なのか?5つの背景
- 2-1. 既存顧客の重要性がますます増している
- 2-2. 労働力不足へ対応しなければならない
- 2-3. 個人のメディア発信力が高まっている
- 2-4. 企業と顧客が共創する新たな経済合理性がある
- 2-5. さらに先を行く「顧客起点」で差別化しなければならない
- 3. カスタマーレッドグロースで成功を収めた具体的な事例
- 3-1. ベースフード(完全栄養食)
- 3-2. カルビー(かっぱえびせん)
- 3-3. ユーザックシステム(RPAツール)
- 3-4. Spotify(音楽ストリーミング)
- 3-5. 成功事例に共通するパターン
- 4. カスタマーレッドグロース実現のステップ
- 4-2. ステップ2:起点となる領域を特定し浸透プロセスを策定する
- 4-3. ステップ3:クイックウィン施策を設計する
- 4-4. ステップ4:クイックウィン施策実行と長期ビジョン実現を進める

1. カスタマーレッドグロースとは何か?基本の知識

- あらゆる顧客のちからを成長に活かす経営=カスタマーレッドグロース
- 顧客をターゲットやリサーチ対象ではなく「パートナー」と捉え直す
- 具体的なアプローチの例(開発/マーケ/CS)
- PLG・SLGとカスタマーレッドグロースの比較
- 従来の「顧客起点マーケティング」との違い
- ビジョン:あらゆる組織と人が融け合う未来
1-1. あらゆる顧客のちからを成長に活かす経営=カスタマーレッドグロース
カスタマーレッドグロースとは、あらゆる顧客のちからを成長に活かす経営のことです。
「顧客満足を企業活動の起点とし、顧客の声や行動をさまざまな局面で活用して事業成長へつなげる戦略」と定義できます。

日本語のマーケティング用語で「レッド」というと「レッドオーシャン」などを連想しがちですが、カスタマーレッドグロースのレッドは「red(赤)」ではなく「led」となります。
「led」は英語の動詞「lead(導く/リードする)」の過去分詞形、あるいは形容詞的用法として使われており、「顧客によって導かれる成長」「顧客が主導する成長」という意味になります。
つまり、カスタマーレッドグロースは、「企業が顧客の声や行動を取り入れることで、顧客が成長の“舵取り役”になり、企業全体の成長をリードしていく」というコンセプトを端的に表したフレーズです。
1-2. 顧客をターゲットやリサーチ対象ではなく「パートナー」と捉え直す
カスタマーレッドグロースは、従来のように顧客を「ターゲット」や「リサーチ対象」としてのみ捉えるのではなく、事業を共に作り上げるかけがえのない存在として認識することが大きな特徴です。
・顧客を“利用者”や“ターゲット”ではなく“パートナー”と考える:
顧客がどのような目的で買ってくれているのか、使い続けている理由や途中でやめてしまう理由を十分に把握できなければ、ビジネスは失敗します。カスタマーレッドグロースでは、顧客を「価値を共創する存在(パートナー)」と捉え、パートナーとの相互理解を深めていく点が大きな転換です。
・顧客が発信するフィードバック・アイデア・口コミ・紹介などを積極的に巻き込む:
「この商品ってすごく助かる!」「ここをもう少し改善してほしい」といった生の声を、ただ受け取るだけでなく事業成長に直結させます。「商品を実際にどのようなシーンで使っているのか?」「何が本当に必要なのか?」を理解し、それをビジネスにフィードバックしていきます。
・企業と顧客が対等に“共創”する体制を構築し継続的に育てていく:
企業の内部にいる従業員だけでなく、外部にいる“顧客”という存在そのものも、自社の強力なリソースだと捉え直します。自社の従業員と信頼関係を結び、共に成長していくように、顧客とも長期的な関係を構築する姿勢が鍵となります。
このように顧客との関係性や存在を捉え直すと、従来のアプローチでは到達できなかったイノベーションの源泉となるアイデアや改善のヒントが、自然と湧き上がってきます。これが、カスタマーレッドグロースの肝となる考え方です。
1-3. 具体的なアプローチの例(開発/マーケ/CS)
「カスタマーレッドグロースの概念を、具体的にどう落とし込むのか?」
という点が気になる方もいるでしょう。
実現ステップは後ほど詳しく解説しますが、イメージしやすいように、各部門でのアプローチ例を先にご紹介しましょう。

・製品開発:
コミュニティやアンケートを使い、顧客から寄せられるアイデアや要望を次期モデルに反映します。「新商品はこれが欲しい」「こんな悩みを解決してほしい」という声を活用して、製品開発を行います。
・マーケティング:
口コミが生まれやすいプログラム設計(友人紹介キャンペーン、SNSシェア企画など)を用意します。顧客がSNSで発信してくれる環境を整えれば、顧客が宣伝の担い手となってプロモーションが加速します。
・カスタマーサポート:
顧客同士のQ&Aプラットフォームを整備し、顧客が相互にサポートし合える環境を用意します。企業側のサポートコストを削減できるだけでなく、問題解決のスピードが上がり、顧客満足度も高められます。
このように、カスタマーレッドグロースを実現するためには、企業側が「場」や「仕組み」を提供し、顧客の自然発生的なアクションを引き出していくことが鍵となります。
1-4. PLG・SLGとカスタマーレッドグロースの比較
カスタマーレッドグロースの関連語として、「プロダクトレッドグロース(PLG)」や「セールスレッドグロース(SLG)」があります。
カスタマーレッドグロースの概念をより深く理解するために役立ちますので、確認しておきましょう。
・PLG (Product-Led Growth / プロダクトレッドグロース):
プロダクト(製品)自体が顧客獲得・拡大・維持の主役となる成長戦略。例えば、「無料トライアルや初回購入のハードルを下げる施策」など、ユーザーが製品の価値を自ら体験し、それが口コミやアップグレードにつながる仕組みを重視します。
・SLG (Sales-Led Growth / セールスレッドグロース):
営業チームが主導となり、顧客獲得・拡大・維持を行う成長戦略。見込み顧客への積極的なアプローチや、個別提案による契約獲得を重視します。

PLGの例としては、ZoomやDropboxなどが挙げられます。「まずはユーザーに製品を使ってもらうこと」に重点があり、セルフサービス型であることも特徴的です。ユーザーが自分で使いこなせるように設計されており、営業・接客のリソースを最小限にしています。
SLGの例としては、Salesforce (エンタープライズ向け)などのBtoBが挙げられます。SLGでは、営業担当者のリードによって、ビジネスが拡大していきます。
PLGやSLGとの対比でカスタマーレッドグロースを捉えるなら、
「顧客が製品開発担当者のように、製品改良や新商品開発をけん引することもあれば、顧客が営業担当者のように、新しい顧客を連れてくることもある」
という点がポイントとなります。
カスタマーレッドグロースの戦略において、ビジネスの成長をリードするのは常に「顧客」なのです。
1-5. 従来の「顧客起点マーケティング」との違い
一方、2020年代のマーケティング界においては、「顧客起点」「顧客中心主義」といった戦略は、珍しいものではありません。
「従来の“顧客起点マーケティング”と、カスタマーレッドグロースは結局同じ?」
と疑問に思うかもしれませんが、位置付けるなら、カスタマーレッドグロースはさらに先進的なアプローチです。

従来の顧客起点マーケティングは、リサーチやデータ分析が中心で、企業側が一方的に「顧客を知る」アプローチでした。
カスタマーレッドグロースでは、顧客自身が「これを作りたい」「こんな使い方をしている」と主体的に発信し、その熱量を事業全体で活かす点が異なります。
両者とも「顧客理解」は重視しますが、カスタマーレッドグロースでは、顧客自身のプロアクティブ行動(能動的、積極的なアクション)を引き出すアプローチが特徴的です。
先にも述べたとおり、顧客は単なるリサーチ対象ではなく、企業のパートナーであり、リソースであり、事業を共に作り上げるかけがえのない存在です。
従来の顧客起点マーケティングよりも、顧客とより近い距離で、従業員と顧客が融け合うビジョンがあります。

1-6. ビジョン:あらゆる組織と人が融け合う未来
ここで、“従業員と顧客が融け合うビジョン”について、補足しておきましょう。

カスタマーレッドグロースに取り組むうえでは、顧客との距離が縮まる社内体制の整備が、一つの鍵となります。言い換えると、「EX(従業員体験)」と「CX(顧客体験)」を融合させ、両者を高め合うアプローチです。
これは、コミューンがビジョンとして掲げている「あらゆる組織と人が融け合う未来」に通じる重要な概念です。
EXとCXの融合については、「CX(顧客体験)とEX(従業員体験)とは?相互作用を最大化する方法」にて詳しく解説しています。カスタマーレッドグロースとあわせてインプットすると理解が深まる内容となっていますので、ぜひご確認ください。
2. なぜ今「カスタマーレッドグロース」が必要なのか?5つの背景

ここまで「カスタマーレッドグロースとは何か?」について解説してきました。続いてお伝えしたいのは、「なぜ必要か?」についてです。
従来の顧客起点マーケティングでもなく、PLGでもSLGでもなく、今、カスタマーレッドグロースに取り組むべき理由としては、大きく5つのポイントが挙げられます。
- 既存顧客の重要性がますます増している
- 労働力不足へ対応しなければならない
- 個人のメディア発信力が高まっている
- 企業と顧客が共創する新たな経済合理性がある
- さらに先を行く「顧客起点」で差別化しなければならない
2-1. 既存顧客の重要性がますます増している
従来から、新規顧客獲得には既存顧客維持の5倍以上のコストがかかるといわれてきました (参考:「1:5の法則」「5:25の法則」とは?メカニズムから実用の注意点まで徹底解説!)。
しかし、市場が成熟し競争が激化するなか、さらに既存顧客の重要性が増しています。既存顧客との関係強化が、これまで以上に企業の収益を左右する時代になったのです。
カスタマーレッドグロースの視点で見れば、既存顧客は単なるリピーターではありません。共に成長するパートナーです。

たとえ100人しか顧客がいなくとも、改善をリードし、自ら製品やサービスを周囲に広め、新たな顧客を紹介してくれる方々だったら、どうでしょうか。
そのような熱量の高い顧客と関係を構築できれば、100人が1000人にも匹敵するインパクトを生み出すことも、夢物語ではないのです。それがカスタマーレッドグロースの目指す世界です。
2-2. 労働力不足へ対応しなければならない
日本では毎年およそ80万人もの人口が減少しているといわれ、多くの企業が深刻な労働力不足に直面しています。
「従業員を増やしたくても、人材を採用できない。採用できても、人件費が高騰している」
このような状況下にあって、従業員を増やすことだけに頼った事業拡大は、現実的ではありません。
この課題を解決する鍵が、顧客を企業の成長エンジンへと変える「カスタマーレッドグロース」です。

顧客が製品やサービスの開発、さらにはプロモーションやサポートの一部を担ってくれるようになれば、企業は限られた人的リソースをより戦略的な業務に集中できます。
顧客の力を借りることは、持続可能な事業成長モデルへの転換といえるでしょう。
2-3. 個人のメディア発信力が高まっている
誰もが情報発信できるSNSプラットフォームの普及により、顧客一人ひとりが強力なメディアとなる時代を迎えました。企業が発信する広告よりも、信頼する個人、つまり顧客自身が発信する情報が、消費行動に大きな影響を与えるようになっています。

この変化は、企業にとってチャンスです。熱心な顧客が「このサービスは本当に助かる」と自発的に周囲に紹介してくれれば、それはどんな広告よりも効果的です。顧客の発信が、企業の成長の原動力に変わります。
ただし、ネガティブな口コミが拡散するリスクも高まっています。だからこそ、顧客が自ら企業の魅力を語りたくなる仕組みを戦略的に(カスタマーレッドグロースとして)構築することが、重要になるのです。
2-4. 企業と顧客が共創する新たな経済合理性がある
従来、製品開発から販売、サポートに至るまで、企業がすべてを担うのが一般的でした。しかし、そのビジネスモデルは、大きな転換点を迎えています。
顧客との共創により、企業はより効率的に、より大きな価値を生み出せる時代になったのです。

例えば、顧客が製品開発の初期段階から関与すれば、市場ニーズに合致した製品をスピーディーに投入できます。あるいは、顧客同士がサポートし合うコミュニティを活性化させれば、企業はサポートコストを削減しながら、顧客満足度を向上できます。
加えて、顧客との共創は、単なるコスト削減や業務効率化にとどまりません。 顧客の創造力やアイデアを事業に取り込めば、これまでになかった革新的な製品やサービスを生み出す可能性が広がります。
2-5. さらに先を行く「顧客起点」で差別化しなければならない
現代のビジネスにおいては、多くの企業が顧客起点・顧客中心といった考え方を取り入れています。よって、それだけでは競合との差別化が難しくなってきているのも事実です。
これからの時代は、未来志向の「顧客起点」が求められています。それが、顧客を“共に成長するパートナー”と捉える「カスタマーレッドグロース」の考え方です。

例えば、ユーザーコミュニティから生まれるUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)がサービス改善や宣伝に大きく貢献するようになれば、それは他社には簡単に真似できない独自の強みとなります。
顧客との共創を通じて自社の成長を実現する「カスタマーレッドグロース」の実践こそが、企業の新たな競争力の源泉となるのです。
3. カスタマーレッドグロースで成功を収めた具体的な事例

続いて、カスタマーレッドグロースで成功を収めた事例をご紹介します。
- ベースフード(完全栄養食)
- カルビー(スナック菓子)
- ユーザックシステム(RPAツール)
- Spotify(音楽ストリーミング)
- 成功事例に共通するパターン
※文中敬称略
3-1. ベースフード(完全栄養食)
企業名 | ベースフード株式会社 |
業種・商品 | 完全栄養食(パン、パスタ、クッキーなど) |
企業の特徴 | 「栄養バランス×スタイリッシュ」路線で若年層から支持を拡大している食品ベンチャー |
ベースフード株式会社は、栄養志向が高まる市場環境のなかで、いかに効率的に新商品を開発し、定期購買モデルでリピートを維持するかが大きな課題でした。
そこで「顧客との共創」という方針を打ち出し、顧客を“研究員”と位置付けて参加してもらうコミュニティ「BASE FOOD Labo」を整備し、意見を反映しながら商品改良サイクルを回すことを目指しました。

【具体的なCLG施策】
・コミュニティ「BASE FOOD Labo」:
顧客が自主的にレシピや食事の写真を投稿し合える場を提供しています。
・友人紹介プログラム:
研究員(顧客)が友人や知人を定期購買ユーザーとして招待すると特典が得られる仕組みを採用し、新規顧客獲得コストを抑制しています。
・アンケート機能:
新商品のアイデアを多数集めるために、コミュニティ内で定期的なアンケートを実施しており、数時間で数百件の回答を得られるケースもあります。

【得られた成果】
・開発スピードが加速:
ユーザーからの率直なフィードバックを製品改良に即反映し、次回リリースまでの期間を短縮しました。
・LTV(顧客生涯価値)の向上:
ブランドに愛着を持つ“研究員”が増え、定期購買の継続率が有意に高まっています。
・広告費の削減:
友人紹介と口コミ拡散によって新規顧客を獲得し、メディア露出も増加。従来型のマーケティング費用を抑えられました。
同社は、コミュニティを「顧客参加の場」として設計し、そこから出てきた声をきちんと商品やキャンペーンに反映している点が成功の鍵だと考えられます。
*BASE FOOD Labo を見にいく
3-2. カルビー(かっぱえびせん)
企業名 | カルビー株式会社 |
業種・商品 | スナック菓子(ポテトチップス、かっぱえびせん など) |
企業の特徴 | 長年にわたり多様なスナック菓子を展開。商品の定番化と、新作の企画力に定評がある |
カルビー株式会社のロングセラーの「かっぱえびせん」は知名度の高さが強みですが、新たな顧客層を開拓するためのリニューアルが課題となっていました。
「絶品かっぱえびせん」を開発するにあたって、リアルな食べ方やユーザーがどんなシーンで楽しんでいるかなどを、消費者の生の声から深掘りしたいと考え、コミュニティ活用を決断しました。

【具体的なCLG施策】
・ユーザーコミュニティの活用:
飲酒シーンなどの具体的な利用状況を投稿してもらい、味付けやパッケージデザインへの示唆を得ました。
・新フレーバーの共同開発:
コミュニティ内でアイデアを募り、人気投票や試作品の試食を通じて、多角的なユーザー意見を収集しています。

【得られた成果】
・ヒット商品の誕生:
新フレーバーによって新規顧客の支持も獲得し、ブランド全体の売上拡大に寄与しました。
・ブランド認知向上:
コミュニティ発の取り組みが話題になり、メディアにも取り上げられ、消費者の興味喚起につながりました。
・継続的なコミュニティ利用:
かっぱえびせん以外の商品開発やキャンペーンでも、顧客参加型の企画を横展開できる下地が築かれています。
コミュニティ投稿をそのまま商品設計に活かす“ユーザー中心”の開発スタイルが斬新で、顧客に「一緒に作っている」感覚を与えたことが成功の理由といえるでしょう。
*カルビー株式会社のコミュニティを見にいく
3-3. ユーザックシステム(RPAツール)
企業名 | ユーザックシステム株式会社 |
業種・商品 | RPAツール(業務自動化ソフトウェア) |
企業の特徴 | 中堅・大手企業を中心に、業務効率化の課題解決を支援。ユーザー企業の規模が幅広い |
ユーザックシステム株式会社が手がけるRPAツールは、高度な設定や企業ごとの業務プロセスに合わせたカスタマイズが必要になる場合が多くあります。サポートセンターだけでは、対応が追いつかないケースが増えていました。
加えて、ユーザー企業側のシステム環境が千差万別であるため、「自社で理解しきれない要望」に時間を割かれる課題を抱えていました。
そこで、顧客同士の知識共有を促し、サポートコスト削減と顧客満足度向上を両立させる形を模索したのです。
【具体的なCLG施策】
・顧客コミュニティの構築:
ユーザー同士で質問や回答を行うフォーラムを開設し、ノウハウや成功事例を蓄積できる仕組みを作りました。
・動画マニュアルの提供:
専門的な設定手順や操作方法を解説する動画をコミュニティ限定で公開し、導入初期の問い合わせを軽減しました。

【得られた成果】
・サポートコストの削減:
コミュニティ内で解決する問い合わせが増え、企業サイドで対応する必要が減りました。
・顧客満足度の向上:
ユーザー同士が共感し合いながら問題を解決できるため、「自社独自の使い方」なども気軽に相談できます。
・解約率の改善:
相談コーナーの設置によりユーザーがストレスなく問題解決できるようになり、解約率改善にプラスの影響を与えました。
顧客同士が知識を提供してサポートし合う場を設計し、企業が全面的に介入せずとも自然と高品質なQ&Aが成立するよう誘導した点が成功要因といえます。
*ユーザックシステムのコミュニティを見にいく
3-4. Spotify(音楽ストリーミング)
企業名 | Spotify |
業種・商品 | 音楽ストリーミング、ポッドキャスト配信など |
企業の特徴 | グローバルで数億人のユーザーを持つ大手サービス。レコメンドアルゴリズムの進化に定評がある |
音楽ストリーミングの市場が急拡大するなか、競合が増加し、ユーザーは多くの選択肢を得るようになりました。
Spotifyとしてはユーザーの音楽嗜好に合わせてサービスを素早く進化させる必要があり、早期からコミュニティを立ち上げて要望やバグ報告を受け付ける仕組みを整えています。さらに、世界中のユーザーが参加することで多様な意見を取り込むことを重視しました。
【具体的なCLG施策】
・公式コミュニティの開設:
新機能リクエストや不具合報告を投稿できる場を設置し、ユーザーが投票やコメントを行えるようにしています。
・アイデアに対するステータスの付与:
投稿されたアイデアに対して、「実装済み」や「現時点では対応しない」などのステータスを付与するなど、意見がどう扱われているかについて一定の透明性を提供しています。
・レコメンドエンジンへの活用:
再生履歴のデータとコミュニティの意見を組み合わせ、パーソナライズ性能を向上させています。

【得られた成果】
・継続率の向上:
コミュニティでの意見が反映されることを実感することでユーザーの愛着が高まり、解約を避ける傾向が生まれました。
・グローバルな改善の加速:
コミュニティを通じて地域差や文化差を吸収し、世界各地で最適化したサービスを提供できています。
・ブランドイメージの強化:
単なる「音楽再生プラットフォーム」ではなく、ユーザー参加型で絶えず進化しているブランドとして認知されるようになりました。
Spotifyでは、ユーザーの声を拾うだけでなく、反映できなかった要望にも理由を示すという丁寧な対応がロイヤルティを高めています。
3-5. 成功事例に共通するパターン
カスタマーレッドグロース(CLG)の観点から見ると、成功事例には共通するパターンがあります。

第一に、顧客が自主的に行動しやすい環境を整え、コミュニティやフォーラムという「顧客参加の場」を設置していることが挙げられます。
第二に、そこで得たフィードバックを製品やサービスに迅速に反映し、「自分の声が届いている」と実感させることでロイヤルティを高める手法を採用しています。
第三に、社内の複数部門(サポート・開発・マーケティングなど)が連携し、顧客データを共有しながら長期的な企業文化変革へとつなげている点も見逃せません。
CLGを成功させるためには、顧客をリサーチ対象ではなく“共創パートナー”とみなし、企業の内部体制や評価制度を含めてアップデートしていく姿勢が求められます。今回の4事例は、まさにその姿勢が事業成果やブランドロイヤルティに直結している好例といえるでしょう。
なお、重要な鍵となる「コミュニティ」の事例については、以下の資料にて多数ご確認いただけますので、あわせてご活用ください。

4. カスタマーレッドグロース実現のステップ

「自社でもカスタマーレッドグロースに取り組みたい」という方も多いでしょう。以下はカスタマーレッドグロース実現ステップの全体図です。

4つのステップに分けて、どう取り組んでいけばよいのか解説します。
- ステップ1:長期ビジョン・マインドセットを設定する
- ステップ2:起点となる領域を特定し浸透プロセスを策定する
- ステップ3:クイックウィン施策を設計する
- ステップ4:クイックウィン施策実行と長期ビジョン実現を進める

カスタマーレッドグロースの実現には、長期的な視点での計画が欠かせません。最終的な理想の姿として目指すのは、「各業務の顧客への貢献」→「顧客満足」→「企業への顧客の貢献」のサイクルです。

このビジョンを策定する際には、自社の事業や組織の特性を踏まえた具体化が重要となります。会社、事業、部門、業務における顧客の捉え方を確認しながら、自社のあるべき姿を探ってください。
企業ごとに青写真は異なるため、自社の言葉で表現することが大切です。
【長期ビジョンの設定例】
・トップメッセージ:
「私たちは、顧客と共に成長し、共に新たな価値を創造する企業を目指す。顧客の成功なくして、私たちの成長はありえない。全社一丸となって、顧客との共創を推進し、持続可能な成長モデルを構築する」
・方針:
評価制度を「顧客対応がどれだけ前向きに行われたか」や「顧客との共創が事業成果にどう寄与したか」で測る仕組みに切り替え、従業員にも納得しやすい形にする。
カスタマーレッドグロースでは、複数部門を巻き込んだ方針策定が必要な点にも留意が必要です。これは、“顧客へ貢献する部門”と“顧客から貢献される部門”が異なることが多いためです。
「顧客との距離が近づく(コミューンの言葉でいうと“融け合う”)」ことを前提とした、全社的な意識付けが欠かせません。
4-2. ステップ2:起点となる領域を特定し浸透プロセスを策定する

カスタマーレッドグロースに取り組む際、どの業務・部門から始めるかを戦略的に検討する必要があります。各部門の業務特性と、ターゲットとする顧客属性を掛け合わせて、スタート地点を決定しましょう。
下図のように、特性と向き・不向きの判断を表にすると、ロジカルな意思決定が可能です。

【判断基準の例】
・顧客の声を活かしやすいか(可能性×スピード):
顧客との接点が多い現場でコミュニティ運営を始めると、顧客の声を集めやすくなり、短期間で成果を示しやすくなります。
・部門/業務責任者の姿勢:
推進部門や業務責任者が、カスタマーレッドグロースの価値を理解し積極的に推進しようとする姿勢を見せることでスムーズに進められます。
・他部門や全社展開が見えるか:
起点となる部門の取り組みが、他部門へのモデルケースとなり、全社的な広がりにつなげやすいかどうかも重要な視点です。
また、顧客属性を踏まえて、どの顧客セグメントとの共創に取り組むのかを見極めることも重要です。「コミュニティを立ち上げても運営リソースを確保できるか」「顧客の熱量が高い商品やサービスはどれか」といった点も、判断材料にするとよいでしょう。
選定した起点部門の取り組みを、いかに社内で貢献度・影響度を高めていくかというステップの設計も必須です。
以下のようなチェックリストを活用すると、貢献度や影響度を見える化して管理しやすくなります。

社内アワードの導入、定量売上調査の実施、外部パブリシティを活用した知名度向上など、戦略的なKPI設定とアクションプランを検討しましょう。
「カスタマーレッドグロースでは顧客へ貢献する部門と顧客から貢献される部門が異なる」ということを踏まえたうえで、複数部門を巻き込んだ方針策定を進めていくことがポイントです。
4-3. ステップ3:クイックウィン施策を設計する

いきなり、大がかりなコミュニティやファン組織の立ち上げを目指すと、運営体制が整わずに途中で行き詰まることがあります。
そこで、少人数のファンミーティングを開催し、直接会話しながら製品やサービスの改善案を短期でテストするなど、小規模な施策から始める方法が効果を発揮します。顧客が力を貸してくれる動機づくりと、全社に伝わる初期的な成果づくりが重要です。
クイックウィン施策設計では、以下の骨組みに沿って検討を進めるとよいでしょう。
【クイックウィン施策設計の骨組み】
(1)顧客のだれと/だれの:
対象となる顧客セグメントを明確にします。熱心なファン層、ライトユーザー、離反顧客など、どの層と接点を持つかを特定することが出発点となります。
(2)どんな声を:
集めたいVoC(顧客の声)のタイプを特定します。課題や不満、アイデア、称賛など、どんな声が欲しいのかを決めましょう。
(3)どんなふうに集めて/活かせるようにして:
VoCの集め方と、それを業務に活かすプロセスを設計します。イベントやアンケート、コミュニティなど、さまざまな手段が考えられます。
(4)どの業務を:
集めたVoCを活用する業務を特定します。商品開発・マーケティング・カスタマーサポートなど、具体的な業務領域を決めましょう。
(5)どのように良くするのか:
VoCを業務に反映し、どのような改善や革新を目指すのかを明確にします。品質向上・売上向上・顧客満足度向上など、目標を設定します。
これらの要素に加えて、「スケジュール、担当者、成果証明の方法」をセットで検討することが重要です。
実践例を挙げると、シャープ株式会社の調理家電「ホットクック」でのファンミーティング企画が挙げられます。

ユーザーの新製品の感想やフィードバックの声を、特別感を醸成したファンミーティングで集め、販促・商品開発・ブランド力強化に関わる業務を良くするというものです。実際にイベントやミーティング中に受けた声を社内で検討し、業務に反映するというサイクルを回しました。
その成果として、ファンミーティングのイベントレポート記事が国内最大級の一次メディア「マイナビニュース」に掲載され、架電・デジタルカテゴリ(+Digital)で人気記事ランキング1位を獲得するなど、パブリシティ面にも貢献し、社内での評価にも繋がりました。
4-4. ステップ4:クイックウィン施策実行と長期ビジョン実現を進める

クイックウィンが生まれると、「顧客との共創には大きな価値がある」という認識が社内に浸透しやすくなります。これを足がかりに、長期ビジョンとクイックウィン施策の両輪でバランスを取りながら、カスタマーレッドグロースの実現を目指していきましょう。

クイックウィン施策の着実な実行と、そこで得られた学びの社内展開・教育を通じて、カスタマーレッドグロースのサイクルを太く強くしていきます。
注意点として、クイックウィンばかりに目が向くと、長期的な視点がおろそかになるリスクがあります。常に将来の理想像を見据えながら、それに向けた一歩一歩を着実に進めていく姿勢が欠かせません。他部門への展開や社内教育も積極的に進めていくことが重要です。
【具体的な取り組み例】
・横断的なワーキンググループの設置:
部門を超えた連携体制を整え、顧客の声をどのように反映するかを明確化します。各部門の代表者が集まり、定期的に進捗を確認し合う場を設けることが有効です。
・従業員向け研修の実施:
コミュニティマネジメントの基礎や、顧客対応のノウハウを学ぶ場を作り、組織全体でスキルを向上させます。外部講師を招くなどして、新しい視点を取り入れるのも一案です。
カスタマーレッドグロースの実現には、トップのコミットメントと従業員一人ひとりの意識改革が不可欠です。地道な取り組みの積み重ねが、顧客との価値共創につながります。
5. カスタマーレッドグロース成功の重要ポイント

最後に本記事の統括として、カスタマーレッドグロースを成功させるポイントを5つ、お伝えします。
- マインドセットを最優先しよう
- スタートポイントを明確にしよう
- ファンだけにこだわらず多様な顧客を巻き込もう
- インセンティブとスムーズな体験を設計しよう
- 長期ビジョンとクイックウィンを両立させよう
5-1. マインドセットを最優先しよう

前述の実現ステップでも触れたポイントですが、カスタマーレッドグロースにおける最優先課題は「マインドセット」にあります。
組織のメンタリティとして、「顧客との距離を縮め、顧客を活かすことが自社の価値向上につながる」という考え方があるかどうかが、成功を大きく左右します。
一方、顧客と近づくことを当たり前とは捉えない企業文化が存在することも、事実です(ときに“悪”とされることさえあります)。
「顧客を敬い、ときに頼ることは、企業としての弱みではなく、むしろ成長の扉を開く鍵である」というポジティブな認識を、組織内に広めていくことが重要です。
まず、経営トップや部門リーダーは、このマインドセットの重要性を十分に理解し、社内に向けて明確に宣言してください。
そのうえで、日々の業務を通じて繰り返し組織へ浸透させていくプロセスを、丁寧に進めていきましょう。
5-2. スタートポイントを明確にしよう

「顧客のことを考えよう」という掛け声だけでは、組織はなかなか変わりません。自社にとっての向き不向きや始め方を、対象業務 × アプローチで定義し、最初の一歩を明確に決めましょう。
カスタマーレッドグロースの意義が社内で十分に理解されていない場合は、顧客へ貢献できた結果がすぐに現れやすい施策から始めたほうが成果が得られ、社内の賛同を得やすいケースがあります。
それと並行して、「顧客の声や行動が事業に役立つ」という事実を早期に実証し、カスタマーレッドグロースの初動に弾みをつけましょう。
5-3. ファンだけにこだわらず多様な顧客を巻き込もう

カスタマーレッドグロースは、「あらゆる顧客層のちからを成長に活かす」という考え方に基づきます。そのため、「ファンマーケティング」だけを意識しすぎると、別の重要な層を見落とすリスクがあります。
実際に、ファンのアイデアがユニークすぎて参考にならず、ライト層の発想を取り入れたところ大ヒットした例や、熱量が高いわけではない顧客が知識量を発揮して、サポート業務を大いに助けた例が存在します。
また、既存顧客による友人紹介の数も、必ずしもLTV(顧客生涯価値)と相関しません。
知識豊富なユーザーや他社商品と掛け持ちのライトユーザーも、カスタマーレッドグロースにおけるパートナーとして位置付け、その可能性を最大化しましょう。
5-4. インセンティブとスムーズな体験を設計しよう

顧客が企業に力を貸してくれる理由を考えるとき、合理的価値と情緒的価値の両面を備えたインセンティブ設計が欠かせません。
・合理的価値:
割引やポイント還元、友人紹介特典といった、誰にでも分かりやすいメリットを指します。あまり熱量の高くないユーザーやライトユーザーに対しては、こうした合理的メリットが効果的です。
・情緒的価値:
限定イベントへの招待や、運営側からの特別なお礼メッセージといった“特別扱い”で、顧客の愛着や自己重要感を高める手段です。熱量の高いファン層ほど、情緒的価値に反応して継続的な貢献をしてくれる傾向が見られます。
また、顧客に行動を起こしてもらう体験設計もポイントです。友人紹介のプロセスを分かりやすくし、常時アクセスできるコミュニティを用意するだけで、紹介数が劇的に伸びた事例もあります。
単にインセンティブを用意するだけでなく、顧客がスムーズに参加できる体験を整えることが、カスタマーレッドグロースの成果を左右します。
5-5. 長期ビジョンとクイックウィンを両立させよう

カスタマーレッドグロースは、企業文化のトランスフォーム(変容)を伴う長期的な取り組みです。とりわけ初期段階では、リソースを割いても、財務的な指標になかなか反映されにくいケースがあります。
例えば、1年単位で契約を更新するビジネスモデルだと、顧客満足度の向上が売上に結びつくまでにタイムラグが生じるかもしれません。それでも企業として腰を据えて取り組む価値があるからこそ、クイックウィンが重要です。
顧客との共創を目的化しすぎないよう注意は必要ですが、分かりやすい成果が社内に与える影響は大きく、より大胆なチャレンジへの足がかりになります。
KGIやKPIを正しく設定し、短期と長期の成果を両立させることが、最終的に大きな経営インパクトを生むポイントです。
6. まとめ
本記事では「カスタマーレッドグロース」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
最初に、カスタマーレッドグロースの基礎知識として、以下のポイントを解説しました。
・カスタマーレッドグロースは「あらゆる顧客のちからを成長に活かす経営」のことで、顧客が成長の舵を取る新しい成長モデル
・顧客を共創パートナーと捉え直すことが鍵
・製品開発・マーケ・CSなどあらゆる局面で顧客の声を活用
・従来の顧客起点マーケティングよりも先進的なアプローチ
・従業員と顧客が融け合う未来を目指す
今、カスタマーレッドグロースが必要な5つの背景は、次のとおりです。
- 既存顧客の重要性がますます増している
- 労働力不足へ対応しなければならない
- 個人のメディア発信力が高まっている
- 企業と顧客が共創する新たな経済合理性がある
- さらに先を行く「顧客起点」で差別化しなければならない
カスタマーレッドグロースで成功を収めた具体的な事例として以下を解説しました。
- ベースフード(完全栄養食)
- カルビー(スナック菓子)
- ユーザックシステム(RPAツール)
- Spotify(音楽ストリーミング)
カスタマーレッドグロース実現のプロセスを4つのステップで解説しました。
・ステップ1:長期ビジョン・マインドセットを設定する
・ステップ2:起点となる領域を特定し浸透プロセスを策定する
・ステップ3:クイックウィン施策を設計する
・ステップ4:クイックウィン施策実行と長期ビジョン実現を進める
カスタマーレッドグロース成功の重要ポイントは以下のとおりです。
- マインドセットを最優先しよう
- スタートポイントを明確にしよう
- ファンだけにこだわらず多様な顧客を巻き込もう
- インセンティブとスムーズな体験を設計しよう
- 長期ビジョンとクイックウィンを両立させよう
カスタマーレッドグロースは、顧客を深く理解し、共に価値を創造する新しい成長モデルです。自社の特性に合わせて戦略的に導入し、顧客と従業員が融け合う未来を目指していきましょう。